毛玉君潰し、の直前なのです
「あー。理人。
香川の奴、あの、高迫律に泣きついたらしくて、何か、俺や理人への襲撃狙ってるらしいんだけど」
真希が、『銀猫』として毛玉君と会った翌日、学校に行って俺は真希にそんな言葉を言われた。
……高迫律っていうのは、『龍虎』の副総長だ。
あの、まぎれもない強者の、副総長。実質、『龍虎』で一番強いのは、あの男だ。毛玉は飾りだけの総長みたいな感じだからね。
「そう、じゃあ、葉月や会長に動いてもらおうか。それに、麻理ちゃんも動いてくれるって」
俺はそういって、笑う。
麻理ちゃんと翔兄の方から、毛玉君の両親を抑えてもらう事にしたのだ。
毛玉君の両親――、原口夫婦は”最低”に分類される、と俺は翔兄達から聞いた話にそう感想を思わず零してしまった。
原口家は、会社のトップなのだが、それで好き勝手に色々していたのだ。
そのせいで、下の連中がストライキを起こす間近だったらしく、そこを、翔兄達が交渉してくれたとの事。
……原口家の会社の、トップは翔兄と麻理ちゃんが言いくるめて、龍宮家になったらしい。
そうして、原口さん達に翔兄達は話をもちかけた。
―――会社をやめて、今までの人間関係を捨てて、築き上げてきたものを捨てて、毛玉君と一緒にずっといて、閉鎖的な生活を送るか。
―――毛玉君を見捨てて、会社はそのままで、多額のお金を受け取るか。
……その選択肢において原口さん達は、後者をとった。
自分が可愛かったんだろう。
それか、毛玉君はもしかしたら原口さん達にとって、ペットのような感覚だったのかもしれない。
可愛い可愛い、自分の息子。
―――そうして、それよりも、自分の存在が、きっと可愛かったのだろう。
毛玉君に一切かかわらないと、原口さん達は言った。
だから、毛玉君の家が、毛玉君潰しに関わってくる事はない。
毛玉君の両親があんなんだったから、毛玉君はあんな性格になったのかもしれない。
ある意味被害者なのかもしれない、けど……、それでも毛玉君の事は俺は潰す。
「そうか…。俺も理人側で戦うつもりだけど、理人はどうするんだ?」
「俺?
変装して、舞台に上がるつもりだけど?
一応そこそこ喧嘩はできる自信あるしね。
第一立案するだけで、実際に潰しに参加しないとか、俺嫌だし」
「まぁ、それはそうだな。それにしても、高迫律についてはどうする気?」
「それは、葉月に頼むよ。
葉月なら、勝てるだろうから」
俺は葉月に恋愛感情を抱いたりはしない。
だけど、葉月の事友人だと思ってるし、信頼してる。だから自信を持って言葉を続けられる。
「葉月なら、『龍虎』の副総長を、倒す事できるって、俺は信用してるから」
そう、俺は信頼してるし、信用してる。
恋人にはなってやれないけど、仲良くしたいってレベル程度には葉月を俺は気にいってる。
「そうか…俺は、『クラッシュ』の総長とは会った事ないけど、理人がそういうなら、信頼に値するんだろうな」
「そうだね。葉月はいいやつだよ。俺を好きだって言ってこなきゃ、もっといいんだけどなぁ…
そもそもあいつ元々ノーマルなはずなのに、何でこっちに目覚めたんだか…」
俺はそう言って、思わず苦笑いしてしまう。
そうだ、葉月は元々ノーマルだ。
男何か論外と思ってたはずなのに、何故か俺に一目ぼれしたのだ。
そうして葉月は好きになったものは仕方ないと俺にアタックし続けるのである。
「というかさ、『クラッシュ』と『ブレイク』の両方の総長に気にいられてるとか、色々すげぇよな」
「……まぁ、両方不本意だけどね」
真希の言葉にそんな事をいって、俺は話を変える。
「とりあえず、毛玉潰し、頑張ろうよ。
次が、多分最後の仕上げになるからさ」
俺がそう言って笑えば、真希も笑ってくれた。
…本当、うまく潰して、平穏な学園生活を取り戻さなきゃ。
*香川操side
「律っ、俺を俺を苛めるんだ! だから、だから…っ」
律の胸に顔を埋めて、俺は涙を流す。
だって、本当に、悲しくて仕方なかった。
『銀猫』があんなひどい態度とるなんて、俺が好きって言ってるのに。
『銀猫』は悪い奴に色々吹きこまれたんだ! じゃなきゃ、あの『銀猫』が俺を嫌うはずがない!
俺が『銀猫』を正しくしてやんなきゃ。
俺が『銀猫』を救ってやるんだ。
「泣くな…、操」
律はそう言って、俺の背中をなでてくれる。
ああ、律は優しい。
それに『龍虎』の連中も優しい。
そうだ、皆優しいんだ! やっぱり、あの学校が間違ってるんだ。
そういう思いが改めてわいてくる。
「うぅ、律ありがとう」
「泣くな、操は笑ってるのが、一番いいから」
律が笑う。
どこか悲しそうに笑ってる気がして、俺は、律は俺のために悲しんでくれてるんだ! ってそんな気持ちになって。
『銀猫』を救って、俺にひどい態度するようになった、『ブレイク』を潰すんだ。
そうすれば、きっと律も笑ってくれるだろう。
そうだ、俺は皆の笑顔のために頑張るんだ。
『銀猫』を幸せにするんだ。
『銀猫』を正しくしてやるんだ!
ああ。『銀猫』、『銀猫』――――絶対に俺が救ってやるからな。




