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かっこいい麻理ちゃんと会長の気持ち 上

 *篠塚響 side



 「昌士たちがまさかあんな事するなんて最低だ」

 ああ、目の前で操が憤ってる。

 ―――今朝風紀委員の連中が、8名学園をやめ、操の元に風紀委員が誰かを強姦した証拠が送られてきた事を知った。

 やめた風紀委員はあの重度の操信者であった、平野達である。

 操は副会長の時や松崎の時と同じくばっさりと平野達を切り捨てる。

 ああ、と俺は思う。

 操が間違ってるのに気が付いてもそれでも操から離れられない自分。

 一人になりたくない

 そんなただの願望でに操を゛親友゛とする俺。

 そして誰にでも゛親友゛だという操。

 ……客観的に俺たちを見れば馬鹿らしい気がした。

 操はきっと、俺が、平野のような立場だったら、迷わず俺を見捨てるだろう。

 それを思うと少しかなしい。

 操のおかしさに気付かないままなら俺はこんな事きっと気にしなかった。

 そしてそれと同時におかしさに気付けた事に安堵している自分も居る。

 「なぁ、響。

 何で皆最低な事してるんだう?」

 操が言った。

 操の周りの奴らが不自然なほどに次々と消えている。

 松永、担任、副会長、そして風紀。

 この学園であと、操の味方をしてくれる人間はどれだけいるのだろうか。

 そして数少なく残る操の味方が全員居なくなったら、操はどうするつもりなのだろうか。

 「…なぁ、操」

 「ん?」

 「お前、風紀の連中消えて、他に何か思わないのか?」

 「他にって…?

 最低な事してたんだぞ、あいつらは!!」

 本心からの言葉に、そんなんじゃ、風紀の連中も報われないと俺は思った。

 松永も、担任も、副会長も、そして風紀の連中も―――、操を思うがあまりに暴走して消えていったとも言えるのかもしれない。

 もし、操のおかしさに俺が気付かないままだったら、俺が奴らのように暴走していたのかと思うとぞっとする。

 操はすぐに人を”親友”といって、ちょっとした事でその”親友”を”最低”だという。

 「まぁ、それはそうだと、思うけど……。最近操の周りから人が居なくなってんの、どうか思わないのか?」

 「消えていってる?

 皆が悪い事したから悪いんだろ?それに俺には他にも沢山親友が居るんだ!

 暁に、隗に、螢に、義彦に、由月!それに、美乃とか、響だっている!

 匠だっているし、あの最低な親衛隊につかまってる千春と真希も助けてやんなきゃ!!」

 操の言葉に、俺は思わず頭を抱えたくなる。

 ……柏木も、菅崎も望んであの、佐原の隣に居るのが、見ていてよくわかる。

 脅えるような瞳をしていた柏木も、佐原の前では笑ってる。

 あの、ヤクザの息子であり恐れられてる菅崎も、佐原の前では何処までも楽しそうだ。

 それなのに、佐原が、二人を無理やり連れていっているとか…、俺はどうすればいいんだろうか。

 何度も、俺は操に言ったんだ。

 柏木達は、別に脅されてないって。

 それでも、操は聞く耳を持たなくて、どうすればいいかわからない。

 むかつく奴は今まで殴って、言う事聞かない奴は今まで殴って、そして言う事を聞かせてきた俺だけど。

 操は、俺よりきっと強いだろうし、きっと、そんな事をしても操はかわりはしない。

 一人になるのが、いやだ。

 そればかり思う俺は、操についてまわって、そうして、本当に仲良さそうな佐原、菅崎、柏木を見かけると、少し羨ましくなる。

 俺の性格に問題があったのかもしれない。

 暴力ばかり振るってた、俺。

 恐れられて、友人なんて居なかった、俺。

 だから、操が俺に脅えなかった時、本当に嬉しかった。

 操が笑いかけてくれた時、嬉しかった。

 「…操、柏木達はきっと望んで佐原と一緒に居るぞ」

 だから、何度も説得しようとした。

 俺にとって、操は友達だから。俺を怖がらないでいてくれる、存在だから。

 そのおかしさをどうにかできないかと期待して、俺は言うのだ。

 「何をいってるんだ!

 あいつは俺を殴ったりしたんだぞ。それに、俺の言葉聞いてくれないし。俺の親友になってくれないとかおかしいんだ!」

 だんっ、と自身の机をたたく操。

 俺はふぅとため息を吐く。

 そんな中で、教室の扉がひらかれた。

 ――龍宮麻理、その存在が教室の中へと入ってくる。

 そういえば、新しい担任と操が対面するのは初めてのはずだ。

 操は基本的に生徒会室や、第一会議室にばかり居たから。

 「なぁ、響!

 あれが正典の後の担任!? 女が居て大丈夫なのか?」

 …大丈夫も何も、あの龍宮家の当主、龍宮翔の妻である担任はしょっぱなから男達を蹴散らす、相当な強さを持っている。

 俺はそれをちゃんと知ってる。というか、その喧嘩の現場見てたからな。

 「そこ、煩い」

 担任の声が、操へと向けられる。

 黙れ、とでも言うような睨みを利かせる、担任。

 「なぁなぁ、先生って名前何ていうんだ?」

 「…口のきき方には気をつけなさい。あたしは教師であんたは生徒なのよ?普通敬語を使うでしょう、初対面なのわかってるかしら?」

 担任はそう言って、操をきつく睨みつけた。

 外見はか弱い女性に見えるのに、そこに存在する強さは確かなものだ。

 「そんな意地悪言うなよ。

 あ、そういえば先生は渉の弟の奥さんなんだよな?」

 「……」

 笑顔で話しかける操と、無言でそれを聞いている担任。

 何だか、無言の圧力があるのに、操はそれに気付いていない。

 「なぁ、名前何て言うんだよ?」

 「……」

 「無視するのか! そんな事しちゃいけないんだぞ!」

 喚いている、操。

 怒っている、担任。

 そうして、担任は、操が喚いている中で、言葉を発した。

 「黙れ、クソ餓鬼」

 そんな冷たい言葉に、冷や汗が流れた。






 *香川操side


 「黙れ、クソ餓鬼」

 そんな声に、俺は思わず拳を握った。

 何だ、こいつ、何だこいつ!!

 せっかく俺が、名前を聞いてるのに。

 渉の弟の奥さんだって言うからいい人かと思ったのにっ。

 いきなり初対面でクソ餓鬼なんて言うなんてっ。

 「そんな言い方ないだろ! いきなりクソ餓鬼なんていうなんて最低だ!」

 「最低も何もあるか、お前は人の話が聞けないのか?

 あたしは教師でお前は生徒だ。敬語を使えといってるんだ」

 「何でそんな意地悪言うんだよ!」

 「意地悪じゃない、常識だ。上下関係というものがわかるか? わからないとか言うなよ?」

 「意地悪言うなって! お前の名前何なんだよ」

 それに名前も教えてくれないなんてっ。

 意地悪ばかり言うし、俺と仲良くできるっていうのにっ。なんで頷かないんだ。俺が仲良くしてやるっていっているのに。

 思い通りにいかなくて、苛々する。

 「他人に聞くときは自分から名乗れ。そして何であたしがお前に名前を教えなきゃいけないんだ? お前と仲良くするつもりはない、そしてしたいとも思わない」

 何だ、俺の名前を知らない!?

 何で? 俺の名前は皆知ってるものなのに。

 だって父さんも母さんも、皆、俺は愛されてるんだって、俺の事を皆見ててくれるんだって!!

 俺が可愛いから危険にさらされないように皆見ていてくれてて、俺は皆に注目されちゃう存在何だって、俺に言ってたのに。

 何でこの先生は俺の事知らないんだ?

 それに俺と仲良くしたくないって、おかしい!

 俺がせっかく仲良くしようとしてるのにっ。

 俺と仲良くしたいのが当たり前のはずだろ、それなのに、どうして、何で!?

 「何で俺の名前知らないんだよ! それに俺が仲良くしたいって言ってるのに何でそんな意地悪言うんだ…!」

 「……噂通り、いや、噂以上に宇宙人ね、お前は。

 言葉が通じない、言語が理解できていない。そもそも、どうしてこのSクラスにお前が入れたのか、謎よ」

 「何で、んなひどい事言うんだよ! お前なんて悪い奴だ!」

 そう言って、俺は先生に向かって言葉を放つ、それに対し先生は……、

 「ははっ、やばいわよ、爆笑物。注意されたからひどい奴って何処の餓鬼なのよ?

 反吐が出るわ、お前みたいなの見てると。

 どのように育てたらお前みたいな人間になるのかしらねぇ?」

 笑って、呆れたように、馬鹿にしたように口にする。

 こいつ、父さんと母さんを馬鹿にした!

 俺を立派に育ててくれた、大好きな両親なのにっ。

 「父さん達を馬鹿にするなぁ! お前なんかより優しいんだからなぁ!!」

 「うわー、ひどいわね。本当。優しいっていうより、甘やかしてるだけでしょ。

 てか、まともな人が育てたらお前みたいなの育たないから」

 先生はそう言って、俺を見る。

 冷たい瞳、両親達が向けるのとは違う瞳。

 何で、何で、俺にそんな瞳を向けるんだ!

 俺は愛される存在なのにっ!

 「そんな事言うなぁああああ!」

 頭に血が上った俺は、先生を黙らせたくて、立ち上がり、先ほどまで座っていた椅子を、先生に向かって投げた。

 これが、ぶつかれば、先生だって黙ってくれるはずだ!!

 大体、人の両親馬鹿にする悪い奴なんだから、痛い目見ても仕方ないんだ!!

 「ちょ、操……」

 後ろで響が何か言っている。

 だけど、そんなのどうでもいい。

 投げた椅子は……、先生には当たらなかった。

 ゴンッという音を立てて、それは壁にぶつかり、地面に落ちた。

 …先生は椅子を避けたのだ。

 「何で避けるんだよ!」

 「何で避けるんだじゃないわよ!」

 先生は、そう言って、俺を怒鳴りつけた。

 そして俺に向かって近づいてくる。

 「お前、今何したかわかってんのか? 椅子投げたんだよ、椅子!

 そんなもの人にぶつけていいわけないでしょうが」

 「なっ、先生が、父さん達を馬鹿にするからわりーんだろ!!」

 そこらへんにあったものを、次々と先生に向かって投げる。

 早く謝れ!

 お前が悪いんだから、謝れ!!

 そればかり思いながら一心不乱に投げる。

 だけど、先生はそれら全てをよけ、払いのけた。

 そして先生は、

 「お前は馬鹿か!」

 そう言って、俺に向かって拳を振りおろした。

 ――はやっ。

 その拳は早く、俺は避ける事が出来ない。

 そうして、その拳は俺の顔面へとめりこみ、俺は吹き飛ばされた。

 「――――っ」

 そして、勢いよく地面に体をぶつけ、俺はそのまま、痛みに意識を失った―――。





 *龍宮理人side



「へぇ、じゃあ千里先生、林檎さんと付き合いだしてもう4年なんだ?」

 俺、佐原理人は授業をサボって、保健室に来ていた。

 何故かって、千里先生と話そうかなと思って。

 ちなみに、今は春ちゃんもいる。

 何でも、教室の方にいったら、毛玉君が暴言吐きまくってて怖くて逃げてきたらしい。

 うん、可愛いよね。

 「ああ、近々林檎にプロポーズしようと思ってる」

 そして、保険医の千里先生の彼女が、林檎さんって言って、俺も会った事あるんだけど、美人っていうより可愛い人なんだ。

 で、プロポーズっていう一大決心をしてるらしんだよね、千里先生は。

 「へぇ、かっこよく決めるべきだよ! そこは。その時はちゃんと、身なりを整えて、かっこよく言っちゃえば、林檎さんだって、イチコロだよ!

 だって、千里先生素は滅茶苦茶美形だし、いい人だし」

 「はは、そうか?」

 「うん、そーだよ。

 まぁ、その美形な顔はこの学園で出さないのは正解だよ。この学園って本当美形に人寄ってくるから」

 そう、千里先生は同性愛者に迫られないためにボサボサの髪にして、わざと見た目を悪くしている。

 頭いいよね、流石千里先生。

 千里先生、林檎さん、一筋だからなぁ。そういうのいいなぁとは思う。

 「まぁな…。

 ところで、理人や柏木は恋人居ないのか?」

 「ん? 俺、いないよ。

 此処二年ぐらいは色々忙しかったし、それに今好きな人とか居ないしなぁ」

 「俺もいない。

 というか、俺もてないし…」

 もてないねぇ?

 俺は春ちゃん、可愛いと思うんだけどね。

 毛玉君なんかより、何十倍も。

 「安心しなよ、春ちゃん。

 春ちゃんは滅茶苦茶可愛いから!」

 そう言ってにっこり笑えば、春ちゃんは顔を赤くして、

 「嬉しくないよ、可愛いって言われても」

 なんて、言う。

 穏やかな時間。

 春ちゃんと千里先生と会話を交わして、のんびりと過ごす。

 そんな中で、ガラッと、保健室の扉が開かれた。

 「よ、千里。

 これ怪我人」

 ……入ってきたのは麻理ちゃんだった。

 そして、麻理ちゃんがコレといった先を見ると、猿渡君と和志先輩に抱えられている、毛玉君がいた。

 頬に、殴られた後がある。

 「麻理! お前、何やってんだ…」

 「あれ、千里先生、麻理ちゃんと知り合いだったの?」

 どうやら知り合いのような二人の会話に俺は首をかしげた。

 「何って、あまりにも宇宙人だったんで、ついな…。

 そして、理人。お前千里と仲良かったの?」

 「俺結構保健室来てるしね。それに千里先生いい人だし」

 「ふむ、そうか。

 あたしと千里の関係はだな、大学の先輩と後輩だ」

 「へぇ…」

 というか、先輩の千里先生を呼び捨てにしているあたり流石、麻理ちゃんだと俺は思う。

 そして、毛玉君を運んできた、猿渡君と和志先輩はというと…、

 「理人さん、知り合いだったんですか? 麻理先生と! というか、香川、殴られていい気味ですね!

 俺、香川のせいで理人さん困ってたから何だか嬉しいです」

 「おー、新任教師と知り合いなのか、理人」

 嬉しそうに二人は言った。

 そして、猿渡君と和志先輩は乱暴に保健室のベッドに毛玉君を寝かせる。

 和志先輩は、毛玉君をベッドにやると俺に詰め寄ってきた。

 「なぁなぁ、理人。こいつが理人の救出したっていう、柏木だよな。

 いいね、平凡! 平凡受けだよ、きっと君は。てかその素質あるって!!」

 「えっと…?」

 和志先輩…、春ちゃんびびってるから、いきなり詰め寄ってそんな事いったら絶対にびびるから。

 まぁ、ビビってる春ちゃん可愛いけど。

 「ところで、麻理と理人ってどんな知り合い?」

 「まぁ、理人はあたしにとって弟のようなもんだ!」

 隣では麻理ちゃんと千里先生が会話を交わしている。

 俺は毛玉君にちらりと視線を向ける。

 モサモサの髪に、いかにもな眼鏡…。

 あ、ちょっと悪戯心がわいてきた。

 うん、和志先輩にちょっと話を持ちかけてみよう。

 「平凡受け……やっぱ此処は理人みたいな奴が責め?いや、それとも……ブツブツ」

 何か、ブツブツいってる和志先輩に俺は近づく。

 そして、俺は笑って言った。

 「ねー、和志先輩。

 和志先輩がいつも読んでるBL小説さ、王道転入生って奴が変装してるんだよね?」

 にこにこと笑いながら俺が言えば、和志先輩の目が輝いた。

 「もち! 変装万歳だよ! モサモサの髪の下、ぶあつい眼鏡の下に隠された素顔……。

 美しかったり可愛かったりするのが、王道なんだぁあああ!」

 「……和志先輩落ち着きましょう」

 「てか、そういう話してきたってことはまさか、この毬藻の奴、変装してんの? なぁ、してんの?」

 うわー、和志先輩のテンションが滅茶苦茶高い。

 まぁ、好きな事語ってるからだろうけど。

 目をキラキラさせてそんな変装に食いつくなんて、本当和志先輩らしい。

 そんな和志先輩に、和志先輩が喜ぶ言葉を俺は言う。

 「変装してるって情報はもらってるよ。

 だからさ、和志先輩、香川君が眠ってる間に香川君の変装解いちゃわない?

 で、ちょっと素顔拝んじゃおうよ」

 「マ・ジ・で!?

 ちょ、それはマジ王道?王道なの?

 変装って、隠された素顔ってぇえええ」

 「え? 操って変装してたの?」

 「ほぉ、この宇宙人変装なんてしてたのか。拝むのもいいかもしれないわね」

 「…こいつの変装とか正直どうでもいい」

 それぞれが反応を示す。

 というか、千里先生に至っては心底興味なさげである。

 それにしても、毛玉君の素顔………、写真に撮ってれば脅しのネタにぐらいあるかな?

 そんな事を考えながら、俺は毛玉君に近づく。

 隣には、目をキラキラさせた和志先輩がいる。

 「隠された素顔! その響きがもう最高。

 これで性格良ければ王道転入生として最高だったんだがな…」

 ブツブツいう和志先輩の声を聞きながら、俺はまず、毛玉君の眼鏡をはずす。

 そして、次にその髪を強く引っ張った。

 ……もちろん、カツラなので、すぐにとれた。

 そして毛玉君の素顔が露になる。

 「おー、金髪だねぇ」

 「変装キターーーッ!!

 金髪とか不良じゃん、不良、これでどっかの総長とかだったりしたらマジ王道!」

 …和志先輩が騒いでるが、『龍虎』の総長だという事は言わないでおこう。

 また煩くなりそうだし。

 …毛玉君の髪は金髪だった。

 綺麗な明るい金髪に染められた、サラサラの髪。

 それが、毛玉君の素の髪らしい。

 良く見れば顔立ちは前髪で隠れていたが可愛らしいほうであるし、肌は白い。

 とはいっても、こんな毛玉君の外見の良さなんて、性格の問題で埋もれているけれども。

 「操ってこんな外見で何で変装してたんだろ…?

 変装じゃなくて、普通に学園に来てれば、うちの学校なら親衛隊できそうなのに…」

 「そりゃあ、春ちゃん。香川君にも色々あるんだよ」

 『銀猫』――真希に会いたいけど、『ブレイク』にメンバーがいる場所に変装なしで来るのはまずいと思ったのだろう。

 まぁ、真希が言うには王道転入生というのは、周りに言われて変装したりするものらしいが。

 「ほぉ、宇宙人はこんな外見をしていたのか。

 というか、変装するなら、髪染めるぐらいしてくればよかったものを…。

 第一、こんなモサモサの髪じゃ何かありますって言ってるようなものだとあたしは思うのだが」

 麻理ちゃんはそんな事を言いながら汚い物を触るかのような態度で、そのカツラをつかんでマジマジと見ていた。

 「理人さん!

 こんな奴より理人さんの方が綺麗です!」

 「そう?

 とりあえず俺こいつの写真撮っとく」

 俺はそう言って、ポケットからスマホを取り出し、パシャリッととる。

 何枚か撮って、真希の携帯へと送信しておいた。

 そうしてカツラと眼鏡を戻しておく。

 「さて、千里先生、麻理ちゃん。

 俺、香川君と一緒に居るの嫌だし、春ちゃん、行こう。

 猿渡君と和志先輩はどうする?」

 「俺はちょっと電話かける!

 夏実にこの事を報告しなければ!」

 「あ、俺は教室戻ります!」

 和志先輩と、猿渡君はそれぞれ答える。

 ちなみに、夏実ってのは和志先輩の彼女らしい。

 俺は会った事ないけど…、きっと腐ったトークでもするんだろう、恋人同士で。

春ちゃんは、とてとてと俺の隣にやってくる。

 そうして、俺と春ちゃんは、皆に別れを告げると、保健室を後にした。

 「春ちゃん、どうする?

 教室戻る?」

 「んー、俺は戻りたいかな。

 授業ついていけなかったら困るし」

 「春ちゃん真面目だねー。いい子いい子」

 俺はそう言って、春ちゃんの頭をなでまわす。

 本当、春ちゃんって俺と違って真面目でいい子だよね。

 俺って、一応主席だけど、サボりまくってるし。

 春ちゃんが次席なのは、春ちゃんが頑張った証だしね。

 俺なにかに一生懸命になれる子好きだし。

 「こ、子供扱いしないでよ…」

 恥ずかしそうに春ちゃんは言う。

 …うん、可愛いよね!

 俺と春ちゃんが、教室へと向かっていれば、

 「理人君!」

 愛ちゃんの声が響いた。

 「愛ちゃんじゃん、どうしたのー?」

 「ちょっと来てもらってもいい?」

 愛ちゃんはちらりと、春ちゃんを見る。

 そういえば、春ちゃんと愛ちゃんって会った事ないよね、確か。

 「春ちゃん、この人、光永愛斗って言うんだ。先輩なんだよ。

 で、愛ちゃん。こっちが柏木千春、俺のお友達!」

 にっこりと笑えば、互いに挨拶を交わす二人。

 何か二人とも可愛い系だから、見ていてほほえましいものがある。

 「あ、そうだ。千春君、理人君の事借りてもいい?」

 「はい。俺は授業行くので…気にしなくていいですよ」

 春ちゃんはそう言うと、笑って、その場を後にする。

 残されるのは、俺と愛ちゃん。

 「それで、愛ちゃん、用事って何?」

 「あのね、理人君、暁様が理人君に会いたいって」

 愛ちゃんの言葉に、一瞬驚いた。

 会長が、俺にわざわざ何の用だ?

 全く見当もつかない。

 俺、会長の事好きじゃないし、接触持つの面倒なんだけど…。

 まぁ、愛ちゃんが頼むなら行ってもいいかな。

 そんなわけで俺は愛ちゃんについていくことにした。


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