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『お待たせ致しました。どのような情報が御所望ですか?』
『ルーキー。近場。女』
『かしこまりました。ではお客様のGPS情報を拝見してもよろしいでしょうか?』
『送った』
『確認しました。お客様の現在位置から半径5km圏内に、女性のルーキーサイコパスが1名確認されました。こちらの個人情報でよろしいですか?』
『くれ』
『かしこまりました。ちなみにご予算は?』
『5万』
『それでしたら廉価版のデータベースから顔写真とプロフィール、主な行動範囲のみの御提供となりますがよろしいでしょうか?』
『いいからはよしろカス』
『了解しました。では送金が確認出来次第、情報を送信します。またの御利用をお待ちしております』
「っとによぉー、写真とプロフと出現場所だけで5万とかぜってーボッタだよなぁ。糞うぜぇ」
男は眠そうな表情でグチグチと文句を吐き捨てながら、携帯端末を操作する。
彼が先ほどまでチャットでやりとりしていたのは、精神異能者御用達の情報屋。
情報屋とは、有益な情報を二束三文で買い叩き、情報弱者相手に高値で売り飛ばす連中の総称である。
そんな輩から彼が購入した情報……それは―――
「おっ、来た来た……んん!? 結構可愛いなぁ。ちょっと貧相な身体つきだけど」
画像データを見た途端、男のテンションが急上昇する。
少し短めなセミロング。
くりっとした眼に健康的なスレンダー体型。
華はないが、マニアックな趣味の男にはたまらない造詣だ。
「名前は一之瀬 莉子……うわっ! こいつ精神異能者になってまだ1ヶ月も経ってねーし! カモやん!」
男は新参者精神異能者のみを専門に狩っていた。
情報屋からチョロそうなカモの情報を仕入れ、それを容易く打ち負かし、“あること”を為して己が欲望を満たす。
そして、力量が同等かそれ以上の相手に対しては、卑怯にもコソコソと逃げ回る
自分より圧倒的に弱い相手しか狙わない……唾棄すべき、ドブネズミのような男であった。
そんな彼が今回目を付けた一之瀬 莉子。
情報を入手してから2時間ちょっと張り込んだだけで、彼女は容易に捕捉出来た。
安っぽくて古臭くてこきたない商店街……夕食の材料を買って家路を急ぐ主婦に紛れて、彼女はいた。
……だが。
「ううーん……」
「えっと……な、なにか御用かしら?」
携帯端末にディスプレイされた画像と目の前の少女を見比べて、男は唸った。
一之瀬 莉子の出現スポットに張り込み、それらしき女を見つけて呼び止めたところまでは良かった。
……だが、どうもおかしい。
まず髪の長さ。
盗撮されたであろう写真では短いセミロングなのだが、実物と思われる彼女の髪は背中まで伸びていた。
撮影されたのは1ヶ月前らしいのだが、1ヶ月やそこらでそこまで髪が伸びるだろうか?
そしてもうひとつ、左の頬にある泣きぼくろ。
写真の彼女には、そんなものはない。
極めつけは服装の野暮ったさである。
暗色のチュニックにロングスカート、おまけにエプロンドレス。
買い物用のエコバックまでぶら下げてお前はどこの主婦かと突っ込みたかった。
女子高生という期間限定ステータスを完全に無視したあるまじきコーディネートに、男ながらも憤らずにはいられなかった。
ちょっとはオシャレしろと言ってやりたかった。
もっと腕にシルバー巻くとかさぁ。
「……おまえ、一之瀬 莉子だな?」
「はい? あっ、え、えっと……ち、違い……ます、けど」
「ぁあん?」
確認のための質問も、なんだか歯切れが悪い。
目が泳いでいるうえに、なにかを逡巡する様子……
嘘をついているようにも取れるし、変な男に絡まれて迷惑しているようにも見える。
おそらくは、その両方であろうと男は踏んだ。
「怪しいな。ならあんたの名前を聞かせてもらおうか?」
「べ、別にいいですけど……人に名前を尋ねるならまず自分が先に名乗るべきじゃないのかな? ボク?」
「ぼ、ボク……だと……?」
少女は大人びたふうにそう呟くと、まるで子供をあやす時のような柔らかな視線で見つめてきた。
それに対して男は、2歳年下の女の子に子供扱いされて顔をしかめている。
読めない。
この女の意図が、まるで読めない。
男は荒れる心を抑えながら、自らの名を呟く。
「……金井 天馬だ」
「へぇ~、天馬君かぁ。あたしは西山 優子、見ての通りのしがない専業主婦よ。よろしくね天馬君」
「ちょっと待てや! おかしいだろ!」
「え? なにが?」
「なにが? そりゃこっちのセリフだ! 専業主婦ってなんだよ! おかしいだろ! おまえ確か高一じゃねーのか!?」
「えっ? や、やだっ、それってもしかして口説いてるの? 困っちゃうなー、あたしこう見えても天馬君くらいの歳の子供だっているのよー? ねぇねぇ? あたしってそんなに若く見えちゃう?」
「…………」
優子と名乗った少女は、頬を染めながらいやいやと身体を振って抑えきれない喜びを表現する。
そんな彼女のリアクションに、天馬は困惑の色を隠せなかった。
年増が若作りするならまだしも、女子高生が主婦のフリなんて普通するか?
人違い?
粗悪なガセ情報を掴まされたのか?
「まぁいい……“これ”を見せりゃ、シラなんて切り通せなくなるだろうよ!」
天馬はそう言いながら、優子と名乗った女に己の右手を見せる。
その指先には精神異能者にしか見えない特殊な炎・点火が燃え盛っていた。
「え、ええっと……その手が、どうかしたの?」
「へぇ……あくまでとぼけるつもりか? だったら……こういうのはどうだ?」
それでも顔色ひとつ変えずにいる彼女を見て、天馬は業を煮やしてその精神エネルギーを具現化させる。
次の瞬間、彼の傍らには大型乗用車を模したような精神武装が展開。
古臭いデザインの外車のようなフォルムをしたそれは、まるで肉食獣のように唸りながら主の命を待っているかのようであった。
「見えてるんだろ? こいつが。俺の、精神武装が。いい加減認めたらどうなんだ? え?」
「……ご、ごめんなさいっ。あたし、君がなにを言ってるのか、本当に分からないの」
「ぁあん? 眠たいこと言ってんじゃねーよ。寝ぼけてんなら眠気覚ましにこいつで通行人を何人か轢き殺してやろうか? あ?」
下衆な考えを口走りながら、天馬はゆっくりと指先を商店街のほうへ向ける。
それに呼応するように、大型車両型精神武装が、のろのろとその方向へ鼻先を向ける。
ガオンガオンと、精神異能者にしか聞こえない耳障りなエンジン音を鳴らしながら。
「あ、あたしっ、もう帰るね? たっくんに夕ごはん作ってあげなきゃいけないから……」
「ああそうかい。好きにしなよ。俺も好きにやらせてもらうわ。あーあ、それにしても罪もない一般人が犠牲になるのって、悲しいよなぁー」
「…………」
「でもしょーがねーよなー。喧嘩売ろうと思ってた精神異能者が、見つからないんだもんなぁー。フラストレーション溜まるわぁー。誰でもいいから轢殺してーわー。誰にしよーかなー」
「…………」
「よーし、あの親子連れ辺りでいっかなぁ。仲良さそうにおてて繋いじゃって、ああいう幸せアピールがムカつくんだよなぁ。不快だなぁ。不快害虫だなぁ。こりゃ通りすがりの精神異能者様が思わず攻撃しちゃってもしょうがないよなぁ」
「…………」
「んじゃ早速ぶっ殺して―――」
「……めなさい」
「ぁあん? 今、なんつった?」
「やめなさいって言ったのよっ!! このバカっ!!!」
「ふごっ!?」
彼女の声に振り返った天馬の鼻先に炸裂したのは、直角に曲げられた腕。
屈強な外人レスラーによって編み出されたその斧のような鋭くもパワフルなラリアートは、俗にアックスボンバーと呼ばれて恐れられている。
その強烈無比な威力の前に、天馬は煉瓦が敷き詰められた歩道に背中から、盛大に倒れこんだ。
「ぐおお……ッ! て、テメェ! や、やっぱり精神異能者だったなッ!?」
「っとにもー! あんたのせいでせっかくの“気分”が台無しじゃないっ!! どーしてくれんのさっ!!」
「げほっ、な、なにわけの分かんねーこと言ってんだ! ああちきしょう、新参者のくせにこの俺に鼻血まで出させやがって!」
「なに言ってんのよっ! 関係ない人を巻き込もうとしたあんたが悪いんじゃない!!」
「うっ……く、くそッ! 生意気言いやがって! 後悔させてやるッ!!!」
「なによ、やろうっての!? 冗談じゃないわよっ! こんな人が多い場所で……ッ!!」
「あっ!? テメェ!! 待ちやがれ!!」
「やーだよっ!」
少女は慌てて身を翻す。
人通りの多い場所で精神武装を展開して戦うのはまずい。
そう判断し、闘いの舞台を移すつもりなのだ。
「えっと、確かこの角を曲がったところに……あったっ!!」
そこは商店街からほど違い場所にある、老朽化が原因で使われなくなった片側2車線の比較的大きな橋。
取り壊しが開始されているせいで対岸側は重機で封鎖されて渡れないが、ここならいくら暴れても一般人を巻き込まずに済む。
少女は腰の高さほどのバリケードを軽々と乗り越え、その橋へと侵入する。
「よぉよぉ、どうした? そっちは行き止まりだぜ? ぁあん?」
「別に、もうこれ以上逃げるつもりなんてないわよ。ここでケリをつけてあげる」
「へぇー威勢がいいなぁ。新参者ちゃんのくせによ」
「……なによあんた。そんなに目を血走らせて、一体なにが目的なわけ? 縄張り?」
少女は手首と足首をほぐし……男を見据えて呟く。
天馬は『工事中』と書かれたバリケードを蹴倒し、薄汚れた革ジャンのポケットに手を突っ込んだまま、少しだけ言いにくそうに言葉を紡いでいく。
「あ? 別に、んなモンには興味ねーよ。俺はただ、発散したいだけなんだよ。この、溜まりに溜まった性欲をなぁ」
「はぁ!? せ、性欲って……あ、あんたっ! あたしにえっちなことでもしようとしてるわけ!? 最低!」
「いやいや、違う違う。俺のエロスってのはちょっと特別なんだよ。ホントそういう卑猥なのじゃーねから、マジで」
「じゃあなんだってのよっ!!」
「…………」
「なっ!? ちょ、な、なんで顔赤くして黙ってんのよっ! やっぱエロじゃん! 変態っ! もーなんで精神異能者ってみんなこう揃いも揃ってスケベなわけ!? 信じらんない!!」
「や! 違う! 違うんだよ! この沈黙はだな、『俺の性癖を説明しても、きっと理解して貰えないだろうなー』っていう意味での沈黙なんだよ!」
「なによそれ! 黙ってるほうが余計怪しいわよっ! 卑猥じゃないってんなら言っちゃいなさいよっ! ほらっ!」
「あー……そ、そこまで言うならぶっちゃけるけど、引くなよ?」
「それは内容次第なんだけど」
「まぁ、そうだよな。じゃあ教えてやるわ」
「うん」
「…………」
「…………」
「……ホントに引かない? 俺こう見えて結構ナイーブなんだ」
「だから内容次第だって」
「だよな」
「うん」
「じゃあ教えるけど……」
「…………」
「…………」
「……まぁ、出来れば引かないで欲し―――」
「うるさい! しつこい!!」
「分かった分かった、そう怒鳴るなよ……ったく」
なんだかこの女のペースに乗せられている気がしなくもないが、なんとなく流されてしまう天馬。
ストイックに淡々と新参者を嬲って事を終えるタイプの彼にしては、こういうやり取りを交わすことはかなり珍しいことであった。
「あー……お、俺はな? なんてーか……その、車に轢かれた女じゃないと、その……興奮しねーんだわ」
「……はい?」
「うん、そういう反応すると思ってた。まぁ事の発端は俺んちの家庭環境にあったんだわ。俺んちの両親てのがふたりとも教師でよ、これがまた厳しいんだよ。ゲームはおろかテレビも有害だって決め付けて見せてくれない、おもちゃは積み木と知育パズルだけ。周りの友達はドラゴンライダーごっことかやってるけど俺はテレビも見せて貰えないから仲間にも入れない。公園の遊具は危ないから触っちゃダメ、砂遊びは汚いからダメ、どんぐりを拾っちゃダメ、カブトムシもダメ、ダメダメダメ。全部ダメ。ホント、刺激のない幼少期で滅茶苦茶抑圧されてたけよ」
「それと変な性癖がどう繋がってくるわけ? 意味が分からないんだけど」
「話は最後まで聞けよこのコスプレ女」
「こっ、コスっ……! こ、これはっ、ちゃんと理由があってやってんのっ!!」
「まぁそんなこたぁどーでもいいわ」
「な、なによそれ……」
「で、だ。そんなある日、子供の俺は、とっても刺激的なものを目撃しちまった。女がトラックに撥ねられる瞬間だ。……丁度テメェくらいの背格好の、子連れの主婦だったな。女の人が轢かれて無残に横たわる姿とか、アスファルトに広がる赤い血とか見てて……初めて“勃起”、しちまってよ。それからというもの、小5の頃に土手で拾ったエロ本を見ても、中2の頃にエロい友達に借りたエロDVDを見ても、高1の頃学校で一番可愛かった亜美先輩とセックスしようとしても、俺の股間はピクリとも反応しやがらず沈黙を守り続けた。当然だ。そんなものよりも断然エロくてショッキングなものをガキの頃に見ちまったんだ、今更そんなモンで勃つわけねーだろ。俺を勃たせてーなら轢かれた女連れて来いってんだ。というわけで、俺は齢18にして抑え切れなくなった欲望を、弱い女の新参者精神異能者を自慢の精神武装で惨たらしく轢いてはマスをかく素敵な好青年になりましたとさ。めでたしめでたし」
「…………」
「…………」
「…………」
「……どうだ? 引いたか?」
「うん、引いた」
「そうか。じゃあ俺もお前を轢くけど、いいな?」
「ダメに決まってるでしょ」
「無理だ、もう決めた。おまえを轢く。だいたい1ヶ月ぶりなんだぞ? 止められるわけねーだろ! もう一度見せてやるぜ、俺の精神武装『ハイウェイマン』をな!」
天馬の点火が爆ぜ、またもや大型乗用車型の精神武装が生成される。
耳障りなエンジン音に角張った車体。
緑色をした、72年型キャデラック! エルドラド!
「しゃあーーっ! どうだ! この洗練されたフォルム! カチッとしたフロントに育ちの良さそうなケツ! キング・オブ・アメ車の風格! そしてこのエンジン駆動音! くぅ~~~~~っ!! 免許取ったらぜってー実車乗るぞーー!!」
「へぇ……それがあんたの精神武装ってわけ?」
「ああそうさ! 俺の湧き上がる欲望を満たす相棒! ハイウェイマン!! 今からこいつで……おまえを轢殺してやるッッッ!! 行けぇハイウェイマン!! 派手にぶっ飛ばしてやれ!!」
叫んだ瞬間、鋼鉄の怪物を模した車両型精神武装が唸りをあげる。
すぐさま最高速度に達し、少女の身体を貪り食うために爆走する。
「ぃやっほぉーーーー!! ゴキゲンだぜぇ!! だが安心しろ! 本当に殺すわけじゃねぇ、ちょっと眠って貰うだけさ! まぁ事後にちょっと汚れるだろうがな、いろんな意味で!!!」
「もう、しょうがないなぁ。だったら、あたしもっ―――!」
「なにっ!? おッ!? おおおおぉっ!?」
少女の腕が青白く輝く。
天馬が生成した点火などとは比べ物にならない、業火。
それを己が足元へと叩きつけた刹那、強烈な熱風が吹きすさぶ。
刹那、アスファルトを割って展開されたのは……マグマのように赤い灼熱の大剣!
「み、精神武装!? ちきしょうテメェ、新参者じゃなかったのか!?」
「はぁ? いつの話よ。あたし、もうとっくに完全覚醒してるんですけど」
「糞ッ!! これだから廉価版の情報はッ! ……まぁいい! 完全覚醒していたとしても、所詮は新参者! 俺の洗練されたハイウェイマンに勝てるわけがねぇ! そのまま轢き潰されろッ!」
「はぁ……これ使うと自分が自分じゃなくなりそうで嫌なんだけど、まぁいいわ。少しだけ協力してよね? ヴォルケイノ」
彼女はそれを片手で軽々と引き抜きながら、ぶっきらぼうに言い放つ。
そして―――少女の言葉に呼応するように、刀身からスチームを噴出する精神武装・ヴォルケイノ。
目の前まで迫った緑の怪物マシーンを前にしても、彼女の顔は涼しげ……いや、冷淡ですらある。
「よしそこだぁ! 殺―――」
「ほい」
「るぇえええええ!?」
決着はまさに一瞬でついた。
軽々と振り上げられた大剣。
空高く舞い上がる緑色の屑鉄。
天馬の精神武装・ハイウェイマンが、惨たらしく空中分解しながら、慣性飛行している。
少女が放ったのは、神速の斬り上げ技。
その一撃だけで、ケリがついてしまったのだ。
「そ……そんな……お、おれの……は、はいうぇいまんが……いち、いちげきで……あ、あぁ……ひ、ひどい……」
「はい、おしまい。じゃ、あたし用事あるから」
「ちょ、ちょっと待てっ!」
「……あによ。まだなんか文句でもあんの?」
「ひいぃ!? ご、ごごご、ごめんなさい! も、文句なんて、め、滅相もないです、はい……た、ただ……」
不機嫌そうに睨んでくる少女に、天馬はあからさまに怯えて尻餅をつく。
自分の力の象徴であるハイウェイマンを、こうもあっさりと粉砕されてしまったのだ。
精神的ダメージは計り知れない。
おそらく、しばらくは立ち直れないであろう。
「てめ……い、いえ、あ、貴方様は結局、どなた様なんですか……?」
「え? あー……えっと、今は西山 優子。の、つもり」
「今は? つもり?」
「はいそれ以上のツッコミは禁止。こう見えて、主婦は色々と忙しいんだから……うん、卵も割れてない。良かった良かった。もし割っちゃったら、たっくんにまたドジ呼ばわりされちゃうもんね」
そう呟くと、少女は先程スーパーで買ってきた特売卵パックの無事を確認しながら、颯爽と立ち去っていく。
精神武装を消し、買い物バック片手にエプロンドレスを夕焼けに晒す彼女の姿は、まさに主婦そのものだった。
「主婦、ねぇ……」
結局、分からず終いだった。
彼女が何者だったのか。
それが、ちょっとだけ残念なような、そうでないような……なんだか複雑でむず痒い気持ちが天馬の心をくすぐる。
だが、そんな彼にもこれだけは理解することが出来た。
「あんなのがいるんじゃ、もう新参者狩りなんて出来ねーな……」
天馬は苦笑いしながらそう呟くと、ゆっくりと身を起こしてズボンの埃を払う。
あらかた汚れをはたき落として顔を上げると、そこにはもう彼女の姿は無かった。




