表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/76

【64】仕掛けられた罠

 いつまで経ってもジオツキーもアメリも席に戻っては来なかった。


 何か変だわ。


 だって、二人はエルムを見張っているはずよ。

 お姉さんは、休憩後はずっと舞台袖にいたわよ? なんでジオツキーとアメリが、席を外しているのを知っていたの?


 私の心の中でお姉さんへの不信感が、インクが滲みるように広がっていく。


 そう思っていた時だったわ。

 ボックス席のドアが、重いカーテンの向こうでギイ……と開いた音がした。



 *



 ブロディンはクララを警護しながら楽屋へと入っていった。


「ずいぶん人が少ないんだな」


 クララは説明する。


「ええそうなの。もうすぐクライマックスだから、合唱団や躍り手たちの出番があるの。舞台袖にみんなが集まるから、それでなのよ」


「なるほど」


(舞台が終わったら、エルムが動き出す……そこで何が起きるかだな。だがエルムの息のかかった者が内部にいるとジオツキーが言っていた……。お嬢をパーティで襲った奴か? いや、楽屋にカードを置きに来るぐらいしかできないんだから、また別の奴だとは思うが……警戒するに越したことはねぇな)


 ブロディンはそう考えて、楽屋内にぐるりと目を光らせた。

 クララは楽屋個室への廊下を先に歩き、ブロディンもそれに続く。

 クララがいつも通りに自分の部屋のドアノブに手をかけた。


 ブロデインはその瞬間、嫌な予感がした。

 理由はない。『感』だ。ジオツキーが聞いたら鼻で笑われるかもしれないが―― 

 ブロディンの体は既に動いていた。そして、その『感』は正しかった。


「危ない!」


 ブロディンがクララ体を引き戻したのと、クララがドアを開けたのは同時だった。いや、わずかにブロディンの方が早かった。クララのさっきまであった顔の辺りで、何かが()ぜた。


「きゃあっ!」


「ちっ、ミスったか?」


 悔しそうな男の声がクララの部屋から聞こえた。

 ブロディンはその声の主に向けて、魔術の矢を即座に放った。だが相手はそれをさっと避ける。

 ブロディンは避けたそいつの姿を確認する。

 知らない男だった。

 避けたその男に向かって、再び魔術の矢を放つ。だが男はすばしっこかった。至近距離の戦いだというのに、身軽に次々とブロディンの矢を(かわ)す。

 男が身体を()らせながら、呪文を唱えた。

 男の掌に青白い炎が出来上がると、それを息つく間もなくこちらに投げつけてくる。

 ブロディンはクララを抱えながらその炎を避けた。


「この魔術は見たことがあるぜ……?」


 アルマンの街で襲撃されたとき、馬の目の前で何かが爆ぜた。そしてこの青白い炎の魔術。あれと同じだ……!


「あいつか!」


 あの魔術師の魔力はオレより弱かった。それなら、クララを抱えながらでも勝てるだろう。ブロディンはそう算段した。

 そのブロデインの考えを読んだように、男は余裕たっぷりにニヤリと笑う。

 男が詠唱すると、小さな青白い炎が大量に出来上がった。それが虫の大群のように、一気にブロディンに襲いかかって来た。ブロデインの視界が青白い炎で埋め尽くされる。


「しまった……!」


 (おご)った気持ちが判断を遅くさせて、一瞬の隙を産んでしまったのだ。

 あわてて一掃しようと呪文を詠唱し、炎の虫を撃退したときには、クララを抱えていたはずのブロディンの手は空っぽだった。


「!?」

(……クララは!?)


 いつの間にか、目の前の男にクララを奪われていたのだ。


(クララが奪われた感覚は一切無かったぞ……!?)


 ブロディンは気が付いた。

 さっきから、体がおかしいのだ。光の矢を放っているときも、なんだか冴えた感じがしなかった。そういえば、頭も少し重い。


 そうだ、あいつは、矢を軽々と避けていた。

 そしてクララを奪われたという手の感覚は、何も無かった。

 ――――何が起きてる…?


「ふふふ、気がついたか? 幻麻効果、すごいだろう?」


 ブロディンの様子を面白そうに見ていた男は、優位に立つ自分に酔ってブロディンを馬鹿にする。


「……幻麻だと?」


 ブロディンは理解した。最初にドアを開けたあの時、目の前で爆ぜた火花……あそこに魔術が仕込まれていたのだ。

 しばらく神経を麻痺させる幻麻の魔術……

 アルマンでも馬の様子が変だとジオツキーが怒っていた……


「クララを返せ!」


「雇い主に顔に傷でもつけてやれと言われてるんでね。仕事が終わったら返してやるよ」


 男は片手でクララを羽交い絞めにし、もう片方の手は魔術を放らんとばかりにクララの顔に近づけた。

 クララは男の言葉と目の前に迫る掌に蒼白になった。

 

「い、嫌よっ、やめて! ……助けて!!」


 クララはブロデインに懇願する。

 すぐにでも助け出してやりたい。

 ブロディンは腕を軽く(つね)って自分の感覚を確かめた。

 ――だが、幻麻の魔術のせいで感覚はまだ鈍いままだった。








お読みいただきどうもありがとうございます。

次回【第65話】反撃 その1




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ