【45】心の霧
拍手を浴びるアクティスに、エルムが花束の贈呈を行っている。
その光景を見ていたら、私はエルムの父ヤトキンに話しかけられた。
「フィー様、ちょっとよろしいですかな?」
「ええ。……余興は大成功でしたわね」
「エルムは見る目がありまして」
と嬉しそうに目を細める。でも、その同じ目が次の瞬間には抜け目なくぎらりと光る。
「ところで、フィ―様。トゥステリアへの運搬便のことで折り入ってご相談が」
「わかりましたわ」
「ではあちらで少しお話いたしましょうか」
私は婚活モードから商談モードに切り替えて、ヤトキンとしばらく話し込んだ。
ちなみに、私はこういうことに割と明るいの。父から貿易品探しを頼まれていることもあるし、以前にトゥステリアの白磁陶器を西方諸国で流行らせたことがあって。それも城に出入りする商人と日頃からやりとりをしていたから実現したのよ。
だから、ヤトキンが運搬便のことを話したいといったときも、どんな話になるのかは予測はできたの。こうやってヤトキンと話すことで、トゥステリア王国としてもヤトキン商会と組んで利得を上げられる箇所を探す……まあ要は腹の探り合いっていうことよね。もちろん私の独断では決められないから、全て持ち帰りになるのだけど。
ヤトキンはなかなかに食えない男で、商売人としては凄腕なのだと感じたわ。
話を終えた私は、アクティスを探した。人だかりがあったのですぐにわかった。
アクティスは余興に感動した大勢の客人たちに囲まれてにこやかに対応していたわ。隣にはエルムがしっかり張り付いていた。
エルムのこともあるし、今はあそこにいないほうがいいなと思った私は、また婚活モードに戻ろうと思ったのだけれど、……なんだか急に疲れを感じちゃって……。
知り合う人は皆アクティスの話を聞きたがるし、さっきちょっといいかもと思った男性は見失っちゃうし。とても期待していた婚活パーティだったのにうまくいかないし。ヤトキンとがっつり商談をしちゃって、婚活モードが吹き飛んじゃったし……
それになんだか、さっきのアクティスが……私は、羨ましくて。
なんだかわからないんだけど、胸の辺りがもやもやとしていた。
このもやもやした気持ち、最近ときどき感じている。
何にもやもやしているのか、自分でもよくわからないのだけど……。
私がずっとお相手探しで過ごしてきた年月、アクティスは歌劇俳優になるために外国のあちこちで修行していた。そして今、アクティスは魅力的な歌劇俳優になって活躍しているのだ。
じゃあ私は?
私は今まで何してきたのかなあって。
お相手探しの最初の三年は従者任せの婚活だっけど、そのあとは自分でがんばってるけれど……。今だお相手が見つからないし。もしこの先誰も見つからなかったら、私どうなるんだろう……?
やっぱり婚活がうまく行かないから、もんもんと考えちゃうのかしら。
婚活は前向きあるのみ! なのに。
考えても解決しないのに。
……せっかく大きな婚活パーティに来たのに、落ち込んでてもしょうがないわよね?
ちょっと一息入れたら、また気分変わるわよね?
そうだ、確か噴水の奥に薔薇園があるって侍女が言ってたわ。満開だそうだから、外の空気にでも触れて、香り豊かな薔薇に包まれたらまた元気がでてくるかしら?
そう考えた私は、ホールから続く中庭へと一人降りた。
――その私の行動を、じっと追いかける視線があった。
勿論そんなことは知らない私は、薔薇の美しさを早く堪能したくて、足早に庭の奥へと向かったのだった。
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次回【第46話】芳香と棘













