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【41】エルムとその父ヤトキン その1

「ヤトキン嬢、申し訳ないけれど」


 アクティスが、エルムのエスコートをやんわりと断る。


「以前からの約束でフィーをエスコートしているんだ」


「えっ、昨日お話ししたのにい!」


 エルムは唇を噛むと、上目遣いに私をキッと睨んだ。


 アクティスが見かねて付け加えた。


「ヤトキン嬢、余興ではロミオ王子を演じるから、君にはそちらを是非楽しみにしていてほしいな。もちろん応援してくれるよね?」


 アクティスにこう言われて微笑まれたら、エルムはそれ以上は何も言えないようだった。


「エルム、仕方ないけど諦めなさい、お約束を先にされていたそうだから」


 むくれたエルムにとても優しい声で話かけたのは、エルムの父ヤトキンだった。


「ん~、でもお父様ぁ。エルム、殿下がいいんだもの」


「エルム、レジェ―ロ氏はお約束されていたそうだけど、でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ヤトキンはわざとこちらに聞こえるように娘に言葉を返す。

 ……なんか、ひっかかる言い方だったわ。

 お願いが聞けないアクティスの方が悪いような感じだった。

 娘が可愛いのはわかるけど、なんだかとても違和感があったわ。


「いや、だってエルム、殿下にエスコートしてほしかったんだもの。これじゃあ意味無いわ」


 娘が拗ねると、ヤトキンはちょっと慌てた。


「短い時間だけなら、お前の思いを聞いてくださるんじゃないかな。お父様もお前との時間を作ってもらうよう頼んであげるから」


「ほんとう? うふっ、お父様大好き!」


 大好きと言われ、ヤトキンは目尻を下げる。


「失礼しました、フィー様、レジェ―ロ氏。 私、本日ホストを務めさせていただきますヤトキンと申します」


 やっと娘との話を終えたヤトキンが私たちに挨拶をする。


「本日はフィー様には素敵な出会いがあることをこのヤトキン、心よりお祈り申し上げます。ところでフィー様、のちほど是非色々とお話させていただきたいのですが、……よろしいですかな?」


 この『のちほどお話』は、ヤトキンの商売のことよ。

 私に話しかけるヤトキンは、先程の下げた目尻はどこへやら。もう本日のホストであり商人の顔になっていた。

 ヤトキンは口調こそ柔らかかったけど、抜け目のない印象でちょっと威圧的な雰囲気も漂わせていたわ。

 

 婚活パーティというのは、人が大勢集まるでしょう? パーティの主催者は、集めた参加者で人脈を広げ、商売を展開するのが目的なの。婚活パーティ的にも、人が多く集まるほど成就率が高まるしね。

 ヤトキンとしては、トゥステリア王国の王女が来ているのだもの、ここで隣国とのパイプを作っておきたいわよね。

 実を言うとそれは私も同じ。

 お父様から貿易品探しを依頼されているから、ヤトキン商会とも仲良くしておかないとならないわ。


 そんなことを考えていたら、ヤトキンがアクティスに話しかけていた。


「レジェ―ロ氏、後程フィー様とお話しさせていただく間だけでも、あの子の相手をしてやってくださいませんか。是非ダンスも踊ってけいただけたら。ホストとしての心からのお願いでございます」


 アクティスは余興のために雇われている立場だから、さすがに雇い主の依頼であれば断れるはずもなく、引き受けざるを得なかった。

 エルムは、私を馬鹿にしたような目付きで見ると、勝ち誇り言って退()けた。


「殿下はあなたの物じゃないんだから、大きな顔をしないでくれる? 殿下を一番推してるのは、この私よ? あなた、殿下の推し(カラー)を何も身に着けていないのに、よくそうやっていられるわね? 推し色を身に着けるってことはね、どれだけ殿下が大事かっていう、証拠なんだから」


「はぁ……」


 私は眉をちょっと(ひそ)めながら、エルムの話の内容がよくわからなかったので、とりあえず黙って聞いていたわ。

 アクティスのファンなら、推し色を身につけろってことなのかしらね?


「私のエメラルドはね、特別なのよ。このネックレスとイヤリングと、ほら、この髪留めを見て? これ珍しい装飾でしょう? ふふ、トゥステリア王国の王宮に献上した職人の細工なのよ? お父様がエメラルドの原石を買って、それを使って特別にセットで作らせたの。私のためのオリジナルデザインなのよ? すごいでしょう?」


 ふふんと鼻を鳴らして、エルムは私にアクセサリーを見せながら、朗々と自慢した。






お読みいただきどうもありがとうございます(^^)/


次回【第42話】エルムとその父ヤトキン その2

20日は11時代投稿予定です。

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