表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/73

67話 神獣たちの結末

 乱発していた火球に比べ、ガルムの放った光球はゆるりと進む。

 放たれた側からしてみれば、圧倒的な存在感の力の奔流が、徐々にあちらからやってくるのだ。

 光球の中、荒れ狂うマグマは生命を寄せ付けない厳しさがあり、そこから想像できるのは死の一言だった。


 押し寄せてくる死を前に、しかし俺は不思議なほどおちついている。

 いや、不思議というのは間違いだ。

 それはもちろん、タロの背を目の前に見ているからだ。


 タロは脇に光の槍を携えたまま、ガルムの光球が襲い来るのをしばらく見ていた。

 そうしてそれが、タロとガルムの間、その中間地点を通り過ぎようとした瞬間。


 ぱり、と


 タロの前身を青白い稲妻が走った。

 同時、光の槍がゆっくりと回転を始める。それはたちまちのうちにその速度を上げた。ほんの数秒後には、回転の様子すら目で見るだけではわからないまでに達している。

 わずかに聞こえるブーンという低い音が、そのすさまじい回転をつたえていた。


 ガルムの光球はもう少しだけ進んでいる。


「さあ、どうしたのかしら、フェンリル。はやくしないと、あなたの飼い主ごと焼き尽くされてしまうわよ?」


 飼い主、という言葉に俺は反論しようとしたが、エヴァンジェリンの軽口はとまらなかった。


「もっとも、なにかしようにも、どうしようもないのだけれど。おわかれの言葉は残してあげるわ。さ・よ・う・な・ら……」


 エヴァンジェリンの言葉が終わるのを待っていたように、光の槍が放たれていた。

 それは一瞬のうちに光球へと達し、しばらく拮抗する。


 超エネルギーどうしのぶつかり合いは、しばらくの拮抗を予想されたけれど、さにあらず、だ。


 チ、と意外なほど小さな音をたてて、光球を光の槍が貫通した。


 そうしてそれはひとすじの光となって、ガルムへと着弾した。

 着弾の瞬間、ガルムの前方に何枚かの魔力による壁が現われたが、それらはないもののようにやすやすと貫かれている。


 ここで、貫通をゆるした光球が、その形を保てなくなって爆裂した。

 すさまじい音と爆風。

 それらがひとたびあたりを満たす。


 いまだ、俺たちに到達するまでには距離があったというのに、光球からあふれた熱風が俺の肌をちりりと焦がした。


 直後、もふもふが俺の顔を覆っていた。


 タロが、身体を寄せて俺を守ってくれているのだった。


 あたりをうかがう余裕もなく、俺はもふもふのなかで爆風が収まるのを待った。

 崩壊しつつある光球にしてこの威力。ほんとうに俺たちに直撃していたら、どうなっていたのかはわからない。

 けれども、タロの光の槍に打ち負けた光球は、所定の効果を発揮することはなかったとみえ、爆風も急速に収まっていった。


 タロの光の槍。こちらの効果は、より劇的だった。

 爆風によって塞がれていた視界がゆっくりと晴れていくと、その様相が姿をあらわす。


 かろうじて直撃を免れたのか、ガルムはまだ生きていた。

 全身には光の槍によるものと思われるいなずまが、あちこちに走っているのがみえる。

 それによってガルムの全身の毛は逆立ち、ところどころ焦げ目もあった。


 タロの槍、その本体はもう形をなしていなかった。が、えぐられたガルムの右肩と、そのうしろの壁に大きくあいた黒い穴が、槍の軌跡を示していた。


 ガルムは、相変わらずの低い体勢だ。いや、そうではない。今はタロのダメージによって、その体勢をとらざるをえないようだった。

 何度か身体を起こそうとしているものの、それを果たせず、崩れ落ちるを繰り返している。


「ちょ、なんなのよ、ガルムさま。まさかこれで終わりなの?」


 エヴァンジェリンの悲鳴にもにた叫びがあがった。

 アドルフが倒されたときでさえ、どこか余裕をみせていたエヴァンジェリンだったけれど、今はあきらかに狼狽の色をみせている。


 どうだ、と俺は思う。

 おまえが放逐しようとしたタロの凄さが、今頃になってわかっただろう?


 エヴァンジェリンはわかりやすく地団駄を踏みながら、ガルムに罵声を浴びせている。


「なにが邪神よ。なにが神獣よ。なんの役にもたたないじゃない」


 そうして、彼女は懐からなにかのスクロールを取り出すのが見えた。

 あれは、まさかアドルフにつかっていた、喪心の書?


「さあ、ガルムさま、もう一度立ちなさい。立って戦うのです」


 そういえばガルムの様子は、前回会ったときとくらべれば、すこしおかしくはあったのだ。

 それがアドルフほどのおおきな変化ではなかったから、俺も気にとめることはなかったのだけれど。


 あのスクロールがほんとうに喪心の効果があるのなら、エヴァンジェリンは、ガルムに対しても精神支配をかけていた、とでもいうのだろうか。

 そもそも、神域に達するとされるガルムに、そんなことが可能なのだろうか。


 疑問をもった俺の行動は、一手遅れた。

 そう気がついてエヴァンジェリンへ向かって走り出した頃には、彼女はスクロールの発動を終えている。


 くそ。ここからでは暴走特急の発動も間に合わない。


 思う俺の上空を、黒が飛んだ。


「ぎゃっ」


 ヴモフ、


 悲鳴とともに、タロの前足がエヴァンジェリンをおさえつけていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ