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66話 神獣たちの再戦

 タロがすっくとした立ち姿に、ガルムが低い体勢で対する。

 その様子は前回彼らが対峙した時と一見して同じように思えた。けれどもほんとうのところ、ガルムの様子は、あの時とは違っている。


 忙しなく動き、跳ねていたあの時のようすは影を潜めていた。

 俺たちの背丈よりもさらに低く、床に擦り付けそうなほどに頭を下げてそこからじっと、タロを見上げている。


 断続的に口から溢れる、グル、といううなり声も併せて、破壊を繰り返していた以前よりも、威圧感という面では大きなものがあった。


 牽制をかねて打ち合っていた先ほどとは異なり、お互いに本気の一撃を探っているのだろうか。


 タロとガルムの間は緊張感のようなものが充ち満ちて、双方共に先制の機をうかがっているようだった。

 そのせいであらわれた膠着状態が、それからしばらく続いていく。


 見守っている俺やシャロも、魅入られたようにほとんど身動きできないでいた。


「ガルムさま、遠慮せず、やっちゃってくださいな」


 そんななか、この状況に焦れたのか、エヴァンジェリンがタロを指さしてそういった。

 その声をおこりにして、ガルムが地を駆ける。


 タロが迎撃にととばした雷撃は、素早い動きのガルムに躱され、ダンジョンの床を抉っただけの結果に終わった。

 そのままタロのもとへ駆けつけると、下からすくい上げるようにツメが薙ぐ。

 タロはすんでで、この一閃をのけぞってかわした。


 かわされた動きが、ガルムの次の攻撃へとつながっている。

 伸びきった身体を一気に縮め、はたきおとすようにタロを狙った。


 これをも軽く飛んでかわしたタロだったが、ガルムはもうひとつの弾を用意している。

 ふたたび低くした体勢から、ふたつの火球がタロへ向かった。


 かわせない、そのタイミングで放たれた火球は、まっすぐにタロへと飛ぶ。

 直前にあらわれた光の壁がなければ、タロといえども無事では済まなかったに違いない。


 爆裂後に巻き起こった炎を身体にまといながら、タロがゆっくりと地におりたつ。


 ガルムが吠える。

 その吠え声に呼応するように、ガルムの前方に魔力が収束した。

 それはたちまちのうちに、巨大な火球へと変化していく。


 いや、それは火球などというなまやさしいものではない。

 球形に展開された魔力の渦のなかに、太陽と見間違うほどの、激しい熱と光が、閉じ込められてみえるのだった。

 それらは渦の外周に近づくほど赤みを帯び、マグマのようにふつふつと沸き立っても見える。

 その球がもたらす破壊の力は、想像するにあまりあった。


 まずい


 と俺は思った。

 俺たちを背にするタロはきっと、あの球をかわすことはしないだろう。

 いかにフェンリルとその防御を駆使しても、あれをまともにうけて無傷であるとは思えなかった。


「タロ、俺たちのことは気にせず戦ってくれ!」


 俺は言うなり、シャロの方を見て合図する。

 シャロはそれを見てすぐに行動を開始した。


 横に座っているリンネの腕をひっつかむと、肩にそれをからめて走り出す。

 リンネのほうも自身の回復魔法が間に合っていたようで、途中から肩をかりることなく走って行った。


 俺はちらりアドルフが倒れていたほうを見る。

 こちらも、いつのまにか姿がみえなくなっていた。


 あとは俺だ。

 

 素早く左右を確認し、隠れられそうな物陰をみつけて、そちらをめざして走りだ……


 がくん、と。


 俺の足がなにかにとられた。

 俺は数メートルと進むことなく、もんどりうって派手にころげる。


 全身が痛みを訴える中、右足の先でに違和感が生まれていた。


 靴の上、すねのあたりになにかが光をはなっている。

 粘つくような、絡みつくような光るなにかは、見ているうちにほどけばらけて中空へ散っていった。


 こんな、嫌らしい魔法までつかえるのか?


 そう思って見た先で、エヴァンジェリンが肩をすくめ、にやにやと笑っている。


「タロ、こっちはいいから!」


 ガルムの攻撃は、もう発射を待つばかりといったふうである。

 たろは横目でこちらを見ながら、俺にだけ聞こえる声で


 わふ


 と鳴いた。


 同時、タロの身体を稲妻が走った。

 とみるや、その脇にひとすじの光が針のようにあらわれる。


 それはたちまち太さを増し、矢に、槍にと徐々に形を変えていった。

 続いてぱちぱちと、タロの身体ごと雷をまといだす


 光の槍。


 いつかみたそれよりも、一回り大きく、それ以上の雷がぜんたいを覆っている。

 ガルムのそれと見た目は違えど、同質の技。

 ひとめでそうとわかるほどに、タロの光の槍もまた、神獣が放つ神代のスキルなのだった。


「さあガルムさま。その一撃をもって、おわりにしましょう」


 エヴァンジェリンが、感極まったように叫んでいた。

 俺はタロのほうを見る。

 背中越しに、タロの集中が伝わってくる気がした。

 エヴァンジェリンがしたように、今タロに声をかけるのは得策ではないように、俺には思えた。


 けれども、俺はあえて、タロの背中に声かける。


「……やっちゃえ、タロ」


 ガルムの光球と、タロの光の槍。

 それらがほぼ同時に、互いの目標へとむかって飛んだ。


 


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