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60話 決戦のはじまりなのです

 待ち伏せに対するカウンター。

 それにより、奇襲に成功した俺たちは、しばらくの間有利に戦いをすすめていく。

 緒戦で何人かを倒すことに成功し、勢いにのって責め立てる。

 

 しかし、さすがにここまで温存されていた戦力は手練れぞろいだった。


 当初の混乱からまたたくまに体制を整え、反撃を試みてきたのだ。

 【毒付与】を警戒して、一定の距離を保ちつ、ちくちくと攻撃を加えてくる。


「ロッカさん、ここは僕たちが」


 カイロが俺の前にでて、黒ずくめに斬りかかった。

 彼のパーティーメンバーのそれに続く。


 俺から見ても、カイロはまだ未熟に見えたけれど、とにかく勢いだけはあった。

 それに、パーティーメンバーとの連携もよく、実力差を覆しながら互角といえる打ち合いを繰り広げる。


「ロッカ先輩、いまです」


 【暴走特急】のクールタイム、カイロはそれを稼いでくれたのだ。

 まずい、と黒ずくめが身構えたその隙を逃がさず、その脇腹に俺の突撃がつきたたる。


 ごふ


 ともんどり打って黒ずくめの一角が崩れた。

 それまで互角だったカイロたちも、そこにつけ込んで戦況を有利にひっくり返す。

 パーティー間での連携を駆使しなが、黒ずくめをひとり、またひとりと倒していった。


「やるじゃないか、カイロ」


 仲間が倒され、余裕をなくして突っ込んできた黒ずくめを【毒】で倒す。


「ロッカ先輩こそ、さすがです」


 カイロの奮戦をもっとねぎらってあげたい気持ちはあったが、俺はそれを振り切るように扉へ向かう

 広間へ戻ると、タロとガルムが激しく戦っているのが見えた。


 どちらも暴れるのに充分な空間。

 それをいかして、双方が飛び回り、交錯して強力な一撃をみまいあう。


「ガルムさま、こちらを」


 エヴァンジェリンの補助魔法がガルムへととんでいるようだ。

 ガルムの圧倒的な魔力量の前では、エヴァンジェリンのそれは焼け石に水のようなものではある。


 けれども、タロとガルムの実力が拮抗している今、そんなささいな援護でも大きな差になりえる話ではあるのだった。


「させない!」


 こちらも脇に控えていたリンネがタロに強化魔法を飛ばす。


「エヴァさんは、静かにしていてください」


 シャロもエヴァンジェリンに対していくどか矢をいかけていた。

 それは正確にエヴァンジェリンへと飛んでいったが、直前で逸れてあらぬところにつきたたる。


 矢避け


 事前に準備していたのだろうその魔法は、いつかのようにシャロの弓を無効化する。

 けれども、シャロはそれ気にすることなく、断続的に矢を放っていった。


「もう、効かないっていってるのに、鬱陶しいわね!」


 エヴァンジェリンが吠えている。

 魔法の詠唱には、それなり以上の集中力が必要になるはずだから、あれはあれで充分な効果があるようだった。


 タロとガルムはあいかわらず打撃戦を繰り広げている。


 時にはゆるりと、それでいて重い打撃を繰り出しつ、次の瞬間には目にもとまらぬ動きから駆け抜けざま牙をつきたてようとする。


 お互いに対軍、対城にすら使えそうな強力な魔法攻撃をもちながら、双方共にそれを使おうという気配はない。

 使う隙がない、というよりは、打撃の応酬で相手をうわまわろうという、意地の張り合いをしているように思えた。


「リンネ、シャロ、大丈夫?」


 エヴァンジェリンを牽制しながら、巻き込まれないよう一定の距離をとっている彼女たちだ。

 俺はそこに駆けつけて、エヴァンジェリンのほうへ目をやる。


「ちょ、なにやってるのよあいつら」


 彼女の顔に、すこし焦りがみえている。

 いまや、彼女のまわりには誰もいない。

 なにをしでかすかわからないところのあるエヴァンジェリンではあるが、三人がかりでかかれば制するのは難しくないように思えた。


「わかってるわ。あの雌狐をなんとかしてしまいましょう」


 エヴァンジェリンさえ倒してしまえば、あとはガルムだけだ。

 タロが一対一でガルムに負けるだなんて思ってはいないけれど、俺たちの援護があればその勝利はより確実になるだろう。


「チッ、アドルフ!!さっさとかたづけて、こっちの援護をしなさい!!!」


 その言葉を聞いて、俺はばっと振り向いた。

 エヴァンジェリンの声かけた先。

 そこには俺たちが制圧した部屋とおなじ、もうひとつの小部屋があった。

 あちらは、ベテランの冒険者が担当してくれているはずだ。

 俺たちの踏み込んだ部屋と同程度の敵ならば、彼らの実力でなんとかなるはず……


 ドン


 と、そちらのほうから、大きな爆発音が聞こえた。


「あれは!」


 リンネがなにかに思い当たったように、そういう。

 高威力の爆裂魔法。それを得意とする人物を、俺もひとりしっていた。


 爆発音と同時に吹き飛んだ扉。そこからのぞく土煙が立ちこめた室内に、ひとつの人影が現われる。


 人影は、ゆらゆらと身体をふりながら、ゆっくりと広場へ歩みでる。

 エヴァンジェリンの言葉ははったりなどではなかった。


 踏み込んだ冒険者も、エヴァンジェリンの仲間とみえる黒ずくめさえも彼の周りに見ることはできない。


 ただひとり、勇者、アドルフがそこに立っていた。

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