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49話 王都で暴れる影ありです

 シメオンが黒刃の剣を受け取って、試すように振り回す姿は、俺から見ても素人のようだった。


 俺は先手とばかりに踏み込んで袈裟切りに切り込んだ。

 シメオンはひゅる、と手首の返しでそれを受ける。


 ほとんど力を入れていない、手打ちのそれだが、一度の刃のふれあいで、俺の剣は刃こぼれが起き、二度目で剣先が大幅に欠け去った。

 大量生産の店売り品とはいえ、手入れは丁寧にしていたはずだ。

 本来その程度で壊れる剣ではありえなかった。


「その剣・・・・・・」

「おや、わかりますか?邪神の名を冠された、この剣が!!」


 シメオンは、剣をくるくるふりまわす。


「まあ、手に入れたのは副産物というべきですが、さすがはガルム様というべきですなぁ」


 一矢、続けてもう一矢、シメオンに向かって矢が飛んだ。

 先ほどのように受け止められても、時間差で飛んでくるもう一本が確実に敵を射貫く。

 シャロの高等技術である。

 しかし、過たずにシメオンへ向かっていたはずの矢は、彼の身体まであとふたいき、といったところで方向を変えられて、あさっての方向へと飛び去っていく。


「矢除け・・・・・・」


 魔法使いが遠距離射撃攻撃の対策に使う魔法である。自分の周囲の気流や魔力の流れを操作し、攻撃を防ぐのではなく当てさせない。おおむねそのような魔法だという。


「意外ですかな?わたし、こう見えて本職は魔法使いだったのです」


 いかにもなローブをはためかせながら、シメオンは言った。


「おや、もうネタ切れですかな?」


 挑発するように言うシメオンに、俺は無言で剣を上段に構えて応じる。


「鋭」


 という返事代わりの打ち込みに、シメオンは首をすくめるような仕草をした。


「こりないかたですねえ」


 シメオンは無造作に片手をかかげ、黒刃の剣で俺の刃を迎え撃つ。

 打ち込んで動きをとめる。そんな俺のおもわくもむなしく、ただ受けられたというだけの俺の剣は

その場所から折れ飛んだ。


「いただき、ですな」


 シメオンは言うと、俺に向けて、剣を突き入れようと踏み込んだ。


【龍の息吹】!!


 それを防ぐように突き出した右手から、光が溢れた。

 普段使用には適さない、俺の奥の手、とでもいうべきドラゴンから継承したスキルである。


「む、」


 とっさに身体をそらしたシメオンの直上を、熱線が通り過ぎる。

 それはギルドの壁を直撃して、小さな爆発を起こした。


 外したか!!

 と俺は心の中で言って、シメオンと大きく距離をとる。

 その途中、あたりに落ちていた抜き身の剣を拾っておいた。


 一発で、俺の中にある魔力の大半をもっていかれた気がしていた。

 もう一射、できるかどうかというところか。


 次は外せない。


 そう思っていると、シメオンが首をかしげながら爆発後を見、それから向き直って言う。


「なるほど、あなたがフェンリルの・・・・・・というわけですか」


 そうして、オーウェンの方を見て、満足そうに笑う。


「ともあれ、目的は果たせたのです。今はここまでにしておきましょうか」


 シメオンはとん、とん、と軽やかに小走りして、アドルフの側へと走り寄った。

 

「さてさて、勇者どの。退きますよ」

「待て!」

「聞けませんな」


 アドルフとオーウェンの身体が光に包まれた。

 転移魔法

 気づいた時には、防ぐすべはなかった。


―――――――――


「大丈夫ですか?オーウェンさん」


 オーウェンは仰向けに横たわりながら、苦痛に歪む顔を、無理矢理に笑顔にしてみせた。

 俺は脇に座って治療を続けるリンネを見る。


「だめ、うまく傷が塞がらない。あの剣になにか呪いでもかけられていたみたい」


 オーウェンはそれを聞きつけたか、上半身を起こそうとした。


「だめです、安静に」

「すまないが、そうも言ってられんじゃろ。外を見せてくれんか、ね」


 ギルドの外、王都の騒ぎはまだ終わっていない。

 俺はもう一度リンネを見た。彼女は首を左右に振って答える。


「後生じゃから、頼む。ロッカ君」


 俺は肩を貸して、オーウェンを引き起こした。


「もう、こうなったらしょうがないわ。絶対に私から離れないでね」


 オーウェンを包み込むように回復魔法を展開しながら、リンネが言う。

 俺たちはギルド正面の扉を開け、ゆっくりと外へと歩み出た。


―――――――――


「何、あれ!」

「まさか、タロ?」


 言った瞬間、俺は激しく後悔した。

 あんなものがタロであるはずがない。

 遠くに炎上する建物の煙に身体の大半を隠されて、大きな犬のようなシルエットが俺たちの目にうつっている。


 それは乱暴に跳ねて暴れて、あたりの建物を巻き込むのを気にもしていないようだった。

 時折その身体から赤い光がほとばしり、あたりに降り注いで爆裂し、あらたな被害を生んでいた。


「あれが、シメオンの本命かの・・・・・・」


 咳き込みつ、オーウェンが俺の肩でそういった。

 確かに、シメオンの襲撃とあの大犬が無関係とは思えなかった。 


「ギルド総出で、対策にあたらねば」


 オーウェンはそう言うも、ほとんど気を失いそうなふうである。

 いま現在王都にある戦力で、一番たよりになるのは冒険者ギルドのそれだろう。

 その頭を最初に叩いておく、というのがシメオンの戦術ならば、それは確実に成果を発揮しつつあった。


「とにかく、タロと合流しよう」


 俺の提案に、反対するものはだれもなかった。

 

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