表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/73

48話 王都が騒がしいようです

 爆発音は一度では終わらなかった。


 次いでなにかが崩れる音、甲高い悲鳴などが聞こえてくる。


「どうやら、もうここにかまけている暇はないようじゃ」


 いつになく真剣な顔をして、オーウェンが言った。

 そうして持っていた脇差しを鞘に収めると、それを上段に振りかぶる。


「すまんが、気を失っていてもらおうかの」

「勇者どの、今です!」


 シメオンの声が響いた。


「何?」


 一瞬、オーウェンの動きが止まる。


「失礼。こちらでした」


 シメオンの脇に控えていた残りの男たちがまとめてオーウェンに向かって切り込んでいく。

 オーウェンは勇者を警戒しつつも、壁にめり込んだ大剣の柄に手をかけた。


「鋭!」


 上と下。それから左。

 同時に仕掛けたそれぞれの連携は、いままでの相手よりも少し上手に思えた。


「ぬ、むん」


 ずり、とオーウェンの大剣が動いた。

 めり込んだ刃先が、ずず、とゆっくり壁を切り裂きながら進んでいった。

 それほどの力を見せつけながら、オーウェンは笑う。


「さて、おみまいじゃ!」


 壁の圧力から解放された刀身は、すさまじいはやさと威力で振り回された。

 それは衝撃波すら伴って、オーウェンの前方すべてに荒れ狂う。

 彼に向かっていたはずの黒ずくめたちは、ただのひとりも無事ではなかった。


「なるほど、これはじつにお見事」


 近くで聞こえたシメオンの声に、オーウェンは迅速に反応した。

 大剣を起用にくるりと回し、その腹で思い切りシメオンを打つ。

 ふらり、とオーウェンの間合いにふみこんだかと思われたシメオンは、


 がき、と


 二度までも、オーウェンの打撃を受け止めて見せた。


「一度限りの、手妻ではなかったのかね?」

「偶然とは恐ろしいものですな」


 身体の線がわからないゆったりとしたローブをまとい、文官か、魔術師のように見えるシメオンは、こうみえて相応の使い手のようだった。

 ローブの下から取り出した長剣を二度三度ふるう様は、一流の剣士のそれだ。

 それでも、


「茶番は、これでおわりにしようかね」


 超一流のオーウェンの敵ではないように思えた。

 シメオンの連撃は速く鋭かったが、オーウェンはそれをなんなくさばく。

 次に隙ができれば、オーウェンが打ち込んで、それで終わりだ。

 遠間から見る俺にも、それははっきりとわかった。


「今です!」


 シメオンが攻撃の合間、そう叫ぶ。

 もう、それに惑わされるオーウェンではなかった。

 逆に叫んだその間を隙とみたか、一歩、間合いを詰める。


 ひゅ、と


 しゃがみ込んでいたアドルフが唐突に動いた。


「オーウェンさん!」


 俺は

 何重かに張り巡らされたシメオンの策。

 しかし、オーウェンはその上を行く。


「まだまだ、甘いわ」


 いつの間にか、オーウェンは大剣を片手持ちしていた。

 残った手が、腰に差し戻していた脇差しを瞬時に引き抜き、二刀にかわる。


 アドルフの繰り出した突きの一刺しは、膝立ちしていたこともあって速さも威力もそれなりにしか見えなかった。

 脇差しでそれを受けつつ、シメオンをたたきのめす。

 オーウェンであればたやすいことだろう。


 が、


 ぺき、と音を立てて、アドルフへ向かった脇差しが折れ飛んだ。


「な、」


 目をこらすと、アドルフが突き出した剣の刀身は黒。

 それまで使っていた【アドルフの剣】とでも言うべき愛刀とはあきらかに異なっている。


 その剣が、脇差しを貫いて、オーウェンの脇腹へと突き入っていた。


「それ、おまけですぞ」


 バランスを失ったオーウェンに、大剣の片手持ちは手に余った。

 力を失ったそれを跳ね上げて、シメオンがオーウェンに一閃をたたき込む。


 それが致命傷にならなかったのはオーウェンが技能のなせる技か。

 袈裟切りにされ、血しぶきが舞った今でも、オーウェンの右腕は反撃を加えようとゆらり動いた。


「ですが、これで」


 脇に構え、そこから繰り出した下からの切り上げを、オーウェンが防ぐすべは、もうなかった。


「さ、せ、る、か!」


 振るわれた剣の内側に、【暴走特急】で飛び込んで、俺は叫んだ。

 突進の勢いでシメオンを吹き飛ばせれば最高だったけれど、彼は力でその場に踏みとどまって見せた。


「邪魔をするとは、感心しませんな」


 ふわりと、重力を無視した跳躍で後ろへ飛ぶと、シメオンは言う。


「勇者アドルフどの、そこの男を始末しなさい」


 しまった、と俺は思った。

 前方にシメオン、横合いにアドルフ。

 この配置はいかにもまずい。ひとりひとりでも俺には手にあまるのに、二人相手で生き残れるとは思えなかった。


「う、あ、ロッ、カ」


 しかし、アドルフは俺を見て、ギルドに攻め入ってから初めて、声を出した。

 そのまま、オーウェンから引き抜いた剣を脇に、惚けたように攻撃を仕掛けてくるそぶりはない。


「ほう、なるほど。あなたがロッカさんですか。アドルフどのにとっては、因縁の相手というわけだ」


 シメオンは大きく手を挙げた。


「それでは、私がかわりに引き受けましょう。ガルムの剣を!」


 アドルフがゆらゆらと黒い刀身の剣を掲げる。

 それは糸でもついているかのように、宙を飛んでシメオンの手に収まった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ