46話 ギルド内でのバトルです
突如現れた強大な質量に、大きく飛び上がっていた黒ずくめがひとり、吹き飛ばされてたたきつけられる。
残りの一人も足をとめられて、大きく後ろに飛びずさった。
ワイルドボア、ガロンは猛っていた。
ギルドのやわい床を蹴りたて、今にも突進を始めそうな勢いだ。
距離をとり態勢を立て直した黒ずくめたちも、口寄せされたガロンにはあきらかに戸惑っている。
かれらの武器は素早い動きを重視してか、軽量で比較的短い刃物が中心だ。
対人戦では無類の強さをほこる組み合わせも、ワイルドボア相手ではいかにも頼りない。
男たちの顔は隠されていて見えなかったが、全体にどこか焦りがみえるようだった。
「ガロン、好きに暴れてくれ」
俺はガロンの腹をぽんとたたき、一方の敵をまかせることにした。
解放されたガロンがすぐさま突撃を開始するのを見てから、俺はもう一方の敵へ向かう。
その俺を追い越して、放たれた矢が敵へ飛んだ。
かわすのではなく、たたき落とす。
それを選択した対手はさすがといえたが、それでできた隙を見逃すほど、俺も甘くはない。
直後、駆け寄った俺の一撃は毒を帯びて、時間差で彼を昏倒させた。
「疾っ」
倒されていく味方に思うところがあってか、黒ずくめのひとりがはじめて気合いの声をあげる。
それに呼応したのがあとひとり。左右にわかれて同時に俺へと迫ってくる。
と
はじめに声をあげた男が、突然もんどり打ってその場に転げた。
なんだ?と原因に気をとられることはせず、俺はもう一人へと向かいあう。
相方が倒れたのを警戒してか、若干速度が落ちた相手に素早く斬りっていった。
俺と同等か、それ以上の相手。けれども、今回は俺の勢いが勝ったようだ。
しばらく斬り合った後、どう、と倒れたのは黒ずくめの方だった。
「シャロ、リンネも、ありがとう」
最初の矢、それからつぎの転倒は、彼女たちの援護だろう。
かるく手をあげてそれに答えるリンネ。
その顔が、空からの影でわずか曇った。
前衛の俺ではなく、援護に徹する後衛の彼女たちをたたく。
戦術のセオリー通りに、死角からとびかかった黒ずくめを、リンネはぎりぎりのところでかわす。
「まずい!」
と駆け寄った俺が、スキル込みでも間に合う距離ではなかった。
ひょう、と放たれた矢をたたき落として、男はまず、リンネへ向かう。
「この!」
杖で応戦しようとしたリンネの脇から、もう一度、そして二度、矢が放たれる。
「何?」
普通ではありえない連射を、それでも次々にたたき落としながら、男は驚きの声をあげた。
「えい、」
本来は打撃武器でない杖の一撃が、それに続く。
「この、鬱陶しいぞ!!」
もはや感情を隠さない男の腕から、矢がつきたたったのはその時だった。
「そろそろ寝ているといいのです」
「ふざけ・・・・・・」
五射目をなんとか短刀をつかって逸らした男の頭に、リンネの杖がめり込んで、彼の意識を断ち切っていく。
どごん、と
転んでうめいていた一人を、ガロンの突進が吹き飛ばした。
―――――――――
アドルフとオーウェンの打ち合いが続いている。
オーソドックスな長剣を扱うアドルフに、あきらかに扱い辛くみえる大剣を振り回しているのがオーウェンだ。
それでも、今の時点でオーウェンがアドルフを圧倒しているようにみえた。
勇者であり、そうして一流の冒険者でもあるアドルフだが、やはりギルド最高位剣士、オーウェンにはかなわない・・・・・・
という理由、それ以前に、アドルフの様子はあきらかにおかしく思えた。
勇者として、アドルフは様々なスキルを有しているはずだ。
当然、オーウェンはそれを封じるような立ち回りをこころがけているはずだったが、そもそも、アドルフにスキルを使おうという気配がない。
オーウェンの打ち込みを無言でいなし、時には自分から斬りこんでみせる。
ただそれだけをくりかえすばかりだった。
「どうしたね?勇者くん。このままでは勝ってしまうぞ?」
オーウェンが声をかけても、アドルフは無言を貫いている。
「そうかね。なら」
切り落としのフェイントからつばぜり合いに持ち込んで、オーウェンは思いきり、アドルフを押した。
初老とは思えない腕力で、アドルフの身体が宙に浮く。
「しまいにしようかね」
思い切り踏み込んだ足に、オーウェンの前身が追従する。
目にもとまらぬ、というよりは、見えていてもかわせない。
ギルド最高位剣士の、渾身の一閃がアドルフを薙いだ。
すさまじい斬撃はアドルフを吹き飛ばして壁へとたたきつける。
オーウェンは軽く息を吐いて、しかし戦闘態勢は崩さなかった。
「この一撃で両断にならんのはさすがじゃの」
土煙のなか、アドルフがゆらゆらと立ち上がるのが見えた。
「じゃが、骨の一本は逝ったはずじゃ。それでも簡単に立ち上がってくるとなると」
オーウェンの顔があたりを見回すように動いた。
そうして、遠くで高見の見物をきめこんでいる禿頭で目がとまった。
「さしずめ、喪心の術でもかけられておる、というところかの」
シメオンは、張り付いた笑みをますます深くした。




