44話 みんなでギルドにやってきました
「やっぱり、わたしのみた人で間違いない、です」
あくる日、俺たちは連れだってギルドへとやってきていた。
一度手配所の原本をたしかめておきたい、とシャロが言ったのには少し驚いた。
彼女が言うのはもっともだ。それ以上に、俺が頼んだことに積極的になってくれたことがうれしかった。
「へえ、立派な賞金額じゃない」
横からリンネが口を挟む。
ギルドへ来るのは、俺とシャロだけでもよかったが、ついてくるというのをとめる理由もない。
同じようについてこようとしたタロは、説得してお留守番してもらっているのだが。
「おや、ロッカくん、昨日ぶりじゃの」
「こんにちは」
「今日はパーティー勢揃いか。おっと、タロ君はいないんじゃな」
残念残念、というオーウェンは、昨日とは少し様相が異なっている。
軽装とはいえ鎧を着込み、いつも佩いている大剣の他に、サブウエポンをいくつかもっているようだ。
「これから出入りでの。何人かのギルド員やら冒険者やらには先に行ってもらってるんじゃが・・・・・・」
「それじゃあ急がないと、ですね」
「そうじゃの。残念ながら、ロッカ君たちと愉しくお話している暇は、今日はないようじゃ」
オーウェンは軽く手を挙げて、それから入り口のほうへと向き直った。
「ご武運を」
「これはいたみいる」
笑って、オーウェンは歩き出そうとし・・・・・・
ばん、とギルドの扉が開け放たれたのは同時だった。
なんだ?
と顔を向けた視線の先で、うっすらとした煙のようなものが、扉から流れ込んでくるのが見えた。
扉近くにいた冒険者が、煙に巻かれる。
それから数秒。なにごともないかに見えた冒険者は、急に苦しみ出すとともに、苦悶の声をあげる。真っ赤になった顔を左右に振り、喉をかきむしると、唐突に糸が切れたようにぱたりとたおれた。
「全員、毒じゃ、注意せよ」
オーウェンが叫ぶ。
その言葉を聞く前に、俺は走り出していた。
「危険じゃ、ロッカ君」
「大丈夫です!」
【フェンリルの毛皮】の追加スキル、毒耐性があれば、大抵のものには耐えられるはずだ。
俺は倒れた冒険者のもとに駆け寄って、助け起こそうとした。
顔をはじめ、皮膚が露出している部分はやけどをしたように赤くただれ、腫れ上がっている。
これは、最近見たことのある症状じゃないか?
毒スライム事件で見たその症状を、直す方法は俺にはない。
とにかく毒の流れ込んでいる入り口から遠ざけようと、俺は冒険者を担いで下がろうとした。
「この人は私に任せて、ロッカは入り口を!」
同じく【フェンリルの毛皮】に守られたリンネの行動も早かったらしい。
俺からうけとった冒険者を引きずりながら、片手で杖をかざして魔法の発動準備をはじめる。
「わかった。おねがい!」
言うなり、俺は入り口に向かって駆けだした。
今は開け放たれている、ここのギルドの扉は厚くて重い。
一度閉じてしまえば、それ以上流れ込む毒を防ぐ効果があるはずだ。
「ロッカ、気をつけて!」
ギルドの入り口をくぐって、全身黒ずくめの男がやってこようとしていた。
顔にはなにかの仮面をかぶり、どうやらそれらが毒対策になっているようだ。
【暴走特急!】
すぐさま、俺はスキルを発動した。
視界が歪む、いつもの感覚。
つぎの瞬間、目の前には扉と、黒ずくめの男が現れている。
ど、ゴン
派手な音を立てたのは、狙い通り入り口の左に固定されている扉だった。
激しくぶつかった衝撃で、固定具が外れ、扉は半回転してしまり始める。
「何?」
黒ずくめの男は相応に手練れとみえたが、毒対策の重装備があだとなった。
思い切り振るった俺の剣をまともにうけて、2、3歩うしろにたたらをふむ。
仮面に一撃、それから胴を二三度切り裂く。
それだけで、充分だった。
切り裂かれた隙間から、毒の煙が入り込み、男をさっきの冒険者の道連れにする。
男がどさり、と倒れる頃には、俺は扉を完全に締め切っていた。
「オーウェンさん、鍵を!」
「いまはない!かんぬきがあるはずじゃ」
言われたとおり、扉にはそれにふさわしい大きなかんぬきがついている。
俺は剣のつかで思い切りそれを叩いて、なんとか横にスライドさせた。
「正面は、これで」
オーウェンが軽くうなずく。
同時、
中庭に面した窓が、派手な音をたてて破られた。
「まったく、手薄な時をねらってきおって」
そこから飛び込んで着たのは三人。
先ほどとは違い、毒対策で身体を重くすることはせず、みために動きやすそうな格好だ。
三人は完璧に見える連携で、たちまちオーウェンを囲っていく。
「まったく、なめられたもんじゃ」
いっそ無造作にみえる動きで、オーウェンはそのなかの一人との間合いをつめた。
あくまで三対一を維持しようとしてか、その一人が後ろに飛びずさる。
その、ほんのわずかな隙を、オーウェンの大剣がひと薙ぎにする。
ひとりが倒れ、それで動揺しないほかの二人はさすがといえた。が、その二人でも、オーウェンを相手にするには不足だった。
ただ大剣を振り回す、それだけの単純に見える斬撃を、両名ともに防ぐこともかわすこともできなかった。
「ま、こんなものかの」
言うオーウェンに、さいしょに倒れた男の影から、あらたな刺客が襲いかかった。
三人とみせて四人。
仲間の犠牲をおとりにした見事な連携は、
とす、
と肩から生えた一本の矢によって防がれた。
「ほう、これはなかなか」
「余計なお世話、だったですか?
「いやいや、良いものを見せてもらった」
シャロのほうを見て、オーウェンはわらう。
ぱちぱちぱち、という拍手の音が聞こえたのは、ちょうどそうした時だった。




