39話 シャロの妹を訪ねました
「わんわんだー」
町外れの家の中から小さな女の子が飛び出した。
彼女はまずシャロを見、それから後ろのタロを見て、我慢しきれないように駆けだした。
身体が弱い、というのは本当のようで、なんどか転びそうになりながらそのたびたてなおしてタロの元へとたどり着く。
ちら、とこちらを見た顔にうなずくと、彼女はタロへと飛びついた。
「えへへ、もふもふー」
見下ろすタロも、まんざらではなさそうだ。
タロにしては珍しいほどに、彼女を見る目はやさしかった。
そうしてあまりうごかずに、彼女にされるがままにさせている。
「あんまりはしゃぐもんじゃないですよ、モモ」
シャロもいつになく優しい表情で、妹を見ている。
なにかを気にしてか、それ以上近づかないのが不思議ではある。
「お姉、どうしたの?今日はやけににぎやかね」
ひとしきりタロのもふもふを堪能したあと、シャロの妹、モモが顔を上げてそういった。
言いながらも、タロから離れようとしないあたり、よほどタロのことが気に入ったようだ。
「モモ、タロさんにご迷惑でしょ」
「タロっていうんだ。タロ、お手~」
たす、と差し出された手に前足を乗せてあげるタロに、モモはあはははは、と元気に笑う。
「タロはおりこうね。とっても素敵」
そうして、とことこと歩いて俺たちのもとへやってくる。
「はじめまして、シャロの妹の、モモっていいます」
ぺこり、と頭を下げてから、彼女は上目遣いで俺を見た。
「それで、お兄さんはお姉の恋人なんです?」
「違うわ!!」
「違います!」
同行していたリンネと、それからシャロの声が重なった。
―――――――――
「みなさん、お姉のパーティーメンバーさんなんですね」
はしゃぎすぎたのか、ベッドに腰をかけながら、モモが言う
シャロはそんな彼女を心配するような目をしながら、あたりを見回した。
「いつもの、メイドさんは?」
「お姉、忘れたの?あのひとは二日にいっぺんきてもらうのよ」
床にまで届かない足をぱたぱたさせながら、モモはそう返した。
「そう、そうだったわね」
彼女は言って、脇の机に袋をそっと置いた。
「これ、メイドさんにわたしておいてね」
「わかった」
モモはあしをとめて、上目遣いでシャロをみた。
「それで、今日はお姉、泊っていってくれるんだよね?」
「え、わたしは・・・・・・」
シャロはそう言って俺の方を見る。
この家は狭く、泊るならモモの他にはあと一人が限度だろう。
俺たちのパーティーに身分あずかり、ということになっているシャロである。
彼女だけがここにひとりで泊るというのにはすこしの問題があるのだった。
でも、今日くらいはいいんじゃないかな。
そう思って、俺はシャロにうなずいてみせる。
「俺たちは、近くに宿をとってあるから、シャロは泊っていくといいよ」
いいんですか?と驚いた顔をする彼女に、俺はもう一度うなずいた。
「まあ、いいんじゃない?近くにはいるんだしさ」
リンネはどこかに宿を取ってもらって、俺とタロは野宿をするつもりだった。
タロとふたり、たまにはこういうのもわるくない。
シャロはすこし遠慮するふうにして、それからやっぱり頭を下げた。
「ありがとうです。今回は、甘えることにします」
「そう、よかった」
そんな俺たちを、モモが下から見上げている。
それからやおら立ち上がって、俺の方へ手を差し出した。
「ロッカさん、そとの空気を吸いたいの。ちょっとエスコートしていただけますかしら?」
「あ、それじゃあわたしが」
「お姉はちょっと休んでて」
ぴしゃ、と言われて、シャロはすこしだけかなしそうだ。
俺はモモにあわせるように、うやうやしく彼女の手を取った。
「お付き合いしますよ。お嬢さん」
「よしなに」
俺はモモと連れだって、外に出た。
身体を横たえるようにして、眠そうにしているタロがわずかに身動きするのがわかる。
「ほんとうにおっきいわんちゃんですね。タロさんでしたっけ。タロさんはロッカさんが飼っているんですか?」
「違うよ。タロは友達というか、そうだね。家族みたいなものかな」
「そう、ですか。うらやましいです」
モモは少し下をむくようにした。
「わたし、身体が弱くて、お姉には迷惑をかけてばっかり」
彼女は握っている俺の手をもう少し強くした。
「ロッカさんとタロさんみたいに、わたしもお姉といっしょに冒険できたらいいのにな」
俺は、何も言うことができないでいる。
少しの沈黙が続いて、それからモモがぱっと顔を上げた。
「ロッカさん!」
両手で俺の手を握り直して、彼女が続ける。
「お姉は、ああみえていいところがいっぱいあるんですよ」
「そうだね。シャロはいい娘だとおもうけど・・・・・・」
言うと、モモの顔がふわりと明るくなった。
「そうですよ。料理とかは、ちょっと苦手ですけど。それを補ってあまりあるんです」
そうして、ぺこり、と彼女は頭をさげた。
「だから、お姉のこと、よろしくお願いします」
どうよろしくすればいいのか、それがわかるわけではないけれど、モモのお願いに対する答えはどのみち一つしかないのだった。
「わかった、まかせて!」
俺はどんと、胸を叩いた。
「ほんとに、ホントですよ!」
タロがいつのまにか、ぴくぴくと耳を動かして、こちらをうかがっているのがみてとれた。




