33話 シャロの実力をはかってみました
弧を描いて飛んだ矢は、目標にと設置しておいたなべぶたの手前で地に落ちた。
腕組みをしたリンネが難しい顔をしてそれを見ている。
「まあ、こんなものですよ」
なにか言われる前にだろうか。シャロがぽつりとそういった。
弓師である、と自己申告のあった彼女のことを、確かめてみたいといったのはリンネだった。
今後パーティーとして行動するにあたって、シャロの実力を知っておくのはいいことだ。
シャロ自身も同意して、俺たちは王都近くの草原へやってきていた。
「そうね、これでは支援の役にはたたないかも」
リンネのいいようは辛辣だった。けれども言っていることは間違ってはいない。
なによりシャロ自身がそれをわかっているようだった。
「やっぱり、そうですよね。わたしが弓師だなんて、さいしょからムリがあったんですよ」
彼女は吐き捨てるようにそういった。
冒険者をやっていた時期にひどい目に遭った、そのことと関係があるのだろうか。
「あなたのつかっている弓って、ちょっと特殊じゃない?それを変えたらちょっとは良くなるのかも」
「これですか?」
彼女が示したその弓は、あまり詳しくない俺から見てもたしかに特別だった。
一般に支援職の弓師がつかう長弓はもちろんのこと、中距離用の複合弓などと比べてもあきらかに小さく短い。
「もうすこし、大きい弓をつかったほうがいいように思うんだけれど・・・・・・」
リンネが言うのに、シャロはその弓をかきいだくようにした。
「わたし、これ以外の弓はうまくひけないです。だからかえるつもりはないです」
「まあ、それならそれでいいじゃない?足りない分は俺たちでフォローしてあげるってことで」
そういうことじゃないでしょう?と言いたそうな顔をリンネはした。
けれどもそれを飲み込んで、
「そうね。まだお試し期間なんだし、最悪、弓師という職業に、こだわることもないのだし・・・・・・」
「母が、弓を使った大道芸人だったんですよ」
シャロが弓をだいたまま、とつとつと言った。
「わたしもずいぶん教えてもらって、だから冒険者として、弓師として、やっていけると思ったんですけどね」
続けた彼女は寂しそうに笑っている。
「おい、そっちはダメだ。とまれ!」
すこし離れた場所から声がした。
目をやれば、どこかで見知った顔の男が、複数のフードをかぶった男たちあいてに抜刀しているところだった。
見知った顔の男は、おそらくギルド員のだれかだろう。
オーウェンが俺たちの監視にと、置いていったのかもしれない。
「こころあたりは?」
リンネに聞かれるまでもない。
俺かシャロ、どちらかに追っ手がかかったということか。
「放っておいてくれていいんだけどなあ」
俺にしろ、シャロにしろ、彼らの組織に大きな脅威になっているとは思えない。
それともなにか、メンツのようなものがあるのだろうか。
「あれはたぶんギルドの人だよ。多勢に無勢だ。加勢しよう」
タロを怖がるふうなシャロだったので、タロにはお留守番をしてもらっている。
こんなことになるなら、ちょっと判断ミスだったかな?
「いくよ!【暴走特急!】」
リンネに次の行動を知らせるよう、あえて叫んで俺はスキルを発動する。
そのまま、ギルド員を囲む男たちに向けて、突っ込んだ。
まず1人!
突進によって男が1人、無力化される。
「大丈夫ですか?」
残りは三人。
突然現れたおれを顧みることなく、ギルド員はその数相手に斬り合いを続けていた。
先ほどまでは四対一、今は三対一で互角に斬り合う、ギルド員はそうとうに手練れである、かにみえたが、
「気をつけろ、毒だ!」
言うと、彼は膝をついて倒れ込んだ。
俺は彼をかばうように、一気に前に出る。
無言で斬りかかってくるフードの男たち。
代わり映えしないみための彼らは、手にした武器もほとんどいっしょだ。
そんな短刀では、俺にはかすり傷程度しかつけられないよ。
教えてあげる暇もなく、男たちは無言で切り込んできた。
なら、端から数を減らす!
俺は思って、他の二人を無視してただ一人に向けて剣を振るう。
俺とその男の技量はそうかわらないように思えたが、彼の持つ短刀では俺の全力の斬撃をふせぐことはできなかった。
あと、二人!
防御を無視した斬撃で、はたからみても隙だらけの俺にたいして、残りの二人が短刀を振るう。
【フェンリルの毛皮】はほとんどそれを防ぎきったが、連撃のひとつがわずか腕を傷つける。
フードの中で男の顔が、にやりと歪むのがわかったきがした。
短刀に毒が、仕込んであったか?
「残念だけど」
声に出して、今度はおしえて差し上げる。
「そんな毒じゃあ効かないよ。倒れてなんてあげられない」
【フェンリルの毛皮】の追加効果、毒耐性はそれらをすべて無効化している。
「おかえし、だ」
俺は牽制とみせかけて、剣を何度も大きく振るってみせる。
そのなかの一閃が残りのうち1人をわずか傷つけ、一筋の血を流させた。
【毒付与】によって麻痺毒が施された刃である。
実証済みの効果のほどは、あらためて語るほどのこともない。
残りは一人
「ロッカ、ごめん、こっちに!」
リンネの悲鳴ににた声が、遠くで響いた。
ぱっと見れば、そちらにもこちらと同じ、フードの男が幾人か、現れているのがわかった。
別働隊?しまった!
「リンネ、今行く!」
【暴走特急!】
クールタイムを過ぎたそのスキルが、瞬時に俺をリンネのもとへと運、
べなかった。
偶然か、狙ってのことなのか。
一直線にしか進めないのが、暴走特急というスキルである。
リンネと俺を結ぶ、その道筋を塞ぐように、こちらに残った最後の男が切り込んできたのだ。
発動された【暴走特急】は、その男を吹き飛ばして、そうしてそこで止まってしまう。
進めた距離は、わずか1メートルほどである。
リンネと、それとシャロまでの距離はあまりにも遠く思える。
スキルのクールタイムが、果てしなく遠く感じられた。
「リンネ、ごめん、しばらく耐えて!」
俺が叫ぶと、リンネが杖を構え、それからシャロが矢をつがえるのがちらりと見えた。




