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27話 潜入捜査、続行です

「シャロ、だよね?」


 バーテンダーが振り返って彼女を見る。

 シャロ?はものすごい勢いで飛び出して、俺の口を塞いだ。


「シャロ?だれですかその人。私はローゼ、ローゼですってば」


「いや、だって君・・・・・・」

「あなたたち、知り合いなのですか?」


 バーテンダーが言うのに、ぶんぶんと首をふりながら彼女は


「いやですねーこの人。わたしたち、初対面ですよぅ。ナンパですかねー。定番過ぎますよね」


 バーテンダーは片方の目でぎろりと彼女を睨み、言う。


「ならばいいでしょう。言ったとおり大切なお客様です。わかっているでしょうね」

「それではロッカさん。愉しんでいってください」


 俺の方には作り笑顔を向けてから、カウンターへと戻っていく。

 ローゼ?は俺の隣に腰掛けると、しなだれかかって笑顔を浮かべる。

 布地のすくない服装が、目に毒だった。

 それから彼女は俺の耳元に口を近づけ、ささやく。


「ちょっと、あんたなんでこんなところにいるのよ」

「やっぱり、シャロなんじゃないか」


 なんとはなしに、俺もささやき声で返す。

 シャロ?はカウンターのほうを伺いながら、観念したようにうなだれた。


「そうよ。ここで働いてるの」


 それから、彼女はますます俺に体を寄せてきた。


「ねえ、お願い、事情があるの。あなたにであった経緯とか、お店には秘密にしてくれない?」


 これは、都合がいいかもしれない、と俺は思った。


「いいよ。黙っておいてあげる。その代わり・・・・・・」


 シャロがなにをされるのだろうかとつばを飲み込むのがわかった。


「ちょっと適当に、俺の相手をしているフリをしてくれないかな」


 彼女がぽかんとするのがわかった。


―――――――――


「おもったよりはやかったわね」


 指定された場所から怪しげな男に案内されるまま、アドルフは後に続いた。

 裏通りをさらに行き、行き止まりと見えた道の隙間を抜け進む。


 時間をかけてたどり着いたその先の、ほとんど壁と同化した入り口が目当ての場所らしかった。


 出迎えたエヴァンジェリンは、アドルフの側で媚びを売っていたときと見た目こそかわっていない。

けれども、笑顔でアドルフに語りかけてくる彼女は、もはや彼の知るエヴァンジェリンではないのだった。

かぶっていた皮を1枚脱ぎ捨てたような、それが彼女の本性なのだろう。

付き従う男たちを指ひとつで動かして、エヴァンジェリンはアドルフを1室へと導いた。


「フードくらい、とったらどう?」

「いや、これでいい」


 目深にかぶったフードで、アドルフの表情は読み取りにくい。

 エヴァンジェリンはそれ以上うながそうとはせずに、用意させた椅子にこしかけた。


「それで、ここに来た、っていうことは、お困りなのよね」


 アドルフはそれに答えない。


「まあいいわ」


 彼女が手を挙げると、1人の男が駆け寄って、彼女に紙を手渡した。


「私、いえ、私たちの組織に協力してくれれば、お金だって、名声だって、思うがままよ」


 アドルフは黙って、渡された紙を見る。

 そうしているうち、低い笑い声がフードの中から漏れ出てきた。


「なめられたもんだな。このアドルフに対して」


 派手な音を立てて、紙が二つに破り裂かれる。


「俺を顎でつかおうてか」


「待って、この前の事件、あなたがやったっていう証拠を、私たちは持って・・・・・・」

「おまえら、どうせ後ろ暗い組織なんだろ。だったらつぶして、手柄と相殺させてもらうさ」

「できると思うの?」

「できないと思うのかよ」


 アドルフは剣に手をかけてそういった。

 後ろで抜刀しかけた男たちを制しながら、エヴァンジェリンはアドルフと見つめ合う。

 しばらくそうしてから、彼女は両の手を挙げた。


「降参。あなたと戦いたいわけではないのよ」


 アドルフも剣のつかから手を離す。


「説明を、させてもらえるかしら?」


―――――――――


「どう?あなたにとっても、悪い話しじゃないはずよ?」


 エヴァンジェリンは、言って右手を差し出した。


「従え、なんて傲慢なことはいわないわ。力を貸してほしいの」


 アドルフはその手を取らず、無言でしばらくの時間を過ごした。

 それから、顔をあげてエヴァンジェリンを正面から見据える。


「やはり、断る。腐っても俺は勇者なんだよ。そんな計画にはのれないね」


「あなたたち、手を出すんじゃないのよ。今騒ぎを起こすわけにはいかないわ」


 ことり、と音がした。


 さほど大きな音ではない。

 エヴァンジェリンは音のした方向に、思わず目をやる。

 目線より上。

 とくに変わった様子はない。


 いや、これはむしろ、天井?


 ごす、と音を立てて、天井から剣が生えだした。

 その刃を伝って、一筋の血が流れ落ちる。


 エヴァンジェリンの視線が、ひといきで剣を飛ばして見せたアドルフに注がれた。


「ネズミ、だ、文字通りな」


 なにを?と疑問符を浮かべるエヴァンジェリンに、アドルフはかんで含めるように教えてやった。


「おそらくはテイマー。それに操られた眷属だろうな。しっかり見られていたようだぞ。大丈夫なのか?お前らの組織のセキュリティーってやつは」


 言われて、エヴァンジェリンは控えていた男に指示を飛ばす。

 彼らはばたばたと、部屋を出てどこかへ走って行った。

 エヴァンジェリンの顔に浮かんだほんものの焦りの色を、アドルフが見たのははじめてだった。


―――――――――


 みつかった?


 ネズ四郎との更新が途絶えた視界が真っ暗になる。

 直前の衝撃は、ネズ四郎に対して、どこかから攻撃が加えられたことを表していた。


 シャロに俺の相手のふりをさせながら、俺はこっそりネズ四郎を操って偵察を続けていた。

 もういちど武器庫を確認し、それから気になっていたフードの男がいた部屋へ、ネズ四郎を戻した瞬間、テイムは中断されていた。


「ちょっと、あなたどうしたのよ」


 強制的にテイムを中断させられて、若干の混乱状態にあった俺をシャロが心配するように手をかけて揺する。


 俺は彼女ごしに、カウンターの方をみた。


 そこにいるバーテンダーのもとに、男が駆け寄ってくるところだった。


「テイマーだと?まさか」


 彼の視線が、真っ直ぐに俺を捉える。


「ちょっと、ほんとにどうしたの?」


「ありがとう、楽しかったよ、シャロ」


 俺は立ち上がり、気づかれないように入り口を目指そうとした。


 タン、


 と音がして目の前を通り過ぎた短刀が、脇の壁に突きたたった。


「ロッカさん、いえ、ビーストテイマーのロッカさん、でしたな?」


 新たに2本、短刀を指の間に挟んで、投擲の準備をしながら、バーテンダーは言った。


「ちょっと、あなたなにかしたの?」


 バーテンダーは、シャロのほうを見る。


「ローゼ、どうやらあなた、彼の知り合いだったようですね。二人共に、聞きたい

ことがある。裏まで来てもらいましょうか?」


 え?と顔に疑問符をうかべるシャロ。


「ごめんね。巻き込んじゃったみたい」


 絶句するシャロをしりめに、左右からバーテンダーに命令されたらしい屈強な男たちが、俺たちを捕まえようとしてか迫ってくる。


 俺は腰に差した剣に右手をかけ、左手で懐の口寄せの札を引き出した。

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