24話 パーティーに加入志望の女の子、です
どうですか、というのうに、ますます身をよせてくるシャロから、俺はなんとか距離をとる。
「ありがたいけど、俺一人じゃ決められないよ。みんなに相談してみないと」
「相談、って、もしかしてリンネさんに、ですか?」
離れた分だけ近づきながら、シャロが続けた。
「相談って、もしかしてリンネさんにですか」
「しってるの?」
それには答えず、シャロは俺にうつむいてみせる。
「あの、ロッカさんとリンネさん。おふたりはおつきあいされてるんですか?」
おつきあい?俺とリンネが、恋人同士だってこと?
「あ、え、いや、それはない、かな?」
突然の質問に、おれはしどろもどろに否定した。
「よかったー」
「な、なにが?」
「ロッカさんって、リンネさんみたいな女の人がタイプなんですか」
タイプってなんだろう。リンネは女子にしては背が高く、スレンダーなタイプだけれど・・・・・・
「いや、そういうわけじゃ・・・・・・」
シャロはもうひとつ、俺との距離を縮めてくる。
彼女はリンネとは別のタイプだ。小柄でかわいい感じ。押しつけてくる感触は、どうやら着痩せするほうみたい。
「もしかして、わたしが立候補しちゃってもいいですか?」
俺はあたりを見回した。
用事がある、というリンネはしばらくやってこないだろう。あとは・・・・・・
「そうだ、タロ」
「なんです?」
「俺たちのパーティーメンバー。タロにも相談してみないとね」
シャロは小首をかしげた。
「タロさん、ですか?ロッカさんのところは、おふたりのパーティーじゃあなかったんですね?」
「そうなんだよ。今から会いに行くけど、」
「もちろん、おともしますよ」
こちらが聞こうとするまえに、リンネは俺の手をとってそう答えた。
――――――――
「それじゃあ、タロさんはロッカさんのペットなんですね」
「ペットじゃないよ。仲間」
「わかりますー。それだけ可愛がってるんですね。会うのが楽しみ」
タロのもとへ向かう道すがら、俺はタロのことについてシャロにずっと話し続けた。
シャロはなかなかの聞き上手で、たくさん合いの手をいれてくれるので話しやすかった。
タロの魅力についてはまだまだ語りきれるものではないが、タロのことについてこれだけ話せる相手がいるのは、俺としてもなかなかに楽しかった。
「わあ、すごいお宿。ここに泊まっているんですか?」
「うん。ここはタロのためにとったんだ」
ギルドが用意してくれた宿のほかに、俺はタロ用の宿も別に確保していた。
以前の苦い経験から、タロを王都でつれまわすわけにはいかなかったからだ。
どんなペットでも受け入れる、というその宿の存在は、さすがは王都といったところか。
ギルドが用意してくれた宿も相応に高級なところだったが、タロが泊まるこのホテルは、王都でも最高級のそれである。
「さすがはロッカさんですね。こんなところに泊まれるだなんて」
種をあかせば、どくスライムを倒して得た、魔石のおかげである。ひとつひとつが思ったよりもずっと高く売れ、俺たちはそれなりに潤っていた。
もっとも、タロと俺が調子に乗って大範囲魔法を連発したせいで魔石の大半は破壊され、手に入れられたのは片手に数えるほどだったのだけれど。
あれはほんとうにもったいないことをしたな。
それでも、タロをこんな高級宿にとめてあげても、数日持つだけの余裕ができたのはありがたかった。
「タロさんに会うのがホント楽しみ。ささ、はやくいきましょう」
ここで最後に、タロのいちばんの魅力について語ろうとした俺を制するように、シャロが俺の腕をひいた。
――――――――
「げっ」
俺の横で、シャロの体が一瞬硬直するのがわかった。
タロの格好良さを見れば、そうなるのも無理はない。
「なにこれ、これじゃまるで、魔獣じゃ・・・・・・」
「ん、なに?」
俺が彼女のほうを向くと、シャロは満面の笑みを浮かべていた。
「すごーい。すっごくかっこいいですね、タロさん。」
「タロ、こちらはシャロちゃん。俺たちのパーティーにはいりたいんだって」
「初めまして、タロさん。わたし、昔おっきな犬を飼っていたんですよ。だからこういうおっきな子には、あこがれがあって・・・・・・」
タロは鼻先ですんすんとシャロの匂いを伺うようにし、それから舌を出して、ぺろりと彼女の頬をなめる。
「ムリムリ、ゼッタイニムリ」
ぷるぷると震えながら喜んでいるふうなシャロを見て、俺は少し心が浮き立つ。
俺としては、自分が褒められるよりもタロをそうしてくれるほうが、ずっとうれしいことなのだ。
「あはは、それにしても、すごいですよね、ロッカさん、こんな格好いい魔獣を手なずけちゃうだなんて」
感動でか、ぷるぷる体を震わせながら、シャロは言う。
格好いい、といわれてタロも気分がいいのか、タロは口のはしをあげて牙をのぞかせてみせていた。
まるで笑っているような顔だ。
タロとの相性がこれだけよければ、シャロのパーティー加入を検討してもいいかもしれない。
「ヒッ」
彼女はタロの顔をみて、引きつったような笑みをうかべた。
「シャロちゃんもタロを気に入ってくれた?ならしばらくふたりにしてあげようか。俺はちょっと手続きがあるから」
「いいい、いやです。いっしょにいてくれないと」
「そう?」
彼女は俺の腕をとる。
「そ、それより、もう少し二人で外をあるきませんか?ああ、そうだ。リンネさんに紹介してくださいよ。タロさんの格好良さは充分堪能しましたので」
「いや、手続きしたあとはもうちょっとタロと遊んでいくつもり。どう?シャロもいっしょに」
タロが俺とシャロのほうへ
ウォフ
と鋭く吠えた。
「ほら、タロも遊びたいって・・・・・・」
「いえ、もういいです。もう充分です。あーわたしもちょっと用事を思い出しちゃったなー」
「そうなの?残念だなぁ」
俺が言うと、彼女は全力で後ずさった。
「それから、パーティー加入の件も白紙で。ちょっとムリ。ほんとにムリなんです。こんなの」
言うと、彼女は俺の返事も待たずに扉から飛び出るように去って行く。
「なんだったんだろ、シャロちゃん」
なんとなく置き去りにされた感のある俺である。
そんな俺を、タロはいちど鼻先でつん、とつつくと、それからめちゃくちゃになめ回した。
――――――――
「行ったわね」
呼ばれて振り向くと、リンネが扉の脇に立っていた。
少し前から、そこで俺たちを見ていたらしい。
「あなたが有名になればなるほど、ああいう手合いが増えるものよ。今回はうまく追い払えたみたいね。よかった。」
「なんのこと?」
「アドルフの時もいっぱいいたでしょ?彼の名声にたかってくるような冒険者崩れが」
リンネは少し、寂しそうな顔をする。
「アドルフはそういうのに弱かったから、あんなふうになっちゃったけど。あなたは大丈夫みたいね、ロッカ」
俺は首をかしげた。
「そうなんだ。でも彼女、シャロちゃんはいい娘にみえたけど。タロの話もいっぱい聞いてくれたし」
リンネが驚いた顔をして俺を見た。
「気づいていなかったのね。ロッカ。わたしてっきり」
「そんな娘にはみえなかったけどなぁ。犬好きだっていってたし、タロとの相性がよければ、パーティーにはいってもらってもよかったのに」
「それだけ?パーティーにいれてもいいって、ほかのところが気に入ったんじゃないの?たとえば体つき、とか」
そうして、リンネは自分の胸のあたりをみた。なぜだかすこし、寂しそうだ。
「そうだね。ひらひらした服がちょっと気になったけど、タロはああいうの好きそうだよね。あ、香水がちょっときつかったのはあらためてほしいかなあ。タロがああいうの、いやがるんだよね」
「そうなんだ、ふーん。そっか。」
リンネがそこで、タロを見上げた。
タロもなぜかリンネに同意するようにうなずいているように見える。
「あの娘もかわいそうに。あ、でもそうなると私もいろいろ考えないと、か」
ぽつと、彼女がなにか言うのがわかった。




