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23話 2階級特進です

「リンネ・クロスヘイム」


 王都のギルドマスターはゆっくりと彼女の名を呼んだ。

 近隣では最大のギルドの長。

 彼が身につけている豪奢なローブは、公式の催しで着用される権威の証だ。


「このたびの功績をみとめ、リンネ・クロスヘイムのB級冒険者、その再昇格をみとめる」


 あたりでざわめきがうまれ、それはゆっくりと広がってから唐突にやむ。

 俺も含め、皆、次のギルドマスターのひとことを待っているのだ。


「続けて、テイマー、ロッカ、前へ」


 先ほどより少しだけ大きな声で、呼ばれた俺は言われたとおり前へ出た。

 その場にいる皆の注目が俺にあつまる。その気恥ずかしさを、ギルドマスターの厳かな声が覆っていった。


「F級冒険者、ロッカ、このたびの功績大なり。されば2階級を特進して、D級冒険者への昇格をみとめる」


 ギルドマスターはそのことが書かれた証書をかかげ、皆に示して見せた。


 わっと

 あたりは一気に湧き上がった。


「ロッカくん、いやロッカさん。本当に助かったよ。メンバーにかわって礼を言わせてくれ」


 年かさの冒険者が俺にそういって頭を下げた。

 今回の騒動の発端である森の中で、俺とはじめに言葉をかわした冒険者だ。

 確認はできていなかったが、彼のパーティーメンバーも、ちゃんと助けることができていたらしい。


「よかったです。俺も安心・・・・・・」


 年が倍ほどもはなれた相手に頭を下げられ、恐縮する俺である。

 しかし彼と言葉を交わしているひまもなく、横から他の男が飲み物の入った杯を押しつけてきた。


「あんた、ほんとにすげえよ。いままでF級だったなんて、嘘だろ!?」

「だからいっただろ。俺は前からやる男だと思ってたんだぜ」

「あんたが今回活躍した?へえ、とてもそうはみえないわね。ともかくおめでとう」


 次々に、その場にいた冒険者皆が飲み物を持っておれの杯に殺到してくる。

 ひとりひとりとゆっくり話す余裕もなく、次々に声をかけあい、祝福される。

 俺はなかばもみくちゃになりながら、俺のために開かれたという宴をたのしんだ。


――――――――


 裏口からこっそりと外へでると、あたりはすっかり暮れていた。

 飲み物はアルコール抜きのものを、と頼んでいたはずなのだが、次々にそそがれたそれのなかにお酒でも混じっていたのだろうか。

 体がなかからぽかぽかとほてっていた。


「ああ、ロッカ、やっとあえたわ」


 同じ裏口を、リンネが静かにくぐり抜ける。

 彼女も俺と同じく、みなにもみくちゃにされていたらしい。

 上機嫌ではあるようだけれど、どこかつかれたようすもあった。


「リンネ、B級再昇格おめでとう」


 俺は持っていた杯をすこし上げて、彼女にお祝いの言葉をかける。

 リンネはちょっと驚いたような顔をしてから、それに応じた。


「ありがとう。私もこんなにはやく戻れるとは思っていなかったわ。みんなあなたのおかげよ、ロッカ」


 そういってから、リンネはもういちど杯をかかげた。


「ロッカのD級昇格にも、乾杯。2階級特進なんて、めったにないのよ」


 俺たちは杯をあわせ、中身を一気にのみほした。


「それで、なんだけど。私はこれからB級冒険者の手続きがあるみたいなの。こういうのって少し時間がかかるのよね」


 D級は、冒険者として、ひとつの目標点だ。俺のことはともかくとして、冒険者として活躍している者の多くがD級に属している。ギルドが発行するクエストのほとんどを受諾することができ、行動に制限も少ない。

 それをふたつとび超えたB級ともなれば、ギルドとしても特別のランクであり、様々な特権を得られるのをかわりとして、手続きも少し面倒、ということらしい。


「わたしはこれでB級は2回目だから、大体の流れはわかっているんだけどね。だから帰るなら先に行っていて」


 今回のセレモニーに際して、ギルドは俺たちのパーティーに宿屋を手配してくれていた。

 それは王都の中心街にあるということだから、ここからそう遠くはない。


「それとも、もう少し宴に参加していく?」


 ギルドの中は主役ふたりを抜きにして、いまだ騒がしく盛り上がっていた。

 俺たちが中にもどれば、またさきほどの狂騒がはじまって、俺はもみくちゃになるのだろう。


「そうだね、ちょっとつかれちゃったかも」

「まあ、いいじゃない。ヒーローってそういうものよ?」


 それも悪くはないのだけれど、と思う俺の顔を見ながら、リンネは続ける。


「まあ、そういうのもロッカらしいか」


 それから彼女はちょっとうつむく。


「手続きがなければ、2人で抜け出しましょう、っていうところね」

「そう、なんだ」


 彼女のことだ。王都のどこかのお店に、用事でもあるんだろうな。その荷物持ちなら、確かに必要かもしれない。

 リンネはそんな俺の顔をのぞき込んで、かたをすくめた。


「じゃあ、いってくるわね」


 俺は彼女を見送った。


――――――――


 特に当てもなく、あたりを歩いているうちに、酔いはすっかりさめていた。

 まだまだ日が暮れたばかりの時間。王都では人通りが途切れていない。


 そろそろ宿に帰ろうか。

 そう思った俺に、横合いから声がかかる。


「ロッカさん、ですよね」


かわいらしい、女の子の声だ。

 目をやると、声から想像できるとおり、小柄な女の子がこちらを見ていた。


「ああ、やっぱりロッカさんだ」


 彼女は小走りに近づいて、いきなり俺の手を取った。


「君は?」

「わたし、はシャロっていいます。わたしもロッカさんと同じ、冒険者なんです」


 どうやら彼女は俺のことを知ってくれているようだ。けれども俺にはさっぱり見覚えのない娘だった。


「わたし、ロッカさんのファンなんです。握手していただけませんか?」


 彼女はいきなり凄いことを言い出した。

 俺にファン?なんて戸惑っているうちに、シャロという少女は俺の手をほどいて握り、ぶんぶんとたてにふる。


「わあ、うれしいです。すっごく」

「こ、こちらこそ、ありがとう」


 勢いに圧倒される俺である。

 すわりませんか?とうながすシャロのいうがまま、俺たちは公園のベンチに並んで腰を下ろした。


「わたし、弓師をしているんです」

「そうなんだ」


それにしては、なんだか服装がひらひらしすぎているきはするな。と俺は思った。


「弓師って、後衛職のなかではちょっと地味なかんじじゃないですか。テイマーもおんなじようなかんじがするじゃないですか。それで、そんなテイマーのロッカさんが活躍したのがすっごくうれしくって」

「そうなんだ」


 魔法使いやヒーラーに比べれば、たしかに弓師は派手ではない、という気はしなくもない。それでも地味な職種というイメージはなかったけれど、実際にその職についている本人からすればそんなふうにおもうのかもしれない。


「そうなんですよー」


シャロは俺の手をもういちどとって、胸のあたりでかきいだくようにする。それからぐい、と体を寄せて、上目づかいで俺を見た。


「それで、お願いがあるんですけど」


 どきり、とした俺にかまうことなく、彼女は続けた。


「わたしを、ロッカさんのパーティーにいれてほしいんです 」


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