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20話 そして、救出作戦です

「この先の中級者向けダンジョン。そこのセーフゾーンの周りに、凶悪なモンスターが大量に湧いて出たんです。それで、大勢がとりのこされちまって」


 1人が説明をはじめると、他の冒険者たちもそれに続いた。


「1体1体はそれほど強くはない。だが数が多いのと、やっかいなのが毒なんだ」

「それで、救援を求めようという話しになったんだが、その行く先でもめていてね」


 見れば、誰もが疲れた様子だ。

 皆、それなり以上に経験を積んでいるようにも見える冒険者たちである。

 そんな彼らが手に負えないほど、中はひどいことになっているのだろうか。


「それで、モンスターの特徴は?」


「スライム形態なのは確認している。それ以外は、毒を使うと言うことしか・・・・・・」

「俺、直接やりあいましたよ。動きも遅いし、凄い攻撃をしてくる、ってわけじゃない。でも、奴らの体に触れただけでこうなっちまって」


 冒険者の1人が、自分の左腕を示して見せた。

 そこはやけどをしたように赤くただれて腫れ上がっている。

 毒の処理はすんでいるのだろうが、見た目にひどい有様だ。

 リンネが横から小さな声で呪文を唱えると、みるまに腫れは引いていった。


「初心者あつかいしたのは謝ろう。君たちもいっぱしの冒険者のようだし、何か力を貸してもらえるなら・・・・・・」


 俺は少し考えた。

 【フェンリルの毛皮】の追加スキル、まだ試したことはないが、あれならば。


「俺、毒耐性持ちです」

「何、なんだって?」

「だから、今からダンジョンに救出に向かおうと思います」

「しかし、それは・・・・・・」

 

彼が言う、力を貸すとはギルドへの報告のお手伝いだとか、そのくらいのことだったのだろう。


「確かにそれができるなら我々としてもありがたい。しかしいくら実績があるとはいえ、君にそれを任せるのは、」


 がさがさと音がして、タロが姿を現した。

 遅れていたのが、追いついてきたようだ。


 冒険者たちの何人かはタロをみて剣を抜こうとする。

けれども、事情を知っているらしい人も何人かいて、俺がなにか言うまでもなくその場はすぐにおさまった。


「安心してください。俺のパーティーメンバーですよ」


 頼もしいでしょう、というように俺は胸をはってみせた。


「救助の要請はたのみます。時間がないんでしょう?すぐにいきますよ」


 タロの威容は、彼らの心配を吹き飛ばすだけの凄みがあったようだ。

 最初に、俺に話しかけてきた1番のベテランらしき冒険者が頭をさげる。


「すまない。たのむ。俺の仲間もとりのこされてるんだ」


 それで気が立っていたのもあるのだろう。無理はないな、と俺は思った。


 冒険者たちが道を分かれ、救援を呼びに行く中、リンネが俺の脇へ寄った。


「いいの?無理していく必要はないのよ?」

「さっき俺の味方をしてくれてたの、リンネの前の仲間でしょ?ならここは頑張らないわけにいかないよ」


 リンネはふう、と息を吐いた。


「ばれてたか。まあ、私もあのひとたちに恩があるってわけじゃないけど、さすがにね」

「それに、冒険者たるもの常に誰かの助けになるべしって本にも書いてあったしね。あと、自信もあるんだ」


 自信があるのは自分の実力ではなく、【フェンリルの毛皮】のスキル効果のほうである。

 毒耐性はまだ試してみたことはないけれど、タロに関するスキルなら、無条件に信じられるというものだ。

 凄い毒があるということだから、完全に防ぎきることはできないかもしれないけど、それでも耐性があるぶんうまくたちまわればなんとかなるかもしれない。


「リンネはここで待っていて。いくのは俺とタロだけだ」


「なにいってるの。もともと私がらみのことなんだから、いっしょにいくわよ。それに、救助したひとたちを癒やす手立てが必要でしょ?」


 なるほど、確かに。今回は敵を倒せばそれでいいというものでもない。

 俺は素直にお願いした。


「よろしく」

「こちらこそ、よ」


 タロが、いくならはやくしよう、と俺の背中を鼻先で押した。


―――――――――


ダンジョンに踏み入ると、入り口あたりにも冒険者が何人か休んでいた。

そのうちの幾人かは毒に犯されているように見えたが、毒消しの薬草やヒーラーの数はとりあえずそろいつつあるようだ。


俺たちはどんどんと先を急いだ。


目指す5階層への道は長い。

中級ダンジョンということもあって、出てくるモンスターは俺のレベルでは少しやっかいな相手である。

けれども、あとに残った者たちの脱出のためだろう。

 何人かの冒険者が道中に陣取り、湧き出るモンスターを片端から倒していた。

 入り口から5階層の目的地まで、最短距離の安全は確保されているというわけだ。


脱出の流れに逆らって、奥へと向かうのは俺たちだけだ。

脱出しようとする冒険者たちは皆必死で、俺たちを止めようとする気力があるものはいないようだった。


普通にダンジョンをクリアするに比べればあっという間、俺たちは5階層にたどり着いた。


入り口からすでに、よどんだ空気が流れてる。

聞いた話ではスライムの増殖はすさまじいということだ。

だから最悪、5階層全体にスライムが広がっている危険も考えられたが、どうやらそこまでではないようだ。


「いた、わね」


 5階層を進んでしばらく、リンネが後ろで小さく言う。

 視界の端にセーフゾーンが見えてはいたが、6階層への道はスライムに埋め尽くされているようだった。


 どうやら、スライムがいるのは、聞いていた泉と、その周囲にかぎられているらしい。


 セーフゾーンには何人か、冒険者がいるのが見て取れる。

 スライムたちはさすがにセーフゾーンに侵入することはないようだ。

 だが周囲全体を埋め尽くすように広がって、中にいる冒険者たちは行くも戻るも、できない状態にあった。


「何人かは毒にやられているわね。ヒーラーも薬も足りていないみたい」

「ならまずは、セーフゾーンへの道をひらこう。タロ?」


 俺はタロのほうを見上げた。

 瞬間。


 ぼちゃり、と

 緑色のぬたぬたしたものが、タロの頭のさらに上、ダンジョンの天井から俺めがけて落ちてきた。


 スライム。それも毒を持つという例の1体だ。


「うわ」


 なんとか転がってかわし、剣を抜いて切りつける。

 嫌な感触とともに、スライムの中を刃がゆっくり通過していく。

 切り裂いた部分は床に落ち、べちゃりといやな匂いを放つ。


「だめよ、核を狙って」


 リンネのいうとおり、スライムは体積を減らしたものの、特に弱ったというふうではないようだ。

 さいわいというべきか。

 濁った緑の中、うすぼんやりと、スライムの核は目視できた。


 俺は剣を真っ直ぐ持つと、スライムに直接触れないように注意しながら、その核めがけて思い切り突き入れる。

 スライムの動きは鈍く、俺の剣は狙いを外すことはなかった。


 刃を突き入れられたスライムの核は2、3度またたくように光を放つと、やがてゆっくりとそれを失う。


「よし、これならいけそうだ」


 俺はリンネのほうを振り向いてそういった。

 彼女は笑みをうかべかけ、それからその顔が驚くようにゆがんでいく。


「ロッカ、危ない」


 リンネが叫ぶのを聞いて、俺はスライムのほうへと振り返る。

 倒した、とみえたスライムは俺の脇で急速に膨らみ、そうしてはじけた。


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