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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第六十話 リエーラとの再会

 町デートを終えた翌朝。疲れもすっかり抜け、生活リズムを取り戻した俺は意気揚々と部屋を出る。


「今日からダンジョンか……腕が鳴るなぁ」


 気持ちの良い朝の冷たい空気を鼻から吸い込み、くしゃみした。


「さっむ……!」


 なんだろう、思ってた3倍は寒い。着替えて部屋を出るまでは感じなかったはずの頬を撫でる冷気に、ぶるりと体が震える。


「風邪でも引いたか……?」


 咳はない。熱もなさそう。鼻詰まりは……ちょっとある。でも頭痛はない。悪寒もないが、シンプルに寒い。


 昨日今日でこの変わり様、どうなっているんだとふと窓の外を見て、理解した。


「積もってるじゃん……!」


 あれ程までにカラフルだった窓の向こうに見える屋根には漏れなく雪が積もり、景色は、白一色に染まっていた。


 絶望しながら階段を下り、食堂へと入る。


「おはよーう」

「おはようございます……寒いですね」

「雪だからね~。風邪引くから雪合戦はなしね」

「しませんよ……」


 雪で喜べる程若くはない。ただただ寒い。この寒さの極致にある現象をどうして喜べようか。


「俺のことを見失わないでくれよ」

「白いもんな……」

「半分黒いから大丈夫だよ。変な心配してないでさっさと食って、行くよ」


 チトセさんに促され、朝食を胃に詰め込んだ俺達は宿を後にし、ギルドへ向かった。今も降り続く雪をどうにか避けられないものかと悩むも解決の糸口は見えず、フードを被ることで多少の抵抗を試みる。


 吐く息は白く、踏む雪は柔らかい。ぎゅ、ぎゅ、と鳴る足元にうんざりしながら歩を進めた。


「あたしが子供の頃はこんなに積もる程降らなかったな」

「暖かい地域だったんですか?」

「ん-、気候的にはそうでもなかったけれど、山の位置とか関係あったのかな」


 寒くても山の位置で降らないこともあるのか。となると此処、ケインドルスクは山岳地帯だ。標高も高いし、雪が降るのは当然なのかもしれない。見上げれば聖地である上顎の崖が見える。あんなでかい崖があるのにどうやって積もったんだ……?


 今も真上から降り続ける雪の理由も説明が付かない。ケインゴルスク七不思議である。


「ほら、着いたよ」

「いつもより遠く感じたな」

「いつもって程通い詰めてもないけどね」


 どうにも起こった一連の事件の所為で俺達の中でケインゴルスク生活が長いものだと認識しているようだ。それ程までに、あの一夜は濃かった。夜の黒よりも黒い腹の内を見せられた濃密な夜だったのだ。忘れろと言われて忘れられる程、簡単なものではなかった。


 いつの間にか俯いていた顔を上げると、チトセさんがギルドに入るところだった。此方を振り向いたヴィンセントが手招きし、それに頷いて踏み出した足を盛大に滑らせた俺は、雪まみれでギルドへと転がり込んだ。




 ギルドの端っこで雪を落としていると、手早く出立処理を済ませたチトセさんが戻ってくる。手に持った紙をぺらぺらとなびかせながら、俺を見て溜息を吐いた。


「なんですか、滑っちゃ駄目ですか」

「油断してるからそうなるんだよ。それよりも、これ」

「?」


 チトセさんは持っていた紙を俺に見せる。其処にはギルドからのお知らせが書いてあった。


「えーっと……『当面の間、ダンジョンへの入場を制限する』……はぁ!?」

「冒険者は勿論、信徒連中も連れていかれて、ギルド職員の激減が理由、だそうよ」

「カインのような連中が多かったってことですか……クソ過ぎる……」

「管理職の人間も連行されたらしいからな。ギルド内も大慌てらしい」


 流石にこれは予想していなかった。いや、予想が足りなかった。カインだけが上手く立ち回っていると思い込んでいた。ちょっと考えたら分かるだろうに。上役の方が、もみ消す作業は遥かに楽なのだと。


「どうしたもんかね……」

「制限であって、禁止じゃないから何とかなるとか……ないか」

「……いや、あるかもしれない」


 閃いた顔をしたチトセさんがパッと顔を上げる。


「ベラに直談判しよう」

「そうかその手があったか」

「いや、どうなんだ……迷惑じゃないですかね?」


 今の竜教は恐らく過去一に忙しいと思う。都市1つ分の事情聴取なのだ。忙しくない訳がない。


「でもほら、何かあったらいつでも来てねって言ってたし」

「……言ってたか?」

「……言ってないと思う」

「うるさいなぁ! どっちにしても此処に居てもしょうがないんだから、ほら行くよ!」


 チトセさんの一声に従うしかない俺達は、もう一度フードを被り直し、再び降りしきる雪の中へと身を投じた。



  □   □   □   □



「申し訳ございません、教祖様は多忙の身でして……」


 そう断りを入れてくるのは目の下に隈を作り、今にも倒れそうなくらいにフラフラした信徒だ。


「それは知ってるって言ってるでしょ。”赫炎”が来たって言ってくれたらそれでいいから、伝えてよ」

「申し訳ございませんが……」

「申し訳ございませんじゃなくてさぁ」


 こんなにやつれているのに信徒はチトセさんに対して一歩も引かず、面会を断っている。……いや、やつれているからこそ、相手を計る思考もなく、ビビることも取り繕うこともないのか。無敵じゃないか。


 しかしこうなるだろうなと思っていた俺としては今後のことを考えざるを得ない。魔剣は見つけられず、去るしかないのか?


 と、流石の俺も諦めそうになっていたところを黒いローブに身を包み、顔を隠した人間が横切った。


「影の部隊もこうして引っ張り出されるほどの忙しさか……」


 と、俺の隣に居たヴィンセントが呟く。


「裏も表もないってのも、考えものだな……ん?」


 ふと、俺はその人物を鑑定の力で視た。何を思ってそうしたのかは分からない。何かの勘が働いたのかもしれない。鑑定の力が人に効くとも思っていなかった。けれど、それは一種の予感だった。あの人物が、もしかしたらこの窮地を打破してくれるんじゃないか、と。


 果たして俺の勘は的中した。鑑定の力は人間にも作用し、その人物の名が『リエーラ・エステバンス』と表記されたのだ。


 覚えている。リエーラとはあのブルーの地底湖で出会った冒険者の1人だ。昨日、チトセさんから彼等が黒蜥蜴衆の一員だとも聞いていた。


「ちょっと待ってくれ、其処の人!」


 慌てて声を掛けるとリエーラが振り向く。頭まですっぽり被った黒いローブの中の顔も、黒い布で覆っていてよく見えない。リエーラは小首を傾げながら俺を見る。


「俺です、ウォルターです」


 俺は被ったままだったフードを脱ぎ、顔を見せる。それで漸くリエーラも俺だと気付いたようで、驚いた仕草で此方へ戻ってきた。


 近くで見ると、覆っているのは口元だけのようだ。フードで隠れて見えづらいが、鼻から上は晒していた。


「お久しぶりです。リ」


 リエーラは俺の口元を両手で抑える。喋れない。


「馬鹿か。暗部の人間を公の場で名指しは拙いだろう」

「んぅ、んんふふ」


 あぁ、なるほど。という声ももごもごとしたくぐもった声で何を言っているか分からない。いやぁ、迂闊だった。確かにそうだ。


「もうひわへあい」

「っ、っ!」


 謝罪は伝わったようで、こくこくと頷いたリエーラが俺の口を返してくれた。


 そのままリエーラは俺の服を掴んでくいくいと引っ張り、何処かへ連れて行こうとする。事情聴取……ではなさそうだ。悪意もなさそうなので、俺は今もなおキレ散らかしてるチトセさんにも言っといてくれとヴィンセントに頼んでから、大人しく連行された。

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