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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第五十九話 信じるもの、信じ続けること

 何本目かの串焼きを食べ終え、空腹も一応の納まりを見せた頃、太陽が崖上からほんの少しだけ顔を覗かせ、光が差し込む。見上げれば見上げる程、不思議な光景で見慣れない。


 俺とチトセさんは噴水広場に腰を下ろして雑ではあるが食事を楽しんでいた。視界の正面は竜教の拠点があり、なんとなくそれを眺めながらの食事になった。


 食べている間も数人、また数人と何人かのセットで人が排出されるのが見えたので、事情聴取を大急ぎで行われているのが伺える。世界はどうやら二人きりではなかったようだ。


「ふぅ、お腹いっぱい。ごちそうさま」

「まだいくらでもあるのでお腹空いたらいつでも言ってください」

「あはは、太っちゃうよ」


 さて、そろそろ次の場所へと移動を……と思い立ち上がったが、ふと視線を感じて反射的に身構えた。この町に来てから視線や気配といったものに敏感になった気がする。そんな俺の感性が言うには、これは不快な視線ではない。


 視線を感じた方向には確かに人の気配があり、其方へ振り向くと冒険者らしき人達が俺とチトセさんを見ていた。


「……?」

「あっ、いや……」


 首を傾げると、軽く両手の平を此方に向けて『違います』のポーズをされた。なんだろう、俺が何か悪い事でもしたような気分になるからやめてほしい。


「敵っぽい?」

「いや、やり合う気はなさそうです」


 チトセさんは噴水の縁に座ったまま、早速虚空の指輪(アカシックリング)を使いこなして手元に愛刀”幻陽”を召喚し、峰で肩を叩きながら尋ねてくる。圧倒的強者の振舞いに、現場は緊張感で満ちていきます。


「あのぅ」


 そんな中、1人の冒険者が俺達の元へ歩み寄ってきて、更には声も掛けてきた。この凄みを増したチトセさん相手にやるではないか。その面、拝ませてもらおうと思い顔を見ると、視線がかち合う。どうやら声を掛けたのは俺らしい。人相の差が出てしまったか。仕方ないね。


「なんでしょう?」

「間違えていたらすみません……髪色から伺うに、ウォルターさんとチトセさんだと思うのですが」

「そうだけど、何?」


 刀と同等の切れ味を持ったチトセさんの視線が気弱そうな冒険者へと突き刺さる。視線にも赫炎が灯りそうなレベルである。


「見た目からして冒険者の方ですよね。何かありましたか?」

「教団の人に聞いて……この町の異常をウォルターさん達が解決してくれたって聞いて」

「あぁ、それ……成り行きです、成り行き。教祖がこのチトセさんの元パーティーメンバーで巻き込まれちゃって」


 チトセさんが無言で何度も頷く中、会話は続く。


「いや、でも、冒険者の中には監視と収入がきついって逃げ出す人も多くて困ってたんです。ありがとうございます!」

「そんな、感謝される程のことはしてないですよ」

「感謝しかないです……僕ら、この町の出身で離れようにも離れられなくて、でも解決する程の実力もなくて……本当に、助かりました!」


 そうか、そういう事情の人達も居たのかと今更に気付く。そうだよな……生まれ育った町を離れるのは難しい。相当な決心が必要だ。俺はそれが出来たが、それが出来ないのは当たり前だと思ってる。俺も、村に帰りたいと思うことは常々あるしな……。


「聞いたんです。宿に教祖様が来てウォルターさん達と話したって。俺、きっと何かあるって……何か変わるはずだって思ってました!」


 チトセさんが噛み付かない生き物だと理解したのか、大人しくしていた別の冒険者が興奮気味に話し出す。


「今までそんなことなかったし、きっと教祖様もこの状況を変えたくてきっかけ作りに動いたんじゃないかって皆で話してたんです!」

「あぁ、だからあんな大胆な行動を」

「そのお陰でこうして町が変わって……ウォルターさん達には本当に感謝しかないんです!」

「教団の人達にもその話ばっかりしちゃいましたよ!」


 それはどうなんだ……? ベラトリクスの懐刀達の評判を落としてるってことにならないだろうか。いや、彼等は彼等で働く区分が違うからそうはならないと思いたいが、変に恨まれても面倒だぞ。


 その後も冒険者達は一頻り感謝し切った後、何度も俺達にぺこぺこと頭を下げながら自宅へと帰っていった。俺達に挨拶するよりも先に帰るべきなのに……良い奴等だったな。


「そういえば……地底湖で接触してきた冒険者……グレイとリエーラとラスラーでしたっけ。彼奴等はどうしてるんでしょう?」

「あぁ、それ。あたしも気になってベラに聞いたんだけれど、あの3人、ああ見えてベラトリクス直属部隊の人間だったんだよ」

「えっ、そうなんですか? 俺は見てないんですけど、確か黒衣の集団だったって」

「そう。部隊名は確か……”黒蜥蜴衆”だったっけな」

「黒蜥蜴衆……なるほど、それっぽいですね」


 ベラトリクスが直接見出して雇用し、設立した部隊だとチトセさんは教えてくれた。恐らくだが、今回のことで上手い事冒険者側を引き抜くことも考えているはずだ。都合良く面接ができるんだから、これを逃す手はないだろう。


 ケインゴルスクはますます強固になるだろう。ベラトリクス指導の元、独立の日もそう遠くない……なんてな。


 彼女がそれをする理由がないことは俺達が一番知っている。彼女が今の地位を得た理由も、居続ける理由も、全ては母の為なのだから。


「これからどうなっていくんですかね、この町は」

「んー……想像もつかないなぁ」


 よく見れば口の端にソースをつけたままだったチトセさんが、組んだ足に肘をついて夢想する。


「ベラがどうしてあんな部隊を作ったのか……多分、というか、全部、竜という生き物の保護の為なんだとは思う」

「竜を崇め奉る竜教に見出され、入信したけれど其処では竜殺しが行われていて。それを知ったベラトリクスはチトセさんに助力を頼んだ」

「そう。あたしは実際にそれを解決したけれど、一時的なものだった。水面下では竜殺しは続いていた。それを探る為の私設部隊。これからは防ぐ為の部隊になればいいと思うけれどね」


 でも、防ぐ為には見張らないといけない。俺達はこの町の監視を、ホランダーという視神経を奪った。


 だが、目という存在はなくなっていない。形を変え……人を変え、目という仕組みだけはまだ残っている。


 なら、その目を繋ぐ神経の先は?


「竜の為に生きる女の前には、人間なんて矮小な生き物ってことなのかもしれないね」

「本来、宗教とは人を救う為のもの……だけど竜を救う為の宗教になってるんですから、これじゃあどうしようもない……ですね」


 結局、監視の目はなくならない。あの冒険者達は俺達に感謝していたけれど、何も解決していない。一旦は、自分達が監視の目から外されただけなのだ。目はいつでも、背中を見ている。


「いやー、怖いね、宗教って!」

「ですね……何かを信じたいだけなのに、人は」

「自分を信じられない奴は何を信じても救われないってことだよ」

「……」


 この先、俺に何が起きて、何を得て、何を失うのかは分からない。幸福な時もあれば、不幸な時もあるだろう。苦しい時もあるかもしれない。窮地に陥る時もあるかもしれない。


 でもそうなっても、何があっても、俺は自分とチトセさんと、ヴィンセントだけは信じよう。何があっても諦めず、抗い続けよう。


 俺はチトセさんの口の端にいつまでもつき続けるソースを見つめながら1人、心の中でそう誓った。


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