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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
山岳都市ケインゴルスク篇

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第五十八話 町デート

 コンコン、と扉を叩かれる。はい、と答えようとして喉がカッスカスだったことに気付いた。慌ててベッド横に備え付けられているテーブルの上に置かれた水差しからコップに水を注ぎ、一気に飲み干す。


「ん、んんっ……はい!」

「いや返事良いな……あたしだよ、チトセ」


 待たせる訳にはいかないと急いで返事したらだいぶ勢いが良くなってしまった……恥ずかしい。扉を開けると身支度を整えたチトセさんが待っていた。


「うわすごい寝癖」

「すみません……」

「いやいいんだけど、明日からダンジョン行くよーって話しに来ただけだし」

「じゃあ今日はお休みですか」


 言ってから、こんな時間に起きておいて休みもクソもあるかと自分に突っ込んでしまう。寝坊も寝坊だし大遅刻である。


「だから一緒に出掛けようと思ったんだけど、疲れてるなら……」


 少し俯きがちに言うチトセさんの耳が赤くなっている。これは……二人きりのお出掛けのお誘いだ……!


「いやっ、すぐに準備します!」

「そ、そっか。うん、じゃあ待ってるね」


 赤い襟足を指でくるくると弄るチトセさんを少し待たせ、過去一の速さで身支度を整える。こういう時の為に身綺麗にする為の魔道具を錬装しておいてよかった。一瞬で寝癖は直るし体も綺麗になる。これを量産すればお金持ちに……いやいやそんなこと考えている場合ではない。


 急げ、俺!



  □   □   □   □



 2人並んで宿を出た俺達はとりあえず街を歩こうという話になっていた。


「思えばこうしてゆっくり街を見ることもなかったね」

「こっちに来てからずっとバタバタしてましたから」


 初日からずっとだ。来てからまだ数日しか経ってないことに驚きを隠せない。もっと経ってるような気がする。


 まだ街を行き交う人の数は少ない。チトセさんの話では竜教も交代制で事情聴取を行い、問題ない人間は終わった傍から釈放しているようだが、それでもまだまだ時間は掛かりそうだった。


「あたしはこの町に詳しいからね。案内してあげる」

「助かります。よろしくお願いします」

「ふふん、任せて」


 改めて見るこの町は面白い形だ。切り立った崖のような縦に長い岩山の上に成り立つ町。その地続きの岩壁には竜の化石。更にその岩壁の上部には切り立った崖があり、この縦に長い町の天井になっている。


 まさに横から見れば、此処は口を大きく開いた竜の頭のように見える。


「だからこの長い街並みは、一口に”顎通り”って呼ばれてるね」

「えらく強めの字面ですね」

「竜を崇めてるからこそって感じかな。竜に倣ってアギト、ってね」


 確かに信仰対象の一部になれていると思えば嬉しい、のか? 俺には分からんが。


「そういえばこの町に来る時にこの顎通りの外側にも家が連なってるのが見えたんですが、あれは」

「あれは旧市街だね。昔はこの顎とか天井の崖……皆は上顎って呼んでるんだけど、其処も含めて全部が竜教の聖地って感じに崇められていてね。でも実際、こんな崖を挟んで生活をするのは不便だってことになって上顎が聖地として改めれられたんだよ」

「確かにこんな崖、上り下りするにしてもトンネルにするにしても迂回するにしても邪魔でしかないですからね」

「ウォルター、それめちゃくちゃ罰当たりだからね」


 ……確かに。聖地を邪魔扱いは流石に拙かったか。慌てて周りの様子を伺う。が、そもそも人が居なかった。


「今で良かったねぇ」

「昨日より前だったら大変な事になってましたね……気を付けます」

「信仰してなくても、信仰してる人が大切にしてるものは大事にしないとね」

「ですね……」


 チトセさんの言う通りだった。まるで配慮が足りなかった……今後は気を付けよう。


「旧市街には人は住んでないんですか?」

「いや、住んでるよ。建物も古いし不便し外の世界に近くて危ないけど、その分安いからね。ダンジョンもあるんだよ」

「なるほど」


 不便で危険な分、土地代が安いと。しかし逆にモンスターを倒せれば魂石も手に入るし生活するのは難しくなさそうだ。治安が良ければ、だが。


 こういう場所は得てして治安が悪くなりやすい。好きで住んでる人間は気にしないかもしれない。だが住まざるを得ない人間には古臭く、危険な場所にしか見えなくなってしまう。そうなれば心は荒む。家という心の安らぐ場所で安心できないと、人は簡単に荒れてしまうものだ。


「魔剣の調査をするなら彼処も調べておくべきかもね」

「何処に何があるか分かりませんしねぇ」


 とはいえ、広大過ぎる。ひょっとしたら掘り出し物もあるかもしれないが、優先順位は低いだろう。ダンジョン探索のついでに覗く程度にしておこう。


 顎通りも半ばに差し掛かる頃、太陽は真上に上り、町は聖地である上顎の影に染まる。ちょうどお昼だ。普段であれば通りに連な食堂の窓から薪の煙が立ち昇り、料理の良い匂いが漂ってくる頃合いなのだが、今日ばっかりはそれもあまりない。


「昼食は……まぁ、これで我慢ですかね」

「お、気が利くね」


 虚空の指輪(アカシックリング)から取り出したのは何かの生地で細かく切って炒めた肉や新鮮な野菜を巻いた食べ物だ。甘辛いタレが凄く美味しくて買い溜めしてある。片手で持って食べられるから食べやすいのも重宝している。


 それをチトセさんと二人、並んで歩きながら食べる。今だけは静かな街並みのお陰で、世界に二人だけみたいな気分になれて楽しかった。いつもより美味しく感じるのは、きっと気の所為ではなかったと思う。

いつもありがとうございます!

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よろしくお願いいたします₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾

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