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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
草原都市ヴィスタニア篇

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第二十七話 花の都

 さてさて、突然始まってしまった魔剣探索だが、捜査は難航している。


 この『百花平原』というダンジョンは広大な空と花畑以外、何も構成されていないダンジョンだ。頭上に広がる空は外の時間と同じ流れなので、夜になれば暗くなるし、朝になれば明るくなる。俺達が家を出てダンジョンに入ったのが昼過ぎだったこともあり、現在は真っ赤な夕焼けが花畑を照らしていた。


「帰る冒険者もちらほら居るね」


 すれ違う程近距離ではないが、俺達がやってきた方向、これは夕陽が沈む西側の方向なのだが、其方へと帰っていく冒険者の数は多い。どのパーティーも男女2人組なのが気になるところだ。まさかだけどダンジョンをデートスポットと勘違いしてる……なんて浮ついたことはないだろうな?


 俺達が向かうのはダンジョンの奥だ。沈む夕陽とは逆方向である。


「しかしこんなお花畑に魔剣ですか」

「不似合いだ」

「イメージとはかけ離れてはいるよね。でも魔剣プリマヴィスタが持つ二つ名は【絶華ノ剣】。名前の中に”華”という字が入ってるんだよね」

「それで”花畑”……それで”花の都”ですか」


 このダンジョンから出現した宝箱から得たヒントからはそれくらいしかこじつける事は出来なかった、と。まぁ、俺の無い頭で考えてもそれくらいしか答えは見つから無さそうだ。


 俺とチトセさんは現在、何かしらのヒントがないかと花弁の舞う夕焼け空を眺めている。想像力を働かせた結果、都とまで言わせたそれがこの平原で見つからないのなら、もしかしたら透明状態で存在するか、もしくは空中に島のようなものが浮いていて其処に存在しているか、という話になったからだ。


 対してヴィンセントは地下を探ってくれている。彼の背後には俺の作った元・対ヴィンセント用決戦兵器『ぴかぴか君』改め、ヴィンセント専用月影補助魔道具『月光』を使っての月影を利用した探索である。


 多方面から照射することで影を打ち消した強い光だったが、これが一方向からの照射だと恐ろしく強力な補助器具となる。ヴィンセントの中心に周回させることで影は全方位を隈なく捜索することが出来る。そして伸びた影に実体を持たせ、振動を与えることで地中の存在を探るのだそうだ。チトセさんは『まるでソナーだね』と言っていたから、きっとそういう技術があるのだろう。


 この探索方法は画期的だし非常に効率が良いと思った。『月光』は所持者の魔力で操作出来るからそれ程難しいことでもないし、月影はヴィンセントの十八番だ。


 ただ1つ問題があるとしたら、同行者が上を向いている場合、定期的に強い光に目をやられて非常に鬱陶しいということだろう。


「も……上はいい。ない」

「いやチトセさん……諦めは良くないですって」

「いい……ウザい、あれ」


 チカチカされて完全にチトセさんは萎えていた。俺は俺でまぁ、鬱陶しくないと言ったら嘘だが、制作過程を踏んでいるからまだ我慢出来た。


「ん……何かあるぞ」


 とか言っていたらヴィンセントが何かを発見したようだ。少し離れた先の地中に何か埋まっているらしい。歩いてその場へ行くが、何の変哲もないお花が咲いているだけの草地だった。


「掘るか」

「はぁ? いや、重労働じゃん。やだやだ、あたし女の子だし」

「我儘言うなチトセ」


 月影を操作して純白のスコップを3本作り出したヴィンセントがチトセさんに押し付けた。勿論、俺にもだ。そして残った一本を手に、率先して花を引き千切って掘り始めた。惨い……。


 それを見たチトセさんも渋々ではあるが掘り始める。そして俺だけが掘らないという訳にもいかないので、見え始めた土にスコップの先を突き刺した。




 暫く掘っていると俺のスコップの先が何か硬い物を突いた。3人で顔を見合わせ、急いで掘り進む。最後は手で土を払うと出土したのは金属製の箱だった。花の都じゃないことを一瞬で理解した俺とチトセさんは、尻が汚れるのも考えずにその場に座り込んでしまった。


「何だこれ……何で箱なんだ……」

「散々掘ってこれか……ていうか箱なら箱って教えてくれよヴィンセント……」

「すまない。でも良かったな」

「良かったって、何が?」


 疲れた顔で見上げると、ヴィンセントは心なしか嬉しそうな表情をしていた。


「だってこれ、宝箱だろう?」

「!?」

「そうだよ……そうだよ! 疲れ過ぎてて頭が回らなかった! これ宝箱だよ!」


 俺も重労働で頭が全くと言っていい程回転していなくて理解が追いつかなかった。そもそも初めて見た宝箱は小さな小汚い木箱だったからというのもあるが、よく考えてみればダンジョンで見つかる箱と言えば宝箱くらいしか思い付かない。


「なるほど、形状にも種類があったのか!」

「えーマジで凄い! 流石ヴィンセントだよ!」

「ふふ……そう褒めるな」


 一気にテンションが上がったチトセさんが嬉しそうにヴィンセントの背中をバシンバシンとしばいていた。


 一通り喜んだ俺達は箱を地上へと持ち帰った。といっても影に実体を持たせたヴィンセントが運んでくれたのだが。月影便利過ぎる。


「今此処で開けてもいいですけど、どうします?」


 以前のような惨状になっても今は虚空の指輪(アカシックリング)があるから問題はないが、一応聞いてみる。


「んー……百花平原で見つかった宝箱からプリマヴィスタのヒントが出てきたからね。開けよう」

「分かりました。以前は何も考えずに開けたけれど、もしかしたら罠があるかもしれない。ヴィンセント、頼んでも良いか?」

「あぁ、任せろ。宝箱を開けるのが夢だったんだ。前のは罠の入ったただの箱だったからな」


 そういえば『断崖教会ハルベー・モーベラル』に罠を解除した箱が転がってたっけ……。あれ、やっぱりヴィンセントが開けてたのか……。


 気を取り直した俺達は箱から一定の距離を取り、アカシックリングから取り出した盾を構える。その隙間から差した月光がヴィンセントの影を伸ばした。曲線を描き持ちあがった影が、箱の蓋をゆっくりと押し上げた。


「罠警戒!」

「ッ……何もないです!」

「おい、見ろ!」


 矢か爆発か、或いは毒霧か。警戒していたがそんなものはなく、箱はまるで中の水が溢れ出すかのように金色の源泉を掛け流し始めた。大量の金貨だ。その金貨の奔流の中に剣やら鎧やらが時々顔を出しながら押し流されていく。この前の宝箱の比じゃない!


「箱の大きさで内容量変わるんですかね?」

「そうかもしれない。まだ溢れてくるよ。回収大変そう……」

「大丈夫だ。俺の影でまとめるくらいは出来る」


 良かった。それならあとは一気に回収出来そうだ。しかしヒントがあるとしてもこれの中から探すのは一苦労だな……。


 暫く待つと宝箱から出てくる金貨が止まった。そして最後の最後にペッと一枚の紙を吐き出した。


「あれだ!」


 あれがヒントに違いないと走り出すと同時にヴィンセントが月影で器用にそれを摘まんで飛んでいくのを阻止してくれた。ヴィンセントが有能過ぎる。


「ほら」

「ありがとう! えっと、何か書いてあるかな」


 紙を受け取り、確認する。2人が寄ってきたので一緒に覗き込む。何やら文字は書いてある。ん? あぁ、逆さまだ。


「『花の都は虚空へと還る』……なんだこれ」


 向かい側に居たチトセさんが文章を読み上げた。花の都は虚空へと還る、とはどういう意味だろう?


 腕を組んで考える。花の都はもう此処には存在しないということだろうか。であれば絶華ノ剣プリマヴィスタも、もう無い? 此処までやってきたのに、こんな結末なのか?


「……いや、先にこれ片付けよう。ヴィンセント、頼む」

「あぁ、わかった」


 まずは宝箱周辺に散らばる内容物を片付けることにした。この状態でモンスターに襲われても嫌だしな。

 ヴィンセントが月影で纏めて内容物を持ち上げて、風呂敷のように纏めてくれた。流石に一度に全部は重すぎたようで、小分けにして持ってきてくれたのを手をかざして虚空の指輪へと収納していく。


「……ん?」


 と、自分が行っている動作を見て首を傾げた。虚空へと還る……この作業も、そうなんじゃないか?

 勿論、虚空の指輪と名付けたのはチトセさんだ。それが公式の名前ではないが、指輪の先は宝箱と同じ空間、虚空だ。


「還る……還る。……宝箱の、中?」

「お、おいウォルター、まだ宝が……」


 気付いてしまった俺は宝箱へ向かって一直線に走っていた。ぽっかりと口を開けた宝箱の中は真っ暗だ。そっと手を差し込んでみると、宝箱の縁から向こうが消えていく。しかし手の感覚は確かにあった。


「どうしたんだウォルター、急に走り出して……うぉっ!?」


 続いて息を吸い込んでから顔を突っ込んでみる。そっと吐いて、吸ってみる。……うん、呼吸も出来る。水の中のような感覚もない。


 そして目を開く。


 視界の先に広がっていたのは、大小様々な奇妙な花が咲き乱れ、緑に覆われた石造りの街並みだった。


「お、おい。ウォルター、大丈夫なのか?」

「あぁ、問題ないよ。そして見つけた」

「見つけたって、何を?」


 困惑した表情のヴィンセントに対し、俺は必死に笑いを堪えるが、吊り上がる口角は隠し切れなかった。


「あったよ、花の都が」

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