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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
草原都市ヴィスタニア篇

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第二十話 決戦の地

 保護はするが、過保護であってはならない。それが人助けだとチトセさんは言う。俺もその精神に則って行動を起こすことにした。ヴィンセントに捕まってしまった子供達を助ける為の行動だ。


 具体的には助ける準備と、助けた後の準備だ。


 俺はまずあの厄介なスキル”月影”を封じる手段を考えた。想像力を働かせ、何通りかの方法を考えてみたが、一番簡単で、尚且つ効果的だったのは『光』だった。


 光は影を作るのに、何故その影を消すのに光が必要なのか。これを教えてくれたのはチトセさんだった。


「多方向から強い光を当てれば影は消えるよ」


 と、言われた時はよく分からなかったが、実際に魔石を使って再現してみると驚いた。光を当てられた物体の影を打ち消し合うように光源を設定すると最終的に影は消えたのだ。チトセさんに言わせれば、実際には見えていないだけとのことだが、これなら月影封じは出来そうだった。


 その為に俺は光源となる物の錬装を始めた。基本ベースは街灯にも使用されている魔石だ。それに雷属性の魔宝石を錬装して出力を上げると同時に、『浮遊』という特性を錬装した。


 この『浮遊』という特性、実はハズレでも何でもない立派な特性だ。靴やローブに現れる特性で、身に付けた者を浮かせることが出来る便利特性だ。ただ、使用するにはそれなりの金と技術が必要なのでその辺の冒険者には手が届かない代物だったりする。


 しかし俺達には資金がある。とりあえず今回はパーティーの軍資金と俺の持ち金から出させてもらい、複数の浮遊特性装備を購入することが出来た。


「勿体ねぇなぁ……」


 とぼやく俺だったが、『また錬装出来るんだからいいじゃん』というチトセさんの言葉で吹っ切れることができた。だが今後は特性を減らす錬装も考えないといけない。


 だってめちゃくちゃ光るローブで空を飛ぶなんて、絶対にごめんだからな。


 こうして金に物を言わせた結果、浮遊して強い光を放つ魔道具『ぴかぴか君』を20個用意した。仮に幾つか破壊されたとしても、補えるように作れるだけ作った。


「ふぅ……やっと出来たぜ……」


 俺は出来上がった魔道具を虚空の指輪(アカシックリング)に仕舞う。


 だらだらと説明してしまったが、改めてこの『ぴかぴか君』には強い光を放つ効果と浮遊特性、雷属性が付与されている。

 これを円形に放つことで浮遊しつつもお互いの属性に反発し合い、等間隔で円の中心を照らしてくれる魔道具だ。この中心に存在する物は多方向から照射される光で影が打ち消されるのだ。


「これをヴィンセント相手に使えば影は消える。月影を封じられるはずだ。問題は……」

「それを何処で使うか、だね」

「チトセさん」


 留守にしていたはずのチトセさんがいつの間にか俺の後ろに立っていた。全く気付かなくてビックリした……。


「ヴィンセントの動向は掴めましたか?」

「まぁ、大体ね」


 チトセさんには俺が魔道具を錬装している間にヴィンセントの居場所と行先を調査してもらっていた。町でも顔が利くチトセさんだから相手も情報を出し惜しんだり騙すようなことはないだろうとは思っていたが、思ったよりも早かったな。


「目立つからね、子連れで」

「あぁ、確かに。それで、どんな感じでした?」


 チトセさんが調べた結果、どうやらヴィンセントはまだこの町の中に居るようだ。彼奴自身も目立つのを嫌がっているのか、人目の付かない夜間に行動することが多いらしく、ギルドを通さずにダンジョンに潜っては着実にダンジョンを攻略していっているようだ。


「……で、進んでいる順番を考えると次に目指すダンジョンはもう1つしか残ってないんだよね。ヴィスタニア最難関とも言われる上級ダンジョン『黒鉄の時計塔』だね」

「彼処か……」


 俺は窓の向こうを見る。その先には街並みが広がっているが、その屋根よりも高い大きな黒い塔が町を見下ろしていた。黒い外壁と暗い緑色の屋根、そして大きな円形の時計が目立つあれは町のシンボルとも言える時計塔である。


「あの時計塔にも、アウターダンジョンが存在するんだよ」

「初耳ですよ。そんな話」

「本当に危険な場所だからあんまり広まらないようにしてるんだよ」


 アウターダンジョンの難易度は潜っているダンジョンの2倍から3倍は危険というのは以前聞いた。そして『黒鉄の時計塔』はヴィスタニア最難関。そんなダンジョンの倍以上も危険なアウターダンジョン……当然、情報統制はされている、か。


「時計塔のアウターダンジョン……名称は『黒牢街ヘイル・ゲラート』。奴はきっと其処へ行くはずだよ」

「黒牢街……? 時計塔の中に、町があるんですか?」

「うん。大昔の文明の町の影……らしいよ」

「町の影……」


 かつて存在した文明の町の影……世界にこびり付いた残滓、か。


「町の地図があるから、説明するね」


 上級の冒険者達が協力して作った地図だそうだ。ギルドが管理しているそうだが、チトセさんだから持ち出せたのだろう。


 机の上に広げられた地図は本当に町の地図だった。一見すれば何処か別の国に存在している町と何も変わらない地図だった。


 この町に入るには時計塔の機関部分の歯車と歯車の隙間を下りていくと階段があって、其処を更に下りていくと扉があるそうだ。その扉を開けるとヘイル・ゲラートの街中に出るのだとか。


「この出入口、普通の家の扉だからどの家だったか忘れると町中の家の扉を開けなきゃいけなくなるから、絶対に忘れないでね」

「モンスターも出る場所で家探しは流石にきついですね……気を付けないと」


 地図を頭に入れる作業の方が錬装作業よりも大変そうだ……。


 町の地図は特に特徴的な形があるという訳ではないが、町でも此処はダンジョン。ちゃんとダンジョンボスが存在する。


「この少し広い場所があるでしょ?」

「町の中心広場……ですか?」

「そう。そして此処がダンジョンボスの居る場所」


 色々な通りがあるが、その殆どの道がこの場所に集約しているように見える。中心広場だとは思うが、地図で見る限りではボスと戦えるような広さがあるようには見えなかった。何なら、噴水みたいな円形の模様が書いてある。戦うにしても邪魔過ぎる。


「ボスとは言っても大きくないからね」

「ん……そういえば、此処ってどんなモンスターが出るんですか?」

「あれ、言ってなかったっけ」


 ヴィンセントと戦うことばかり考えていた俺はモンスターの種類を聞くことを失念していた。危ない危ない。いくら戦うのが人間相手だからといってモンスターが大人しくそれを見ていてくれる訳がない。俺としたことが、ヘマをやらかすところだったぜ。


「人間だよ」

「……え?」

「この町を警備する人間。兵士が、此処に出現するモンスターだよ」

「人間が、モンスター……?」


 俄かには信じられなかった。いや、人間相手に戦うことは問題ない。と言うとあまりにも冷酷に聞こえるが、実際自分の命を守る為なら俺は人間相手にだって刃を向けることは出来る。


 だがそれはあくまでも人間相手と理解して、剣を向けている。人間と対峙しての、人間との命のやり取り。俺達がこれからヴィンセントと戦うのもまた、そういうことだ。


 だが人間がモンスターというのは意味が分からなかった。上手く言葉にできないが、そうじゃない(・・・・・・)だろう、という気持ちが強かった。


「人の言葉も話すし、会話も出来る。ちゃんと自分で考えて行動する人間そっくりなモンスター。名称は《シャドウ》というらしいけれど、戦っていて気分の悪くなるモンスターだよ」

「人間という訳ではないんですか?」

「突き詰めればちゃんとモンスターだよ。でも彼等は、自分達が町を守る兵だと思い込んでる。ダンジョンを攻略しに来たのに、まるで町を襲いに来た犯罪者みたいな立場になるから地獄だよ、彼処は」


 なんとも気分の悪いダンジョンだ。


 本当にこんな場所でヴィンセントと戦えるのだろうか。


「あたし達の目的は、ヴィンセントを始末することじゃない。血縛の魔道具を解除して子供達を助けるのが目的だから、其処は履き違えないでね」

「分かってます、俺だって戦いたくないですよ。ただ、奴も無抵抗で子供達を明け渡すとも思えないので、儘らないなって気持ちです」


 一応、抵抗された時の想定もしてある。抵抗された時の拘束用魔道具も用意した。


 吸い込んだ空気を長く吐く。気が重い。だが、確実に遂行しなければならない。


「ダンジョンから出てきた後は2日程休んでから次のダンジョンに向かってるようだね」

「最後にダンジョンから出てきたのは?」

「昨日だね。彼奴等、丸5日も『枯草平原』に籠ってたから調査に苦労したよ」


 『枯草平原』はヴィスタニアでも高位のダンジョンだ。どんなダンジョンかは名前の通り、枯れた草が覆い茂る広い草原だ。見晴らしは良くも悪くもあり、人もモンスターも奇襲がメインになるダンジョンだ。


 しかし彼処にアウターダンジョンがあるとは聞いていない。チトセさんもその話はしないし丸5日という日程から考えて平原に潜むモンスターを殲滅していたのだろう。どういう思考回路してるんだよ、本当に。


 だがこれで準備も日程も決定した。


「明日、日が昇る前に『黒鉄の時計塔』に潜るよ。そして一直線に『黒牢街ヘイル・ゲラート』に向かい、噴水広場に居る邪魔なダンジョンボスを始末する」

「それからですね。ヴィンセントとの戦闘は」

「そういうこと。ミランダちゃんに話は通してあるから手続きは不要。起きたらすぐに向かうよ」


 ハードが過ぎるって話だ。ヴィスタニア最難関のダンジョンボスを倒してから『二色(にしき)』との戦闘か……まったく、全部終わった後に生きていると良いんだが。


 その日はチトセさんも俺の家に宿泊することになった。まぁ当然か。


 明日は忙しくなるのでさっさと食うもん食った俺達はすぐにベッドへと潜り込み、戦いに備えて眠ることにした。

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