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特殊スキル《錬装》に目覚めた俺は無敵の装備を作り、全てのダンジョンを制覇したい  作者: 紙風船
草原都市ヴィスタニア篇

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第十一話 修羅場

 朝というには少し遅い時間に目が覚めた俺は昨日怠ってしまった体の清める為に風呂へ入った。さっぱりした頭を温風の出る魔道具で乾かしながらふと思う。こういった魔道具も錬成材料になりえるのだろうか。であれば、この魔道具の効果を持った何かが出来上がるのだろうか。この温風の効果をどんどん重ね合わせていくと一体どういう物が出来上がってしまうのか。想像力を働かせてみるが予想ができない。熱風が出てくるくらいしかできない自分の頭の硬さに溜息が出る。


「タチアナに言われた通り、想像力をもっと働かせないといけないな」


 身支度を終えた俺は虚空の指輪(アカシックリング)から昨日買ってきた武器を取り出し、並べる。これでも一部だ。だが此処に並んだ様々な剣の特性は全て《切れ味上昇》である。


 それを1つ1つ手に取り、順番に錬装してく。全部で20本の剣は全て1つに重ね合わされ、最後に残った剣には凝縮された《切れ味上昇》の特性が残る。


 出来上がった剣を手に裏戸から出た俺は小さな庭に出る。其処でアカシックリングから薪を取り出した。これはダンジョン探索中に使うと思って買っておいた荷物だ。アカシックリングを手に入れる前はこうした物を鞄に詰め込んでいたりした。必要になる場面は意外と多かったのでパーティーの人からは有難がられたっけ。


 剣を傍らに置き、取り出した数本の薪を重ね合わせ、縄で縛って疑似的な丸太を作った。《切れ味上昇》が強化されたこの剣なら寸断出来るだろうという、所謂テストのようなものだった。


 手頃な薪を左右に置き、橋のように置いた疑似丸太に向けて剣を振り下ろす。


「ふんっ……! っと、おわっ!」


 魔力を込め、勢いよく振り下ろした剣はまるで其処に何も無かったかのように無抵抗のまま丸太を切り裂いた。本当に何の抵抗もなかった。その勢いのまま俺は地面に深々と剣を突っ込んだ形になり、勢いだけが残ってしまって前方に転がり込んでしまった。そのまま一回転し、寝転がる形で停止する。見上げた空は青く澄み渡っていた。


「は、はは……あははははっ!」


 とんでもない物を作ってしまった。その達成感でいっぱいだった。薪を重ね合わせただけの疑似的な丸太だ。でもそれをこうも簡単に全部断ち切ってしまうとは!


「はぁ……錬装ってやばいな……」


 これならマジでとんでもない物が作れそうだ。魔剣(仮)も夢じゃない。昨日見た夢みたいに、いつかはきっと。


「しかしまぁ、木くらいなら切れる人間は居るか」


 剛腕の奴だったり、良い武器を持った人間なら出来なくもないだろう。だがこれは、この剣は違う。これは俺が、俺の力で、1から作り出した剣なのだ。喜びもひとしおだ。


「そうだな……せっかくだし銘を付けよう。俺の魔剣(仮)試作第一号だ。分かりやすく、格好良いのが良い」


 《切れ味上昇》を重ね合わせただけ、といえばそれまでだが、それでも俺の夢の第一歩だ。強く踏み締め、噛み締めたい。


「……よし、決めた。今日からこいつは《エッジアッパー》だ!」


 俺のネーミングセンスならこんなもんだろう。いずれは色んな付加効果をつけて最強の魔剣(仮)の一振りとして歴史に銘を残すことになるだろう。多分。


 実証実験は成功も成功、大成功だ。わざわざタチアナに確認するまでもないだろう。結果が実感として残っている。まぁ他の錬装品と合わせて確認の為に鑑定に出すのも悪くないか。


 それからその日はずっと錬装しては結果の確認を繰り返していた。今日はチトセさんとは何の約束もしていない。何かあればチトセさんの方から連絡があるだろうし、今日は一日錬装に費やそうと決めていた。勿論、タチアナのことは報告しなければいけないのは理解している。だがそんなに急ぐことでもない。次に顔を合わせた時で問題ないだろう。


 と思いながら居間で錬装を繰り返していたら突然家の扉が勢いよく開いた。泥棒かと思った俺は身に付けていたアカシックリングからすぐさまエッジアッパーを取り出し、構えた。


「あれ……チトセさん?」


 だが其処に立っていたのはチトセさんだった。肩で息をしながら俺をジッと睨む。何だか恨み成分の多い睨みだ。思わず俺は剣を仕舞い、その場に正座してしまった。


「……誰よ」

「はい?」

「誰よ! タチアナって!」

「!?」


 チトセさんからは聞いたこともない大声に背筋が伸びた。伸びた背中を冷たい汗が滝のように流れる。


 いや、悪い事は一切してない。してないのだが、どうにも俺は何かやらかしてしまったかのような気持ちになっていた。


「ミランダちゃんが言っていたよ……タチアナという職員がウォルターのことを楽しそうに話していたって。君、あんまり職員と関わり持ってないよね。一線引いてるっていうか。ミランダちゃんは幼馴染って知っているし、既婚だし、私は気にしていない。けれど、私も知らないような女と……あ、あんなことをしたっていうのに……それでって訳でもないけど、ある程度の事をした相手とパーティーを組んだっていうのに君は……!」


 タチアナめ、わざわざミランダに俺のことを話したのか……! しかも絶妙に勘違いさせる言い方で!!


「あの女……!」

「あの女……!?」

「や、ちがっ!?」


 しかもそれをミランダ伝手に聞いたチトセさんが更に勘違いして怒り狂っている……これは、あれだ……修羅場って奴だ……。だけど俺は悪いことは一切していない! 無実だ!


 それを伝える為にはチトセさんのは落ち着いてもらわないといけない。言葉は慎重に選べよ、ウォルター・エンドエリクシル。言葉1つ間違えればお前に待っているのは”死”だけだ。


「違うんです」

「何が」

「これには深い訳があって」

「はぁ?」

「タチアナは」

「タチアナァ?」

「違うんですぅ!」


 駄目だ、何を言っても俺はもう死ぬしかないらしい。俺の夢は叶わないようだ。嗚呼、夢は夢。叶わないから夢なのだ。儚い夢だった……。


「ウォルター、覚悟はいい?」

「良くないです……」

「それが最期の言葉でいいってことね?」

「良くないですぅ……」


 チトセさんが腰に下げた《幻陽》をついに抜いた。赤い刃がとても美しい。その刃に揃えた指を這わす。ゆっくりと。灯った炎は一気に燃え上がり、刃を包み込んだ。


「ひぅ」


 吹き上がる熱気は息を呑ませるのに十分だった。俺は死を確信した。


 だがその時、チトセさんの神速の一閃を遮る声が鳴り響いた。


「ちょっと待ったああああああ!!!」


 まさしくそれは聖堂の鐘のような、神々しい救済の音色だった。実際は絶叫そのものとも言える大音量の声だったが、俺の命をギリギリで救ってくれた声だ。がなり声だろうとそれは神の一声と変わらなかった。


 チトセさんが振り向き、チトセさんの陰からそっと向こう側を見る。俺の自宅の玄関に2人目の来訪者、ミランダが立っていた。その後ろには3人目の来訪者タチアナがジョギングの速度でこちらに走って来ていた。実に腹が立つな。


「チトセさんがっ……とんでもない、形相で……っ、ギルドを出ていったから……まさかと思って!」

「まさかこうなるとは……ぷくく……」


 息も絶え絶えのミランダが此処へ来た理由を話す。その後ろに、追いついたタチアナが心底面白そうなものを見る目で俺を見ていた。憎たらしいな。


「それがタチアナ?」

「そ、そうです。ちょ、武器をこっちに向けないでください!」

「チトセさん、俺が、俺が全部説明しますから!」


 肩越しに俺を見るチトセさんは、暫く俺を見てから幻陽を一振りし、赫炎を解除して納刀した。一先ずは安心だろうとそっと胸を撫で下ろした。


 それから俺は昨日のことを全部話した。開けっ放しの玄関は閉じられたが、チトセさんの怒気の所為か、ミランダもタチアナもずっとその場に立っていた。チトセさんに関しては振り向きもしなかった。


 全てを話し終えた俺は締めくくりに自分がチトセさんを裏切るようなことは一切していないことを付け加える。


「俺はチトセさん一筋ですから」

「……っ」

「まぁそういう訳で私とは契約関係ってだけなので、殺すのはやめてくださいね」

「タチアナ……あんた、本当に性格終わってる……」

「終わってないよ。ミランダが変な風にチトセさんに話すから悪いんだ」

「あんたが変な風に伝えるから私は心配したんでしょうが!」


 タチアナが引っ掻き回しただけでミランダが善意で心配してくれていたのは分かっていたが、改めてこのタチアナとかいう女、マジでどうにかしたい。更生的な意味で。


「私はギルドの情報が変な形で漏れないようにミランダに伝えただけなんだけどな」

「そもそも別の部署のあんたが管理部署である私の部署の情報抜いてるのが大問題」

「でもそれって私がしなくてもいずれルビィが気付いていたと思うよ。あの子鋭いから」

「自分の悪事を棚に上げないで。これはマスターにも伝えさせてもらうから」

「それはおかしい。別に私は情報を抜いたんじゃなくてウォルター君が初めて錬装術師だって判明した時にあの場に居ただけ。ミランダたちからは見えない場所だったけど。不用心ね」

「このクソ女……」


 ミランダの言葉に飄々とした態度で開き直るタチアナ。流石にミランダもイラついてきたところでチトセさんがそっと幻陽の鯉口を切り、わざと勢いを付け、音を立てて納刀した。それは小さな音ではあるが、その口論を止めるには十分過ぎる音量だった。


「はぁ……ていうか私が話したのは『ウォルター君と秘密の契約を交わした』ってだけで、別に悪いことはしてないよ」

「言葉選びが最悪なんだよお前……」

「そうは言うけどね、ウォルター君。ミランダが変に解釈しただけ。そしてそれを聞いたチトセ・ココノエが1人で勘違いに勘違いを重ねただけ。まったく皆して想像力が豊かなんだから」


 確かに想像力だけで此処まで行動出来るのは凄い。だが、うーん。想像力だけで俺を殺そう等と思うだろうか。


「まったく、本当に、チトセ・ココノエはウォルター・エンドエリクシルのことが大好きなんだね」


 その言葉にハッとした。俺にずっと背中を向けていたチトセさんではあるが、此処から少し覗く耳の先端が赫炎も真っ青な程に真っ赤に染まってしまっていた。心なしか肩も震えている。勘違いでなければ、いや、その線はタチアナが完全に潰してしまった。


「あは、顔が真っ赤ね。チトセ・ココノエ」

「ぐぅ……」


 どうやって収拾をつければいいんだ、これ。ミランダへ視線を送るが、ミランダは私には無理だと目で訴えかけてくる。タチアナはもう用は済んだと言わんばかりに帰ろうとしてやがった。


「ま、私たちはこれから秘密の同盟を組むことになるのだから仲良くしましょう」

「どの口が……」

「じゃあ私は仕事の途中なのでこれで。お邪魔しました。またね、ウォルター君」

「お前は一々爆弾を残していくんじゃねぇ!」

「わ、私も仕事の途中なので……またね、ウォルターっ」

「ミランダ、嘘だろ、お前まで」


 こんな状態で幼馴染を置いて帰るというのか……?


「今を逃したら帰るタイミング無いでしょう、空気読みなさいよ馬鹿!」


 小声で尚且つ早口で一方的にそれだけ言ってミランダもこの場を後にしてしまった。残ったのは俺とチトセさんの2人きりである。


 長い長い沈黙が続く。無音がこれ程耳に響くとは思いもしなかった。この世に本当の無音は存在しないんじゃないか。そんな思考にはまりかけた俺は頭を振って逸れかけた横道から戻ってくる。


「とりあえず……座りましょう?」

「…………………………うん」


 俺の足が痺れるまでたっぷり時間を掛けたお陰で漸く素直になれたのか、熟考の後に承諾してくれたチトセさんを連れて俺は居間のテーブルへと向かい、席に着いた。


 久しぶりに向かい合った気がする。チトセさんは今も耳まで赤い。拗ねたような顔で頬杖をついて視線はテーブルの角へと固定されていた。それが照れであるのは一目瞭然である。


「チトセさん」

「……なに?」

「俺もチトセさんのこと、好きですよ」

「なっ……うぇ、げほっ! げほっ! おうぇっ!」

「ちょ、大丈夫ですか!?」


 此処は素直に告白しようと思い決行したら信じられないくらい咽られた。


 慌てて俺は水を用意して彼女に手渡した。一旦咳が止まったタイミングでそれを飲み干すチトセさん。それからも多少は咳が続いたが、すぐに治まった。


「はぁ、はぁ……ありがとう……」

「落ち着いたみたいで良かったです」

「ウォルター、君……さっきのは本当に言ってる?」

「もう君は付けなくていいですよ。それと、はい。本当です。俺、言ったじゃないですか、あの時だって」

「それはあたしからちゃんと言ったよね。責任を一方に押し付けたくないって」

「じゃあそれ以前の話をちょっとしましょう」


 俺は以前、チトセさんが作ったパーティー、『赫翼の針(クリムゾン・ピアース)』に一時的に所属していたことがあるのは話したと思う。これから話すのはその時の出来事である。

面白い!続きが読みたい!と思ってくださった方、評価やいいね・ブクマしていただけますと執筆の原動力になります!

よろしくお願いいたします₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾

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