番外編23 新婚夫婦とお騒がせ侍女と巻き添え雑用係を見守る(見張る)護衛騎士の仕事について
——マーク視点
「マークさんっっ!! 殿下とエステル様が、今! 中庭でっっ! 見つめ合ってましたあああああああ!!!」
「……だから、落ち着けと言ってるだろうが」
「落ち着けるかっ!! この空気っ! 愛だよ、愛!! いちゃいちゃだよ!!」
──またか。
今日も朝から、王宮の片隅でひと騒動が起きている。
中心人物は、当然ながらあの人。
サラ。
我らがエステル様付きの侍女にして、暴走系愛観察者である。
そして今日は、さらに被害者が増えていた。
「……なんで私が、こんな目に……」
ミシェル、王宮の雑用係。元筆頭魔術師の孫にして、かつて殿下に想いを寄せ、いろいろやらかして反省して改心して今に至る少女。
だが、今日ばかりは心から同情した。
「ミシェル〜〜、ねぇ! 昨夜、エステル様と殿下、絶対一緒に寝てたでしょ!? ね!? 寝室の明かり、消えるの遅かったもん!!」
「知るかあああああ!! 私は寝てたの!! 普通に!!」
「え、じゃあ今夜は物音に注意してみようか! 私、壁際の廊下に耳当ててみるから──」
「やめろおおおお!! それ以上はほんとやめろぉおおお!!」
「サラ、いいか。おまえの主は今、まさに新婚生活を静かに送っている最中だ」
「うんっっ、だからっっ、全力で観察してるのっっ!! 愛を知り、私も将来に活かすの!!」
「そういう未来のための学び、いらないからな!? しかもお前、翻弄講座の講師をイザベル摂政に頼んだろ!? しかも受講済みだろ!?」
「イザベル様のご指導、まじ尊かった……!」
──この王宮、今日も全力で平和である。
だが、静かにしていても、その中心では新婚殿下が相変わらずの溺愛モードなのも事実だった。
エステル様の髪をそっと整え、
朝食の席で彼女の好物を自分より先に取り分け、
昼下がりの回廊では、何気なく手を取って自然に指を絡める。
(……殿下、完全に、世界で一番幸せな男になってるな)
護衛として見てきたが、あの冷静で理性的だった主が、今や感情も姿勢もすべてが柔らかい。
嬉しそうで、穏やかで──とにかく、幸せそうだ。
「マークさん、ニヤけてるぞ」
「してない」
「してるしてる。サラ、マークさんのニヤけ顔見て〜」
「うわああああああ! ほんとだああああ! 幸せそうな顔してる〜〜! どうしたの!? ついに恋した!? え!? エステル様!? いやまさか殿下!? それともまさか──」
「違う。全部違う。今すぐやめろ。そして黙れ」
暴走を止めても止めても加速していくこの人と、止めるどころか一緒に騒ぎ始めたミシェル。
「サラって、もしかして四六時中こうなの……?」
「遅かったな、気づくのが……」
「でも……まぁ、ちょっと分かる気もする。あの二人、見てると、ちょっとだけ、あったかくなる」
「……おまえ、成長したな」
「は? なにそれキモい」
(……ほんと、王宮って大変だ)
でも。
こうして騒がしくも、温かな日々が続くのは、悪くない。
──新婚殿下の甘さに顔をほころばせ、
──それを騒ぎながら見守る侍女と雑用係がいて、
──それを全力で見張る自分がいる。
「……よし。今日も全力で、見守り、抑えるとするか」
「マークさん〜! 夜は西棟の通路に耳を当てるから、交代で見張っててくださいね!」
「おまえは何を見張るつもりなんだ……ッ!」
──そうして、護衛騎士の一日は、今日も忙しく幕を開けるのだった。




