古い物
文花は思った。
その深い思慮を惜し気も無く、
耽る様は憂いを帯びて、
周囲も朱色に染まる程。
一人。
人工雪を踏みしめて、
馬車を一日借り受けて、
木靴を態々ぶかぶかに作り、
あわや轢かれる寸前までもを再現しても
脱げた靴を盗む者なしーー
「時代設定古過ぎよ」
撤収。
夕陽を弾く、
父のカードが目に染みる。
◇◇◇
まあ、マッチの代用品は置いといて。
ひとまず内容を押さえておこうと思い立ち、文花は街へと繰り出した。
父のカードを伴にして。
季節は秋。しかも都内。降雪など期待してはいけないし、してもいない。
颯爽とレンタル会社に乗り込んで。スノーマシンを手配させ、馬に馬車に馭者の果てまで、あっという間に用意してしまった。
(こんなにあっさり)
文花自身。拍子抜けするほどスムーズな事の運びに、理由が無い訳がない。
ことり。
頼んでもいない木靴が目の前に。
かさり、と手紙が添えられている。
サイズはちゃんと大きくしてあるから。パパより――
仕事は良いのか。
すっかり娘のストーカーと化した、父の過干渉は今日も激しく行き過ぎている。
「目が言うから口はいらないのかしら」
刺すような視線は最早凶器だ。
多感な年頃の女の子にとって、ビルの隙間に半分顔を覗かせている壮年顔は……
"ある意味虐待じゃないか"と。
口では何も言わない父親に対し、思いは積年。降らせた人工雪より余程深く、文花の心に積もっていた。




