9 Hちゃん
「はいまた罰ゲーム。今度は好きな人の、どこに惹かれたかを教えてもらいます!」
「もはや狙い撃ちだったよね?」
一昨日と同じように昼休みにゲームをすることになったけれど、気が付けばあれよあれよという間に負けがかさんでいた。
「だってー……気になるじゃない。多分男子人気ナンバーワンであろう櫻井姫香が、みーこがあれだけやめろやめろ言う大ちゃんをどうして好きになったのかさー」
英玲奈の言葉に、美琴がため息を一つついてから口を開く。
「……まあ気にはなるけど、そのために何度もイカサマするのはやめなさいよ。……それとあんたがあいつを大ちゃんって呼ばないでよ」
「んんー? 何で何で?」
「は?」
何やらまた二人の漫才気味の言い争いが始まりそうだったが、小毬ちゃんがさらに口をはさむ。
「英玲奈ちゃん。何でって、イカサマはダメに決まってるでしょ?」
「え、いや、毬ちゃん、そっちじゃなくて」
「ダメ」
「あの」
「ダメなの」
「……はい。もう二度としません」
小毬ちゃんのお説教にとうとう英玲奈が折れた。
私の位置からは小毬ちゃんの顔は見えなかったんだけど、そんなに怒ってたのかな。
とりあえず私はこの機に乗じして、罰ゲームの流れをなかったことにしたい。
「ま、とりあえずもうしないって言うなら今回は信じてあげようよ。今持ってるトランプは没収してさ」
「そうね」
「さんせー!」
「没収はご勘弁をぉ」
この一連の流れで誰となく笑いだし、一段落ついたところで私がそっと話を変える。
「あ、そういえばさ。ちょっと前に駅前にできたカフェ、そろそろ落ち着いてきたみたいだから今度の休みに一緒に行かない? オープンした時は混んでて行けなかったじゃない。私今週の日曜は部活無いけど、皆はどうかな?」
「え? エースさんを好きになった理由は?」
――まさかの小毬ちゃん!?
思わぬ展開に言葉を失う。
「凄いな小毬……今完全に姫の作戦勝ちで罰ゲームの流れは終わったと思ってたのに、力ずくで戻した……」
「毬ちゃん容赦ない……」
「え、だって私も気になるもん」
「ううぅ……」
どうやら逃げられないようなので、仕方なく話すことにする。
でもやっぱり恥ずかしいので、今日も持ってきたアレをかぶる。
――カポ、カチッ
「よし。……あのね」
「「「まって」」」
「え?」
「え? じゃないしそもそも、よし。じゃないよ。急にどうして馬のお面を」
どうやら私の照れ隠しは理解してもらえなかったようだ。
「だってこの話恥ずかしいから……」
「それをかぶることが恥ずかしくないのかなぁ……」
「姫、お面集めるのが趣味だったっけ……」
小毬ちゃんの言ってる意味はよくわからなかったけど、美琴の言うとおりお面を集めるのが趣味ではあった。
とりあえず頷いておきます。
――? どうして苦笑い?
そんなやり取りの後、英玲奈も苦笑いで言った。
「姫―。前にも同じの持ってきてたけど、そんなにウケなかったでしょ? もうやめなよー」
「ちょっと待って。それは聞き捨てならない」
「え? ……あ、ごめ、その、スベってたわけじゃ」
「前に持ってきたのは同じのじゃないよ! 前のはカメラで撮られることに重点を置いた『カメラ馬笑』で今回のは様々な場面で役に立つ万能お面『快頭爛馬』だよ!!」
「そっち!?」
「「様々な場面で役立つ……お面?」」
「ていうかウケも狙ってないよ! 素晴らしい出来のお面でみんなに見てもらいたかったの!」
「「「そ、そう」」」
皆が戸惑い気味だったけど、私は構わず快頭爛馬の良さを伝える。
「まず特筆すべきは視界の広さ! 従来のお面と比べても格段に広く視界が確保されている、それでいて外から見たときには通常の馬の目以外に目立った覗き穴が見当たらないのって凄いでしょ!? それと何より凄いのは被った時の安定感なの! ほら! 見て! こんなに跳ねても全然ぶれないの!!」
私はその場で立ち上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「ひ、姫? 少し落ち着い…………うわ、すご……」
――英玲奈が喰いついた!
「でしょ! 全然ぶれないし、こっちからの視界も全然揺れないの!」
「うん……頭は全然揺れてない……下はすっごい揺れてるけど。ばるんばるんだけど……」
「あ! ごめん跳ぶのに集中しててよく聞こえなかった!」
「ううん、何でもないよ姫。すごいもの見せてくれてありがとうって言ったの」
「ふふふーそういってもらえると嬉しいよー」
とっておきのお面を褒められることに成功した。
嬉しい。
でも少し疲れたから、一旦息を整えよう。
その間チラリと横目で、美琴や小毬ちゃんも興味を持ってくれてないかなと見てみるが、美琴はなにやら悲しそうな顔で自分の胸のあたりを撫でていて、小毬ちゃんは「ここが空き教室でよかった。男子がいなくてよかった」と呟いている。
――むぅ、二人にはあまり興味を持ってもらえなかったようだね……でもくじけない。
「馬面以外にも、いろいろお面持ってて――」
「も、もういいんじゃないかな!? お面の話は!」
「そ、そうだよ姫。今はお面の話じゃなかったよね?」
「あ、あー……エースさんのお話聞いてみたいなぁ」
もしや馬以外がいいのかと別なお面の話をしようかと思ったけど、確かに言われてみれば鹿島くんの話をしていたような気がする。
何故お面の話題になったのだろう。
一瞬、このままお面の話をごり押して、元の話をなくしてしまおうかと考えたが、流石に難しそうなので断念。
「……はぁ。それで……鹿島くんを好きになった理由、だっけ。……えと……最初はね? 普通だったの。別に一目ぼれとかではなく……――」
――初めて鹿島くんと会った時の印象はそんなに強くない。
たまたま合同授業で一緒の班だったってだけ。
印象で言うなら、鹿島くんの隣で一生懸命に場を盛り上げようと頑張ってた村木くんの方が強かったくらい。
でも少し話して気付いたのは、鹿島くんはちゃんと人の目を――私の目を見て話してくれたってこと。
他の男子は――女子もたまにあるけど、チラチラとあからさまに目線が私の胸元にいってたり、そうじゃない人も私の目じゃなくて眉間とか口元とか、とにかく顔の方を向いてるってだけで、目を見て話してくれる人はあんまりいなかった。
「だから好きになったとかじゃないよ? 他にもちゃんとそういう風に話してくれる人もいるし。でも私の中で鹿島くんは普通に信用できそうな人だなって思えたのは確かかな」
「ほうほうそれからそれから?」
促すように英玲奈が言い、小毬ちゃんもコクコクと頷いている。
私は再び――いや、今日に至るまで何度も自分で思い返していた、鹿島大我という人を好きになった日の事を頭に浮かべる。
「それから………………………………………………い、いろいろお話してくうちに何となく好きになったってだけかな!?」
でもそれを人に話すのはすさまじく恥ずかしい事だと気付いたのでいうのはやめます。
次からが通常ペースの更新になります(息絶え絶え)




