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馬面彼女~チェンジ可能!~  作者: 蛇真谷 駿一


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8 T君


 翌朝登校するときにふと、一度陸上部を覗いてみようかと考えた。


 昨日陸上部だと言っていたし、昨日も朝練をしていたのであれば、今日もしているだろう。


「……ま、いいか。練習してるところに行ったら邪魔になっちゃうかもしれないし」


 どんな子が告白してくれたか気にはなっているが、練習中に邪魔をするつもりはなかったので、そのままいつも通り登校する。

 いつも朝早く登校しているので、基本は一番乗り。


 早く登校するようになった理由は単純にバスが混むのが嫌だっただけなのだが、今は好きで早く登校するようになっていた。

 俺が登校した後、続々と入ってくるクラスメートに挨拶するのがなんとなく日課になっていたからだ。


 始めた当初はみんな戸惑っていたが、ずっと続ければみんな慣れるし、それが普通になる。

 時たま張り合って早く登校する奴がいるとちょっと楽しかったりするし。


「おはよう鹿島君!」

 どうやら今日はその張り合ってくる奴がいたらしい。


「おはよう村木。今日は早起き頑張ったらしいな」

「んはは、今日の朝の挨拶は俺が貰った!」


 俺がそうやって毎日一番に来て挨拶してたせいか、気が付けば一番早く登校した奴が、その後入ってくるクラスメート全員に挨拶することになっていた。


 それもあって、この早登校は勝負ごととして扱われることもしばしば。

 勝負の結果が、みんなが登校するときにわかるので、便利なのだろう。

 たまに、明日は誰々と勝負するから鹿島は早く登校しないでくれと頼まれることもあるくらいだ。


 俺が一番になっちゃったら勝敗わからないからな。


「村木はほんとたまに早く起きれるよな」

「本当はお前に勝つためにいつも早起きするつもりでいるんだが、布団が俺を離してくれなくて……」


 定番のセリフを吐く村木に苦笑いしながら自分の席に着く。

 いつもならこの後本を読みながら他の生徒が登校するのを待つのだが、今日はそうもいかない。

 こうして村木が張り合ってくると大体朝は二人で駄弁ることになるからだ。


 村木は話しやすくていい奴だし、話してて楽しいから構わない。

 まあテンションが基本的に高くてグイグイくるタイプなので、他の人には好みは分かれるだろうが。


「おー鹿島、今日一回校門入ったあたりで一回立ち止まったろー? 何かあったん?」

「ん、いや別に大したことはないんだが……というかその段階ですでに教室にいたんだな」


「奇跡的に早起きできた俺を舐めるなよー。で?」

「いや、ちょっと陸上部の朝練を見て行こうか考えただけ。気になることあってさ」


「ふーん? ……ああもしかして例のあの子見に行こうとしてた? お前も意外と男だねぇ」

 例のあの子、で一瞬動揺してしまったが、多分違う人の事言ってるはず。


「例のあの子って?」

「隣のクラスの櫻井さん。いつだったか可愛いってクラスで誰かが話題にしてたろ」

「あー……」


 隣のクラスの櫻井姫香さん。

 陸上部の期待のエースだ。

 それでいてテストも常に上位につけている優等生で、なおかつアイドル並みに可愛いく、グラビア並みのスタイルときたものだ。


 まるでマンガ、小説、ゲームのヒロイン。


「多分櫻井さんは毎日告白を受けているが、皆が全滅。でも誰とも付き合っていないに違いない」

「使いまわされた設定だなぁ。あれだけ整った容姿してれば彼氏くらいいるだろ。古今東西かわいい子には男がつきものだ」


 合同授業の時なんかに何度か話したことがあるが、確かに可愛らしいしとっつきやすく話しやすい、理想の女の子といったところか。


 ――俺の彼女も負けてないがな。


「やめろぅ。俺の夢を壊すな」

「夢て。アホかね。……ま、部活に勉強で大変だろうから実際いなさそうだけどな」


 実際、俺が最後に会話した時は、本当に疲れが溜まっているようだった。

 その後ゆっくり休んだようだから大丈夫そうではあるが。


「だろだろ。多分いろんな告白を断るけど、どういう訳かパッとしない男子とあっさり付き合ったりするんだきっと。俺みたいな」

「欲望が正直すぎる。大体、そんなマンガとか小説みたいにポンポン告白があってたまるか。…………告白はもっと大事にするべきもんだよ」


 俺の脳裏に昨日の朝の光景がよみがえる。


 あの時の彼女は本当に緊張しているようだった。

 そんな一大イベントが毎日あって、どういう訳かその告白の結果が他の生徒に知れ渡るなんてのは創作物だからありえることだ。


「んーまぁそうなんだけどさー。夢見ちゃうじゃん。あんな可愛い子が彼女だったらってさ。鹿島もそうだろ?」


「いや俺は…………………………いや」


「…………何? いや俺は、何? え……まさか、鹿島、え……? お前、彼女出来たの……?」

「………………………………………………まあ」


 かなりの葛藤があったが、村木にはとりあえず言っておくことにした。


 村木は話し好きだけど、たまに話に上がる、人が嫌がるような噂話にはのらないようにしてたのは、何度か目にしていた。

 多分だけど言わないでくれと頼めば本当に言わないでくれると思う。


「マジかよっ!? え、は!? いつ!?」

「……昨日」


「昨日!? ………………朝かっ! 何か昨日妙にぼんやりしてると思ったけど、朝に何かあったんだな!? お前放課後は素早く直帰するから! あっ! だからさっき告白の話題の時妙にマジになったんだな!?」

 急に鋭い。


「…………まあ、合ってるよ。一昨日の放課後、下駄箱に手紙が入ってて、昨日の朝……告白された」

「マジかマジかマジかマジか……マジか!」


「何か魔法でそうだな……てか、誰かに言ったりしないでくれよ? 照れるし……」

「いや照れるって、自分から白状しといて!?」


「一応、村木だから話したとこある」


「……こっちが照れるわ!! 信頼してくれるのは嬉しいけども! ……え、で……? だ、誰なの? 誰と付き合う事になったの……?」


「……さぁ……?」


「え、ここではぐらかす!? 今の流れではぐらかす!?」


 本当に誰かわからないだけなんだよなぁ。


「ちょ、まって、誰かに話してほしくない事を漏らすつもりはさらさらないが、とりあえず教えて詳しく。お前の話を掘り下げさせて」

「ん、そろそろ誰か来る時間じゃないか? お、ほら。生島さん来たじゃん」


「……くっ! 後で……今度でいいから、絶対教えろよ!! ……ごほん、生島さんおはよう!」


「およ、おはよー。今日は村木勝ったんだ。おめー」

 ケラケラと笑いながら生島さんが挨拶をする。


「鹿島もおはよ」

「おはよう。今日は負けてしまった」

「残念ねー」


 生島さんと話しながら、チラリと村木の方を見ると、既に次々入ってくるクラスメートに挨拶することに専念していた。


 さっきだって本当はまだ詳しく知りたそうだったのに、後で教えろ、から今度でいいからに言い直してた。

 律儀と言うかなんというか。


 やっぱり俺個人としては、村木はいい奴だと思う。



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