7 T君
SIHK:おやすみなさい!
今日出来た彼女からのメッセージを読み終えた俺はベッドにうつぶせになる。
その上にイカ天がいそいそと乗ってきたが、気にしてる余裕はない。
「聞けなかった……いや、聞けるわけもないか。せっかく出来た彼女に……何かめちゃくちゃうれしそうにしてくれてる彼女に………………名前はなんですか? なんて……」
そう、俺は出来たばかりの彼女の事を何も知らない。
顔も、名前すらもだ。
知ってるのは《DOOR》のユーザーネーム『SIHK』だけ。
ワンチャンユーザーネームで名前がわかるかと期待したが、これだけじゃ誰かなんてわかるわけもなく、今のやりとりの間に聞くことも出来なかった。
もらった手紙には名前は書いてなかった。
最初は会ったときにわかると気にも留めてなかったが、実際会ってみたら、お面をかぶっていて顔がわからず、結局彼女は自分の名前を言うことはなかった。
「そんなの予想できんて……」
結局体育館裏でもその話になることはなく、今に至っているわけで。
「……何も知らない、誰かも分からないで告白をOKしたってわかったら嫌われるかな……」
とりあえず、どうして受けいれたかと疑問を持たれるのは確かだろう。
普通ならそう思う。
でも今改めて考えても、俺はあの子が好きになったから告白を受けいれた。
それはハッキリ言える。
だが何故かと自問自答した時、すぐに答えが出なかった。
一目ぼれ、は多分違う。
そもそも一目見てない。
ただ、惹かれた理由はいろいろあったはず。
一瞬、告白の場面を思い返す。
――…………あの時、最初に話してみて、いいと思ったのには――理由なんて特になかった。
そうだ、なんとなく、雰囲気が好きだと思った。
だからこそ、お面をかぶって顔を見せない人相手でも普通に、まあ少しは戸惑ったけども、普通に会話が出来た。
そして告白を受けたとき、顔も見えないのに相手の真剣さが伝わってきた。
もちろんこっちの勝手な受け取り方だけど、たぶん間違いないと思う。
そう言う気持ちの伝え方をできる人に、好意を持たれたことが嬉しかった。
だからこそ、好意をもって返事が出来た。
で、この短い間の《DOOR》でのやり取り。
向こうが本当に楽しそうに、嬉しそうにやりとりしてくれることが嬉しくて、そこでやっぱりこの子が好きなんだと実感できた。
「よし、何故好きになったのかという問いの答えが出た! すっきり!」
恐らく明日、一緒に帰る時には誰だか判明するだろうが、お面の中が誰であろうが、特にいう事はないだろう。
もちろんあの子はいったい誰なのか気にはなっているが、なんにせよ俺は、あの告白をしてくれた女の子を好きになったのだから。
「……それに、終始馬のお面に目を奪われてたけど、馬から目を逸らすときにちょっと見えたスタイルは結構……………………まてまて、今完全に性癖に引っ張られてる! お面被ったスタイルいい女子とか俺の性癖そのものだもの! お面被った状態で水着とか超見たいし! だぁくそっ! 最後の最後に煩悩帰ってきやがった!! せっかく自分の中で綺麗な形で処理出来てたのに!! あとイカ天はもうそろ降りてくれる!?」
我ながらしまらない思考だとは思うが、男子高校生なんてこんなものである。




