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馬面彼女~チェンジ可能!~  作者: 蛇真谷 駿一


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61 Hちゃん


「さて、時間も時間だし、手短に話すんだけど……」

「あ、うん。話したい事、だっけ」


「そ。……実はさ……付き合ってること隠すの、止めにしたいと思ってる」


「ほへ!?」


「これは俺の気持ちだから、もし姫が学校で色々揶揄されたりするのが恥ずかしいって言うなら、無理にとは言わない。けど、俺はやっぱり学校でも普通に姫と話したいと思って」


「大我くん……私はもちろんそれでも……あ、でも前に部活のことでって……」


 前に美琴が大我くんの家に行ったとき、そういう理由で私たちの関係を隠そうという話になっていたはず。

 私自身は全く気にしてなかったけど、二人が気を使ってくれたやつだ。


「うん……俺も今日までそのことがあるから、今まで通り隠しながらお付き合いしていこうって思ってたんだけど……とある筋からの情報で、式見先生はそういう事を気にしないって教えられてさ」


「とあるすじ」


「そう……なんか謎の部活? みたいな」

「帰宅部……っ」

「…………知ってるの……?」


 謎の部活という言葉に思わず名前を出してしまった。

 それを聞いた大我くんは驚きに目を見開いてる。


 なんで大我くんがあの部活のことを知っているのかは置いといて。


「し……知らない……」


「……そ、っか……うん、いや、うん……時を戻そう」


 ――あ、太勇さんだ……じゃなくて!


「そ、そうだね! えっと……何の話だっけ」

「式見先生は、部員が誰かと付き合うとかは気にしないって話」


「そうだったね……どうやってそんなの知ったんだろ」

「それは俺にもわからない。けど、せっかくだから今日の昼休みに聞いてみた。……式見先生に直接」

「え!?」


「それで――――」

「うん……あ、ちょっと待って!」

「うん?」



「コホン……ほわんほわんほわんほわわわぁぁぁん……どうぞ」


「……………………」

「……………………」

「……え、今のはもしや、その音が入ったから回想シーンだよ的な……」


「どうぞ!」


「えぇ……まあいいか」




 昼休みに職員室まで式見先生を探しに行くと、ちょうど理科準備室の整理をするところだったらしく、話をするついでにお手伝いしてきたんだけど。


「ん……もし、部員に恋人が出来たりしたらどうするか、だって?」

「はい。一応うちの陸上部は全国を目指せる位置にいるはずなので、その……異性交流、的なのは、あまり……」

「いや、かまわないわ」

「へ?」


「いや、むしろそういった経験が出来るなら絶対学生のうちにしておくべきだと思う! そういう学生時代の恋愛事も、後のいい経験になることもあるでしょうし…………あ、いや、そのあくまで健全な関係に限りだが」


「あ、はい……」

「……随分と意外そうだな」

「そう、ですね。さっきも言ったように陸上部は全国も目指せる部なので、厳しく律してるのかと思ってました」


「まあ、指導者によってはそういう場合もあるだろうし、もしかしたらそちらの方が正しいのかもしれない。……けど私はそういった恋愛関係は、部員の気持ちの面で大きなプラスになると考えている」

「プラス、ですか」


「そうだ。陸上に限らず何事も技術を磨くことは大事だ。一定数の指導者が異性交流を否定するのは、そちらにかまけてその技術面に費やす時間が減る事への危惧だろう。……だけど、その技術を磨いたところで、それを行うのは人。そして人は往々にして気持ちに左右されるものだ。スポーツだと特にそういう人は多いと思う……だからこそ、その気持ちの面の支えになれる可能性がある恋愛感情というのは、私は大事だと思ってる。…………もちろん、それのせいでダメになるパターンも少なくないから、一概にどれが正しいとは言えないけどな」


「なるほど……」



「……しかし鹿島……? そんなことをわざわざ私のもとにまで来て尋ねてくるということは……もしかして……?」

「あ……やっぱりそうなりますよね……まあその……はい」


「ほぉう! 誰か聞いてもいい? え、というかこれから告白? それとももう実は付き合い始めてる? あ、もしかしてあの快頭爛馬の子ってうちの部に――」


「急にグイグイ来ましたね!」


「私の学生時代は割と灰色だったからね。若い子らのそういう青い春の話は大好物なのよ」


「あー……その……いや、独断で話すことでもないんで! では失礼します!!」

「え、あ、ちょっと待って!」


 とまあ、そんな感じで逃げてきたわけなんだけど。




「――デュバッ! え、ってことは私もお付き合いしてること言ってもいいってことかな!?」


「……………………ごめ、ちょっと待って、今のデュバッて、もしかして回想してる時マンガとかでよくあるモクモクを消した音、とかそういうので合ってる?」


「もう、大我くん! 今はそれどうでもいいでしょ!」


「嘘でしょ……自分で始めたのに……」

「全く……前に美琴も同じようなこと言ってたけど、幼馴染って似るのかなぁ」


「ああなるほど、あいつも同じ目に……姫はツッコミなのかボケなのか……まあそれは追々かなぁ……」


 ――? よくわからないけど、これはとりあえず話を進めた方がいいね!


「それで、式見先生はえと、お付き合いについては大歓迎なの!?」

「え? あーうん。その、多分練習とかに影響さえ出なければ好きにしていいみたいな感じだとは思う」

「そっか……!」



「まあ、付き合ってることを言ったとしてもメリットみたいなのはないけど、俺はやっぱり、付き合いをちゃんと認めて、何と言うか……周りを牽制しておきたい……かな? やっぱり姫はモテるから…………あー、まだ見ぬ誰かに嫉妬してるみたいでヤバい恥ずかしいな…………独占欲みたいなのが出てきちゃってて……改めて考えると俺カッコ悪いな!」


 そう言いながら大我くんは、照れてはいたものの、私の目を見てハッキリそう言ってくれた。


 ――嫉妬。


 前に英玲奈や美琴と話したことを改めて思い出した。

 今ならあの時の会話の意味が少しだけわかる気がする。


 大我くんが今、抱いてくれた嫉妬は、あの時の話で言うところの『可愛い嫉妬』だ。

 ――ふふ、嬉しい!!



「カッコ悪くなんかないよ! その、恥ずかしながら私も、大我くんとお話してる女の子がいたりすると、羨ましいなズルいなって嫉妬してたから……」


「うぇ!? そんなそんな俺みたいな奴なんか誰も見向きもしないから気にしなくてもいいのに……」


「む。今、私の大好きな人を悪く言ったね! それは許しがたいよ! 温厚で平和主義の私でも怒るよ!」


「え? え、あ、あー……えー……っと、ごめんなさい?」

「いいでしょう。今回は許します。次はありませんよ」



「あはは……ありがと。それで……姫さん? 結局、どうされますか?」


「――――うん、それじゃあ……」



 ――――そして――――




次回最終回。

明日更新です。

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