6 Hちゃん
年が明けてめでたいので、やっぱり5日くらいまで連続更新します。
(命を縮める作業)
「………………きゃー!!」
ベッドに横たわり、枕に顔をうずめ足をバタバタさせる。
こんなわかりやすい、マンガみたいな行動を私自身がとるなんて夢にも思わなかった。
でもしょうがない。これはしょうがない。
だって、だって――。
「告白、成功しちゃった…………っ!!」
私は今日の朝の出来事を思い出し、また胸を高鳴らせる。
――『よろしくお願いします』――。
「にゃー!!」
再びベッドでゴロゴロ転がる私。
勢いで告白したこともあり、朝のうちは実感がわかなかったが、どんどん朝の出来事を自覚していって、放課後には有頂天だった。
おかげで今日の部活では今までで一番のタイムが出せた。
すごく集中していたと顧問の先生や部長に褒められもした。
正直全然、まったくもって部活に集中なんてしてなかったけども。
一切部活の事は頭になかったけども。
習慣で部に来て走ってただけで、ずっと朝の事を考えてたけども。
今もその時の事を思い出し、今日の朝、奇跡的に鞄の中にあった《超高性能馬面――快頭爛馬》を手に取る。
「うーん、思い出せば出すほど、このお面があってよかった……」
ちょうど昨日の夜に届いた新発売のお面《快頭爛馬》。
どんなに激しく動いてもぶれない安心設計に通気性抜群の面内、それでいて視界の広さも両立したよくばり商品だ。
――大量生産できない限定品だったから入手には苦労したんだよね……。
お面収集家の間でも評価が高いこのお面を、ぜひ皆にも見てもらおうと鞄に入れていた。
「前に持って行ったカメラ映りのいい馬面《カメラ馬笑》は反応があんまり良くなかったから、持って行ったけど、まさかあんなところで役に立つとは……」
ともかく、今日私に彼氏が出来た。
ということは、今後色々と恋人っぽい事をしていくに違いない。
「…………で、でーと、とかするのかな……」
いやでも、今は部活が忙しいから難しいかな。
でもちゃんとデートはしてみたい。
「うーん…………と、とりあえず、連絡、してみようかな!」
そう、決意を込めてわざわざ発言して、携帯を取り出す。
なぜだろう、普通に友達とかに連絡するときは全然気にしないのに、今は妙に緊張する。
恐る恐る《DOOR》を起動する。
――鹿島くんのユーザーネームは『大鹿』かぁ……私のユーザーネームの『SIHK』と同じで名前からもじってるんだね。
私は『SくらI HめK』だからね。
「………………よし。えと『こんばんは、夜にごめんなさい。鹿島くんと少しお話したくて』……と。……ちょ、ちょっとあざとすぎたかな……」
――カチャ♪
「あ、よかったちょうど携帯使ってる時だったんだ……んと『ううん、さっそく連絡ありがとう。嬉しい。本当はこっちから連絡しようかと思ったけど、妙に照れくさくて(笑)』……~~~~っ!!」
返事が来ただけで嬉しすぎるのに、内容で悶える。
とにかく返事をしなければ。
「ふふふ、もう……鹿島くんてば……はっ」
しばらく時間を忘れて《DOOR》をやっていたが、気が付くと四十分以上連続でやりとりをしていた。
「……む、これは流石に話し込み過ぎかな……ログの量が一日分じゃないや……あんまりやりすぎると迷惑だし、そろそろ終わらなきゃ」
しかしそう思うと、中々終わらせるのは名残惜しく、少しだけ戸惑ってしまう。
もっとゆっくり話をしたい。
そう考えたとき、明日は部活が休みだったことを思い出した。
「そういえばそんなこと言ってた気がする……恋人っぽい事……定番なのは一緒に帰ったり、かなぁ……」
少しだけ躊躇った後、聞いてみることにした。
SIHK:あの、ね? もし、出来ればでいいんだけど! 明日、一緒に帰れないかな?
私明日部活休みで……
SIHK:鹿島くんが忙しいって言うのは聞いたから、無理にとは言えないんだけど
大鹿:かまわないよ? 誰から聞いたかわからないけど、別にいつも忙しいわけじゃないからね?
大鹿:習慣で早く帰る癖がついてるけどさ
SIHK:そうなんだ……! じゃあ、明日学校終わり一緒に帰ろ! 私鹿島くんともっと話したいから……
大鹿:わかった! 楽しみにしてる。……と、そろそろ遅いし、終わりにしようか。……名残惜しいけど
――か、鹿島くんも同じこと考えてる……!
SHIK:うん……じゃあ、また明日
大鹿:また明日ね。あーっとその、もう一個聞きたいことが
SIHK:? なになに? 鹿島くんの質問は今ならなんでもこたえちゃいます(笑)』
聞きたいことってなんだろうと、思いながら返信する。
「あ」
返信したところで、ちょっと責めすぎた返しだったかと若干焦った。
大鹿:……いや、やっぱり明日会った時に話したいかな? それじゃあ、おやすみ
「………………これいい……! 会ったときに話したいって感じも、おやすみってやりとりも……なんかいい!!」
SIHK:わかった。……その、おやすみなさい!
最後に私がメッセージを出して、アプリを閉じる。
「…………………………わー!」
改めて、今自分は恋人とメッセージのやりとりをしていたと考えて、三度ベッドで悶えた。




