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馬面彼女~チェンジ可能!~  作者: 蛇真谷 駿一


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55/62

55 Kちゃん


「えっ!? あ…………そ、そう、なんだ……」


 ある日の放課後、話があると呼ばれた美琴ちゃんの家で言われたのは、美琴ちゃんの気持ちに整理がついたという話だった。

 私のメッセージを見た美琴ちゃんは、直接エースさんとあって、きっちりお話ししてきたと。



「……うん。ちゃんと気持ちを伝えてきた。……ちょっとだけ隠しちゃったけどね? それでも思ってることは伝えたし、もし仮に隠したことを伝えたとしても、きっと答えは変わらなかったと思う」


 そう言って美琴ちゃんは儚げに笑った。


 多分、今こうして言葉にするよりずっと辛かったんだと思うし、泣いたんだと思う。


 詳しい内容までは教えてはくれなかったけれど、多分エースさんは姫ちゃんを選んだってこと。


「その…………なんて言ったらいいのか」

「いやいや、別に何言ってもいいよ! 正直どっちかっていうと二人を応援したい気持ちも大きかったのも事実だしね!」


「美琴ちゃん……」

 ――その言葉に嘘はないとは思うけど、全部が本当にも思えないよ……。


 少ししんみりしそうになった時、その場にいた私でも、美琴ちゃんでもないもう一人(、、、、)が、空気を壊すように明るく話を変えた。



「と言うかですねぇ! そもそも、私だけ姫とその鹿島君がお付き合い始めたって情報が入ってきてないんですよぉ! これはいったいどういう事ですかねぇ!?」


「えと……その前に、どうして英玲奈ちゃんまで……?」


 英玲奈ちゃんは苦笑いする私にわかりやすく「嘘をつきます!」といった感じの笑顔を見せながら言う。


「いやぁ、みーこが毬ちゃんと二人きりで話すのは緊張するから付いて来てってね! まあね? あの日みーこが一人涙を流しているときにそっと胸を貸した私を頼ってくれたのは嬉しいんだけどね!」


「えっと……美琴ちゃん」

「英玲奈はあの日私たちの話を、卑しくも盗み見盗み聞ぎしてたの」

「えぇ……英玲奈ちゃん、それはちょっとデリカシーがなさすぎるよ……」


「みーこ言い方! 偶然近くにいちゃっただけなんだって!! なんで信じてくれないの!?」

「身から出た錆」

「仕方ないかなぁ」

「二人とも即答!?」


 その後も少し、英玲奈ちゃんがぶーぶー文句を言って美琴ちゃんが律義にツッコんで、またいつもみたいに騒がしい展開になっちゃった。

 でも、そのお陰で、しんみりした空気ではなくなっていた。


「とにかく! 小毬ちゃん!」

「はい!」

 キリがないと思ったのか美琴ちゃんは話を力づくで戻す。



「小毬ちゃんがあの時、姫と大ちゃんの事を教えてくれたおかげで一歩進む決心がついたんだよ。ありがとね?」


「あ…………う、ん……」


 そして、またお礼をされてしまった。


 姫ちゃんと同じように。


 確かにあの時、姫ちゃんだけを応援したことにはしたくなくて、美琴ちゃんに二人のことを教えた。


 それは、あの時私の中でそうやって――どっちも応援したいって理由を付けた結果だけど、やっぱり本音は美琴ちゃんへの後ろめたさ。罪悪感だったと思う。

 今、姫ちゃんと同じように美琴ちゃんからお礼を言われたことで、またその罪悪感が少しずつ私を苛む。


 二人はそんな私に気づいて、声をかけてくる。


「小毬ちゃん?」「ん? 毬ちゃん?」



 そして私は意を決して美琴ちゃんに切り出した。


「ねえ美琴ちゃん。これは、こうしてわざわざいう事じゃないかもしれないけど……その、最初に姫ちゃんの背中を押したの、私なの!」


「へ?」


「初めて姫ちゃんの好きな人を知った時、私が何気なく「告白したらいいのに」って言って、そしたら今みたいになって……謝る……のは、なんか違うかもしれないけど……美琴ちゃん……ごめんなさい!」


 少しの沈黙が部屋の中を包む。


 そして――。


「うーん……確かに、謝るのは違う、かなぁ……」

「っ」


「小毬ちゃんはそれを誇るべきじゃない?」

「……え……」


「いやだってそうじゃない? 明らかに片思いです! って感じだった姫の背中を押したんだよ? 小毬ちゃんは」


「確かに! しかもさっきみーこも毬ちゃんの言葉で一歩踏み出せたって言ってたじゃん! すご、毬ちゃんの背中を押す力すご!」


「確かに私もちゃんと背中押してもらってた……うん、小毬ちゃんは誰かの背中を押す天才だよ! やっぱ誇るべき!」


「いーなぁー! 私も背中押されたい! 毬ちゃんお願いできないかな!?」

「それなら私に任せて。まずは崖の淵に立って海を眺めてて」

「ころされるっ!!」


 私の思っていたのとはまるで違う反応に、思わず口を開けてポカンとしてしまう。

 でもそのままという訳にもいかずに尋ねる。


「……ど、どうして……」

「え? いやだって、ほんとに謝る事じゃないし……さっきも言ったけど整理はついてるんだよ?」

「で、でも! 私が余計な一言を言わなければ、美琴ちゃんは……!」


 私の言葉に美琴ちゃんはゆっくり悩みだした。

 そして――。

「んー…………まあ、確かに私と大ちゃんが付き合えた可能性、も……無きにしも非……ずぅ……?」

 ――すごく曖昧な答えを返してきた。


 英玲奈ちゃんも苦笑いで指摘する。

「すごく不確定要素が強い」



「英玲奈うるさい。……だってさぁ、私が大ちゃんとまた話すようになったのだって、姫が大ちゃんの近くにいたからだから……もし、姫がまだずっと片思いをしてたなら、私も大ちゃんと話すことがなかった気がするんだよねぇ」

「え……」


「いや、えじゃないんだよ小毬ちゃん。そんぐらい疎遠だったの、ほんとに。……正直、幼馴染としてでも、また大ちゃんと話せるようになれたんだから、姫には感謝したいくらいだよ……もちろん、そのキッカケを作った小毬ちゃんにもね」

「…………………………」


「だから、もしそんなことを気にしてるなら、そんなのすぐ忘れてから、心おきなく姫を祝福しよう?」

「……………………うん!」


 私と美琴ちゃんが互いに笑い合う。


 ――あー……もう、美琴ちゃんは優しいなぁ……エースさんはぜいたくな選択をしたんだと改めて思うよ……!

 まあでも、姫ちゃんが悪いとは全然全くこれっぽっちも思わないけど。


 そして私たちの様子を見ていた英玲奈ちゃんがポツリと呟く。



「……その姫は、いつ体調が戻るのかね……」


「確かに……」

「うん……そうだね……」



 皆勤賞が続いていた姫ちゃんが休んでから、もう三日目の事。



唐突にちょっとだけ過去の話。


ブクマ感想評価お待ちしております!!


そろそろいちいち書くのがむなしくなるくらい読まれない笑

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