54 Hちゃん
――び、びっくりした……心の準備なしに鹿島君に抱きしめられてしまった……。
すぐに離してくれたけど、まだドキドキいってる……。
「あはは……急にごめん。ついテンション上がっちゃって」
「え! あ! ちがっ、抱きしめてもらえるのは嬉しい!! でも心の準備が足りてなかっただけだから!!」
「……ほう。では今一度心の準備お願いします」
「ふぇっ!? あ……すぅ……ふぅ…………はい! お、お願いしふぁふっ!!」
「派手に噛んだ……まあそれじゃあその……失礼して……」
鹿島君がゆっくり私の体を抱きしめる。
今度は優しく、それでいて力強く。
「……………………………………」
「…………………………こう、改まってやると……すごく照れる……」
「……だ、抱きしめられてる私はもっとだと思われます……!」
でも、なんだろう。すごく幸せって感じがする。
出来るなら、この状態のまま、もう少しだけ。
~~~~~~
長いようで短い、時間にすると多分ほんの十数秒くらいの抱擁が終わる。
その間、時間の感覚がおかしくなってしまってたみたいだった。
抱きしめてもらっている間は長く感じ、それが終わりを迎えるころには短く感じてしまう。
そんな何とも言えない感じ。
「………………」
「………………」
終わった後は、私も鹿島君も妙に照れくさくて、少しお互い黙ってしまった。
けれど、話したいことなんていっぱいある。
会えなかった時の事、正体を知られていなかった時の勘違い、他にも色々。
なので自然にいつものように会話が始まっていた。
それと結局今日、朝練はお休みすることにした。
どうせならもっと鹿島君とお話ししていたいと思ったから。
――……ふふっ、朝早くから鹿島君と二人で、部活をサボっておしゃべり……これもあの時と同じみたい。
せっかくなので気になっていたことも聞くことにした。
「えっと……一つ、いい?」
「ん?」
「ここで待ってたってことは、私の事をちゃんとわかってたってこと、だよね……? どうやって気づいたの? 美琴に聞いた?」
「いや……遅くはなってしまったんだけど、ちゃんと自分で気付いた……」
「……どのあたり?」
「…………恥ずかしながら、初デートの時。家で一緒に話してる時に……なんか会話が懐かしいなって思ってさ……覚えてない? あの時ちゃんと一緒に昔話出来てたんだよ」
「あ…………」
そうだった、あの時私が鹿島君、家族の話もちゃんと覚えていてくれてた。
全然気づいてなかった。
「そっか……えへへ……思い出してくれてありがとう」
「いや……逆にあそこまで思い出せず申し訳ない……」
「いいよいいよ! ……というか、あのデートは、完全に私の失態の方が大きかったので……」
「じゃあ……トントンってことで……次のデートはお面無しを期待してます!」
「任せて!」
改めてデート約束をして、二人で笑い合う。
「えっと……後、俺からも一ついい? 実はずっとモヤモヤしてたことがありまして……」
「えっ……な、なに!?」
最後に鹿島君が申し訳なさそうに言ってきたので、私は少しだけ焦る。
私何かしたかな!?
「……その……前みたいに、名前で……呼んで欲しいなぁ……って」
「あ……!」
そ、そうだった。
私のケジメの一つとして、ずっと――心の中でさえ、鹿島君と呼んでいた。
「あ、う、うん! かし……た、大我くん!!」
「お、久々に出たな? かした大我くんめ……」
「あっ……もうっ!」
何度もしつこいとお思いかもしれませんが、心の支えになるのは確かなので、ブクマ感想評価、よろしくお願いします!
後どうしたらもっと読んでもらえるんでしょうね……誰か詳しい方……!




