52　Hちゃん

『でも、俺はそれでも楽しかったよ』

「え……っ」

　その言葉に、思わず鹿島君の顔を見る。

　でも鹿島君は、楽しい思い出を語るような笑顔をしていた。

　――たのし、かった……？　誰かもわからない、お面を被った変な女子と一緒にいることが……？

「そりゃ最初はさ？　流石に相手も誰かわからないのに、そのまま付き合い続けるのも失礼かなって思ったから、あの手この手を考えて、俺がお面の下を知らないことがバレないように探ったりしてたけどさ、その後一緒に話したりするうちに、お面を被ってるのが全然気にならなくなり始めてた。お面がどうこうより、一緒にいることが楽しかったんだ」

「鹿島、君…………」

「だからもし、姫が俺と別れようといった理由がそれ(、、)だとするなら……俺が気遣いだけで、顔も名前も知らない女子と付き合ってくれたかもしれない……そんな風に思いこんで、気に病んでるのなら、考え直してほしい……！」

「っ…………でも、鹿島君……」

「あ！　……もちろん、それ以外の理由があるなら、教えてほしい。出来るだけ直すつもりだし、そのことで姫を不快にさせたのだとするなら、謝りたい」

「…………そんなの、ないに決まってるよ……」

「それなら、いいんだけど……ほんとになんかあるなら言ってね！？　姫は優しいから、許しちゃってるだけとか……」

「わ、私優しくなんか……そ、そうじゃなくって！　……さっきの……思い込んでって……」

「…………思い込んで、だよ…………俺が好きでもない相手と付き合ってるって思ったんでしょ？　……でも、そうじゃないよ」

「っ」

「俺が姫から告白を受けたとき……確かに顔も名前もわからない相手だったけど、立ち振る舞いや雰囲気は真剣なものを感じたし、目いっぱい勇気を出して、素直に好意を伝えてくれた姫に、俺はちゃんと応えたいと思った。だから告白を受けた。……そこに変な気づかいみたいのは存在しない。断言する」

　鹿島君の言葉に、思わず縋りたくなる。

「……ぁ……っ！　……でも、私……」

　それでも、また鹿島君の優しさに甘えようとしてるのではないかという思いが私の中に生まれてしまい、素直に自分の感情を表に出すことは、出来なかった。

　そんな葛藤をしている私を待っていてくれた鹿島君だったけど、急に何かに思い至った顔をして、小さく声を漏らした。

「――――っ！！　…………ああ……そうか、そうだわ……そうだよね、ごめん。ホントごめんっ……今まで伝えてないわ……バカか俺は……これをちゃんと伝えてないと何も話が進まないじゃないか」

　――そして、そう言いながら唐突に頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「え、ええ！？　か、鹿島君……？　ど、どうしたの……！？」

　何事かと心配していると鹿島君は、バッと立ちあがり、大きく深呼吸をした後、改めて私に向き合い――真剣な顔で、私に言った。

「姫……櫻井姫香さん……馬のお面を被ってた女の子さん。俺は……鹿島大我は、あなたのことが好きです」

「あ………………」

　私が、欲しかった言葉を――。