51 T君
久々のT君視点。
目をつむり、彼女が来るのを今か今かと待ちわびる。
何時間待ったかと時計を見ても、時間は数秒しかたっていない。
――待ち遠しい……いや、嫌われたのだとするなら、もしかしたら来ないかもしれない……でも、来てほしい。
そんな事をぐるぐると考えながら、俺はジッとその場で待ちわびる。
そして――
――ガラッ――
「…………ぇ」
「っ……はぁ、よかった……来てくれたんだな――姫!!」
ドアを開いて現れたのは、どうしてだかすごく驚いている姫――櫻井姫香の姿だった。
――彼女の顔を見るのは久しぶりだ……………………いや、ほんと久しぶりだな。いつだ? 前に合同授業あった時以来だから結構前だな。
でも、話をするのは大体一週間ぶりくらいだ。
「とりあえず……来てくれてありがとう、姫」
そう呼び掛けてみるが、どういう訳か驚いた表情のまま固まっている。
「…………姫?」
「ど、どうして……」
「ん?」
「どうして、ここに…………」
「いやいや、手紙に書いた場所……俺と姫が大事な話をしたところと言えば、ここ以外ないでしょ? ……まあ、俺も渡した後に、あの書き方だと体育館裏と思われるかもとは考えたけど……えと、というか、その言い方的には……もしかして、会わないつもりだった、とか……?」
俺が体育館裏にいると思ったうえで、ここに来たってことは、やっぱりそういう?
だとするなら結構ショックかも。
いやでも、朝早く――朝練よりも早い時間に来てくれたってことは、少しは会うことも考えてくれたと前向きにとらえよう。
「ちが、あ、でも、えと、そういう……その……えぇ?」
「おけ、ちょっと深呼吸しよ深呼吸」
動揺してるのか、困惑しているようだったので、少し落ち着いてもらう。
「……すぅ……はぁ…………ごめん、なさい……もう大丈夫……」
「それは何より」
「それでその、どうして……ここにいる、の……?」
「そりゃ、さっき言った通り――」
「そうじゃなくて! ………………私の事、知らなかったんじゃなかったの……?」
「え?」
「お面を被って告白した女子の、本当の顔……知らなかったんじゃなかったの?」
姫の言葉に思わず目を見開く。
――…………あぁ……そっか……もしかしたらそれで――。
「……知ってたんだ」
「…………この前、美琴とその話をしてるのを聞いてしまって……」
「ああ、あの時…………ん…………ごめん、その話って最後まで聞いた……?」
「ううん……最初だけ……すぐにその場から離れたから」
「そっか…………んー、それでか……」
「? どういう……」
姫が俺の言葉に不思議そうな顔をする。
あの時の話を、最初しか聞いていないなら、多分訳が分からないだろう。
俺が顔も名前もわからない相手と付き合ってるなんて。
だからこそ、ちゃんと説明するべきだな。
あの時美琴に言ったことも、俺の考えも。
でもその前に、俺はずっと言えなかった――言わなかったことを口にする。
「……その前に、まずは謝らせてほしい。姫の言う通り、俺はせっかく告白してくれた姫の本当の顔も名前も知らないまま、お付き合いしていた。俺に好意を抱いて告白してくれたのに、そんな煮え切らない付き合い方をしてしまったことは、本当に申し訳ないと思ってる」
「ちがっ……! 謝らなきゃいけないのは私! 最初の手紙に名前を書き忘れたのも、呼び出したのに自己紹介しなかったのも、そのことに気づかなかったのも、全部私が悪いの!」
「姫……」
「ほんとに……ごめんなさい……」
「……………………………………手紙に名前なかったのって忘れてたの……?」
「うぐぅえ……!? この流れで、そこだけ拾う!?」
申し訳なさそうな顔から一転、困惑顔に変化する姫がおかしくて笑みがこぼれる。
漫画だったら目の中ぐるぐるしてそう。
というか、俺はこの話題をそんな暗いトーンで話したくなんかない。
「いや、ごめんごめんつい。……でも、その後何も知らないことに気づいた俺がさっさと聞けばよかったのに、変に気にしすぎて聞こうとしなかった……顔も名前も知らないのに告白受け入れたを知ったら傷つけるかもってさ。だから、それはちゃんと謝りたかったんだ」
「………………」
「でも、俺はそれでも楽しかったんだよ」
少しずつ……少しずつでもブクマが増えてくれるのは本当に嬉しい。
ありがとうございます……!
ブクマ、感想、評価……たくさんあって困る事なんてありませんからね!?(要約:とても欲しい)




