50 Hちゃん
部活が終わり、ヘトヘトになった体を押して、もう体調を崩さないように身の回りのことを済ませて、やっともらった便箋を開いた。
「……」
そこには一言『明日の朝、学校が始まる前に大事なお話があります。かつて大事なことを話した思い出の場所で待ってます』とだけ書かれていた。
この文章には見覚えがある。
「……当たり前じゃない……私が書いたものにそっくりだもん……」
違うのは、私の手紙では書き忘れた、名前がちゃんと入っていることと、私の手紙でははっきりしていた場所の指定が、この手紙はあいまいだったこと。
私は場所を体育館裏に指定したけど、鹿島君の手紙には『かつて大事なことを話した場所』と書いてある。
「…………これって……やっぱり鹿島君にとっては、体育館裏って事……なのかな」
手紙の文章を似せたこともそうだし、間違いないと思う。
「……顔も名前も知らない鹿島君にとって、私との思い出の場所はあそこだもんね……」
でも、私にとって『思い出の場所』というのは、他でもない、あの図書室だ。
「鹿島君には……わからないよ……」
そんなことを思いながら視線を落とす。
すると、便箋にはもう一枚手紙が入っていることに気が付いた。
「……これは……?」
開いてみると、そこには『追伸』と書かれていた。
「……『姫がどういう訳で別れを告げてきたのかはわからない。けど、一度だけ話をするチャンスが欲しい。一度でいい。もしももう一枚の手紙で書いた、思い出の場所に、誰も来なければ、話すらしたくないってことだと思うから、その時は潔く、諦める。でも、話すチャンスは、欲しい』………………」
私はその手紙をそっとしまい、机にしまう。
捨てたりなんか出来ない。
でも――。
「どうしよ、かな……」
思わず考え込む。
これまでずっと鹿島君との接触は、DOORのやりとりでさえ避けてきた。
それは、逃げていたんだと思う。
だからこれは、ちゃんとお話するチャンスだとは思う。
「………………でも……怖い」
理由や原因は、言葉に出来ない。
一体何がどうなることを私は怖いと言っているのか、自分でもわからない。
ただ、漠然と二人で話すことが、怖い。
いつの間にか、枕に顔を押し付けてうつぶせになっていた。
ゆっくりと体を起こして、何気なくコレクションの棚に目を向ける。
そこに飾ってあった一つの物と、ふと目が合う。
「快頭……爛馬……」
鹿島君との思い出が詰まったそのお面を少しの間眺め、私は――。
「……うん……決めた」
~~~~~~~~
早朝、まだ朝練だって始まる前の学校に私は来ていた。
お面は――被っていない。持ってきてもいない。
快頭爛馬に頼り過ぎたから今までの状況だから、朝少し被って心を落ち着かせてた後、そのまま置いてきた。
そして私は一直線にある場所に向かう。
「………………」
図書室。
そのドアの前に立ち、ゆっくりと深呼吸をした。
「すぅ…………はぁ……」
手紙には、思い出の場所で待ってると書いてあった。
つまり鹿島君は多分、体育館裏で待ってる。それはわかってる。
そしてその場所に私が行かなければ、私と鹿島君との関わりがなくなってしまうのも、わかってる。
でもやっぱり、鹿島君と大事なことを話した場所は――私の、鹿島君との始まりの思い出はこの図書室だから。
――私は決めた……ここで全部断ち切るって。
そしてゆっくりとドアを開いた。
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