49 Hちゃん
あともう少し、Hちゃんの視点が続きます。
あの後、私は風邪をひいてしまった。
原因は走って帰ってきて汗もかいていたのに、そのまま寝落ちてしまったことなんだと思う。
しかも変に長引いちゃって、一週間も休むことになってしまった。
――…………その間、大我くん――鹿島君からのメッセージは、全く開いていない。
もしも届いたメッセージを見てしまえば、鹿島君からの言葉を目にしてしまえば、私はまた鹿島君の優しさに甘えてしまう気がしたから。
「週末にはある程度よくなってたけど、様子見て部活は休んだおかげで、今日は絶好調だね」
――体調は、だけど……。
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「おはよ!」
「おはよう! 姫ちゃんよくなったの!? よかった……よかったね……っ!」
「あはは、小毬ちゃん……難病から生還した人を相手にするみたいなリアクションだね……」
「だって姫ちゃんがそんな長いことお休みするの初めてだったから」
「そうだっけ……そうかも」
思い返すと、割と皆勤賞取ってた気もする。
――今日、小毬ちゃんが妙に何か言いたげにしてるのはそのせいなのかな。
「おー姫、お勤めご苦労様でした!」
難病から返ってきた後は、塀の中から返ってきたみたいな言い方された。
「英玲奈、もしかして喧嘩を販売しているの?」
「ひぇっ……た、ただいま売り切れとなっております……」
「そっか。再販したらすぐに教えて!」
「ごめんなさい!!」
「許します」
全く。英玲奈は相変わらずバカみたいなことするんだから。
――でもなんだろう、今日はバカみたいなことしてるのに、たまに表情が真面目になるね。
「姫、おはよ」
「美琴おはよー! ………………………………」
「え、何?」
「あ、いや、二連続でおかしな出迎えされちゃったから、つい……」
「…………ああ! えっと……」
「ごめんごめん違うの! フリとかじゃないから! 小毬ちゃんは天然で英玲奈は頭可笑しいだけだから!」
「姫っ!?」
後ろで英玲奈の声が聞こえた気がしたけど、今はスルースルー。
「とりあえず、元気になってよかった……でいいの?」
「えっ……も、もちろんだよ! まだ体調悪そうに見える?」
「……………………ううん、体調は……良さそうだね」
「…………うん」
――美琴は、知ってるよね。もちろん。
鹿島君に一番近いところにいるんだから。
でも私も美琴も、そのことには触れなかった。
――どこかで、話さなきゃいけないのはわかってる。
その後は、いつも通りの――本当にいつも通りの時間が流れた。
授業を受けて、四人でご飯食べて、余った時間でゲームとかして、そして放課後になった。
「…………よしっ、体も鈍ってるし。色々調整してかないとね!」
「姫」
「ん、美琴?」
部活に行くのに廊下を歩いているとき、美琴に呼び止められた。
「……えっと……姫、病み上がりなのにこれから部活?」
「うん! 病み上がりって言っても元々金曜日くらいには体調戻ってたから、土日で万全に整えてきたよ!」
「そう…………………………あのさ、その前に少しだけ話があるの」
「……話?」
いやな予感がした。
「……うん……あいつ――大ちゃんのこと」
「っ!! ご、ごめん、その、ギリギリだからもう行かないと――」
美琴の言葉に、反射的にその場を離れようとする声が出てしまった。
本当は自分でも、どこかでちゃんと話そうとは思っていた事なのに。
――本当は、少しずつでも先延ばしにしたいと思っていた事だから。
でも、美琴は必死に私を引き留めた。
「待って! 別に姫から何かを聞きたいわけじゃない! ……ううん、本当は聞きたいけど、それは全部終わった後に聞く…………だから今は、これだけは受け取って」
美琴が取り出したのはシンプルなデザインの便箋――手紙だった。
差出人は、鹿島大我。
「これ、は……」
「本人はげた箱に入れるつもりだったみたいだけど、私が無理言って受け渡し役にしてもらった」
「……え……と……」
「………………とりあえず読むだけはしてあげてほしい。何があったとかは何も聞いていないから、全くわからないけど……読んで、それから判断してあげて……」
「………………う、ん……」
美琴の真剣な顔を見て、少しのためらいの後、手紙を受け取り、部活に向かう。
その日の部活。
私は、部長や式見先生に怒られるまで、がむしゃらに走った。
――そうでもしないと、部活の間ずっと手紙のことを考えていそうだったから…………。
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