48 Hちゃん
「あー……それとさ、も一個聞きたいんだけど……その……全部が全部誰かのために頑張ってるの?」
「……え?」
「部活とか勉強とかさ……誰かが期待するからやってただけ?」
鹿島くんは、少しだけ心配そうな顔をしながら聞いてきた。
でも、言いたいことは分かった。
そうだよね、さっきまでの話だと、私は誰かの為としか言ってないもん。
ちゃんと、自分の為でもあるって言わなきゃね。
「――――ううん、違う。私は……きっかけはどうあれ、走るのが好き……だから私は望んで陸上部に入ったの! 体が弱かったからこそ、走れる喜びが大きかったから……。それに勉強だってそう。最初は外で運動が出来なかったから、家でやる事がなくてやってただけだった……でも、新しい事を知るのが楽しくなってきたんだもん!」
「それはそれは……部活はともかく、勉強でそう思えるのは本当にすごいと思います」
「ふふ、鹿島君は勉強得意じゃないの?」
「ん? まあまあ。でも必要だからやるだけで、好きではないかな。義務義務」
「義務ですか」
「義務ですねぇ……しかもその優先順位は割と低い。小説とか漫画を読む方が大事、絶対」
「個人の感覚をとても大事にしてらっしゃいますね! ……ふふふっ……!」
「……ま、こんな感じのバカ話で笑ったりする方が多分、櫻井さんの周りは喜んでくれるんじゃないかと俺は思うよ」
「え……ぁ…………ふふっ、うん。ほんと、改めて言われるとその通りだ……!」
「……ここは、あれかね? 今の笑顔を見て『君は笑っていた方が可愛いよ』とか漫画みたいなセリフ言うのが正解なのかな?」
「じゃあ私は『え……!? な、ななな! (ぽっ)』って返すのが正解だね!」
「お……なかなかやる……」
「ふっふっふ、そっちこそ……! …………あはは、今までほとんど話したことなかったけど、鹿島君は意外とノリがいいね!」
「気分が乗った時はね。基本は紳士的です」
「うーん……信じましょう!」
「どうもありがとうございます」
この後も、長いようで短い時間、私たちは中身の無いような話を、飽きずにずっとしてしまった。
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「っと、そろそろみんな登校してくる時間みたいだ……本返してこないと」
「あ……」
鹿島君に言われて気が付いたけど、確かに図書室のドアの前から人が通る音が聞こえだしていた。
「とまあ、そろそろ解散ということになるねぇ」
「そう……だね、その…………鹿島君、本当にありがとうね……なんだか少しだけ心が軽くなった気がする……」
「それはたぶん俺は関係ないよ。櫻井さんが自分で背負ってたものを少し下ろしただけ」
「そのきっかけをくれたのは間違いなく鹿島君だよ。……すぐには出来ないかもだけど、誰かの期待を簡単に背負うことはしないようにする。……言われた通り突っ返しちゃうんだから!」
「それがよいかと思われます。…………じゃ、俺は本も返したし、教室に戻るね。じゃあまたいずれ……合同授業とかで?」
「う、うん! またね!!」
そして鹿島君は図書室をあとにする。
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――――――
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「…………ゆ、め…………」
随分とまた……まさかこのタイミングであの時の夢をみるなんて……ほんと、未練しかないや……。
「…………はぁ、泣き崩れてそのまま寝ちゃうなんて、子供みたい…………」
窓の外は暗くなっていて、随分と眠ってしまったことがわかる。
――今……え、十時? なんで誰も起こしてくれなか……ああ、そういえば今日はお母さんもお父さんも遅くなるって言ってた気がする……忘れてたや。
「………………あんまりお腹も減ってないし、シャワーだけ浴びて寝てしまおうかな…………クシュッ!」
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