29 T君
タイムセールに間に合った俺はそそくさと家路につく。
姫には少し申し訳ない事をした思うが。
「………………というか、いつまでもこのままな訳にもいかないよな」
付き合いだしてから今日まで、恋人としての行動の全てが姫からの発信だった。
それはそうだ。
俺は彼女が誰かわかっていないのだから、迂闊に誘う事なんてしてこなかった。
「……でもそれじゃあいずれ愛想尽かされるよなぁ」
全ての予定を彼女に任せている彼氏なんてのも格好がつかない。
そもそも迂闊に傷つけることを恐れて、こちらからアプローチしないなんてのは本末転倒だ。
――色々理屈を並べてはみたものの、本音を言えば……一度デートをしてみたい……!
「……いや、生まれて初めて出来た彼女だぞ。そう思うのは当たり前だろ。なあ、そうだろ? エビ……は寝てる……イカ天! …………無視か!!」
せめて一瞥位してくれてもいいのに。
とはいえ、今まで姫の部活が忙しかったのもあるし、こちらが気遅れしていたのも大きい。
でも部活強化週間は終わった。
気遅れしている場合ではないのだ。
「という訳でっと」
大鹿:姫、今大丈夫?
SIHK:あ、うん! 大丈夫だよ!
大鹿:突然……というか、あれなんだけど……今週の日曜、二人でどこか出かけないか?
SIHK:へ……? そ、それって
大鹿:えー、はい。デートに誘っております。
SIHK:ぜぅたいいきちお!!
大鹿:え、なんて?
SIHK:……ごめんなさい、絶対行きたい、です
SIHK:嬉しすぎて凄く誤字った……
大鹿:そりゃ嬉しい報告ありがとう
大鹿:予定とか大丈夫? 部活とか……
SIHK:大丈夫! 今週はキッチリ休むよう言われてるから!
SIHK:楽しみだなぁ……!
大鹿:何だかんだで初デートだからね
大鹿:って書いてて照れてきた
SIHK:うん! えっと場所は……
大鹿:付き合ってることを隠してるなら、少し離れたところの方がいいよね
大鹿:中心部待ち合わせにする? 人が多ければ発見されるリスクも減るし
SIHK:あ! じゃあ大通りの公園がいいな! 日曜日は天気がいいみたいだしピクニックしたい!!
大鹿:ピクニック……小学校の遠足行事以来だ
SIHK:だったらより楽しみじゃない!? おべんと作ってくね!
大鹿:それは……なんて楽しみなんだ……!
SIHK:それじゃ十一時に大通りの公園の……目立つのは時計のモニュメントのとこかな!
大鹿:あーあのへんな奴
SIHK:そう! あのへんなの! そこで待ち合わせね!
大鹿:りょーかい
大鹿:じゃ、また学校で
SIHK:うん! 学校で! 日曜に楽しみにしてる!!
――…………………………。
「ふぅ……おおおおお緊張した……」
ただ出掛ける用を伝えただけなのに、こんな緊張するとは思わなかった。
とりあえずデートの約束は取り付けた。
問題はどう接触するかだ。
とはいえ、考えはある。
まあ、前に校門前でやった作戦をもう一度やるつもりなんだけど。
「相当早くに待ち合わせ場所で待っていて、来たのに気付くのが遅れて、声をかけてもらう。……校門の時は何故かお面になったので失敗したけど、今回は大丈夫のはずだ」
――……大丈夫だよね?
「……というか、あれ……? 俺から誘ってたのに、途中から予定の組み立ての主導権取られてたな……まあ、姫が楽しそうならいいか」
感想お待ちしてまう!!




