23 Hちゃん
「それは……………………ごめん、出来ない」
「え……?」
私の頼みはきっぱりと断られた。
「ど、どうして……?」
そう言うと美琴は、私の目を見つめながら静かに話し出す。
「…………ずっと言えなかったんだけど、多分、私、幼馴染と友達が恋人同士になる事、まだちゃんと気持ちの整理がついてない。……姫は友達だし応援したい気持ちもあるけど、二人が一緒にいるのを見ると……ざわつく…………ごめん、多分、これが英玲奈の言ってた――醜い嫉妬、なんだと思う」
「美琴……」
「ほんとは、気持ちに整理付けて応援しようと思ってた。……でも二人が一緒に帰ってるのを見たとき、私、どこか落ち着かなくて……だからおすそ分けにかこつけて、あいつの……大ちゃんの家に行って話を直接聞いたの」
「……………………」
「付き合ってるって言われた。私の中で何かが胸を締め付けてる気がした。でも、大ちゃんにはそれを隠して、応援してるフリをした。これは気持ちの整理をつけるチャンスだって自分に言い聞かせて…………でも出来なかった! この一週間モヤモヤしっぱなしだったし、今も姫の頼みを聞いて、すぐに嫌だなって思ってしまった! 本当はさっき、少しだけ、気持ちを隠して手伝いをしようとかズルいこと考えた……でも、それはなんか違うと思った。……だから、ごめん、こんな状態で姫の応援は出来ない」
目を見ていたはずの美琴は、いつの間にかつらそうに下を向きながら話していた。
美琴の気持ちは分かった。
でもまだ――一番大事なことをまだ聞いてない。
「………………美琴、まだちゃんと聞けてない事があるから、一つだけ教えてほしい」
「……何?」
「美琴は、大我くん――鹿島大我くんの事、好きなの?」
「………………………………わからない」
「……」
「わからないよ。少なくとも小さい頃、一緒に遊んでた子供の頃は好きだった。その好きって気持ちは今も変わらない。でも、この『好き』が私にとってどんな意味を持ってるのか、私自身わかってないの」
「……そっか……」
少しの間、空き教室に沈黙が続く。
だから私のすべきこと――言うべきことは一つだ。
「じゃあ、美琴のその気持ちがはっきりするまで、私が一歩リードだからね!」
「…………え?」
「私は自分の気持ちを自覚してたし、心臓が爆発しそうになるくらい緊張しながら告白もした。それで大我くんとお付き合いさせてもらってる。だから悩んでる美琴より一歩リード! ……でも、もし美琴が自分の気持ちを理解したとき、本当に大我くんのことが好きだってなったら、私は気持ちを伝えることを止める事なんてしない」
「私の事を待っててくれるってこと……? なんで……? さっき言ってた嫉妬が嫌だから……?」
「どっちもちょっと違うかな。もちろん止めたい気持ちはあるし、もしかしたら美琴以外だったら必死で止めてたかも。……あ、これって醜い嫉妬、かな……?」
「じゃあなんで……」
「だってそれじゃあ、美琴に認めてもらえなくなる」
「認める……?」
「美琴が私を大事な友達って思ってくれてるのと同じように、私も美琴を大事な友達だと思ってる。だからこそ、美琴にはちゃんと応援してもらえるようになりたい」
今度は私が美琴の目をジッと見つめて言う。
「…………気持ちを自覚して、本当に大ちゃんを好きってなったら、今度こそ絶対に姫を応援出来なくなってるかもしれないよ……?」
「かもしれないね……。でも、私……負けないから」
「え……?」
「たとえ美琴が大我くんを好きになっても、美琴がかなわないな、応援するしかないなって思っちゃうくらいお似合いの恋人になるから!」
そう、胸を張った私の宣言に、美琴はぽかんとした表情を見せ、吹き出した。
「…………ふ、ふふ……なにそれ……要するにあきらめて応援するしかないくらいオーバーキルするってこと? ひどっ」
「それが美琴に認めてもらう最適解です!」
「えー……やっぱりひどいな……ふふっ」
「そもそも今リードしてるんだもん! 間違いなく強敵である相手でも、自分の気持ちを自覚した時は手遅れなくらい、もっともっと大我くんを私のトリコにしちゃうから!」
「あははは……はぁ……姫……ありがとう……」
「お礼を言われることではありません!」
「あはは、確かにそうだね…………じゃあ、私もちゃんと自分の気持ちに整理つけて、状況に応じて姫に挑むとしますかー! ……? でも、強敵って?」
「美琴の事だけど!? スタイル良くて綺麗でしかも幼馴染属性で家も近い! そのうえ家族のお付き合いもあるなんて普通なら太刀打ちできないんだから!」
「ああ……スタイルとかきれいとかは置いといて、確かに言われてみれば……。でも創作物ならその設定は負けヒロイン確定だから……」
「今の私にはリアルに脅威です!!」
ストック尽きかけてるの気づくの遅れたので、次の更新は少しだけ遅れます。
まあ……大丈夫ですか……。
感想、お待ちしております。




