22 Hちゃん
「はい。というわけでお昼休みですが、今日は英玲奈が別な子にお呼ばれしたのでいないのと、小毬ちゃんが秘密の集まりがあるとかで、私と美琴だけになります」
お昼休み、クラスを出ようとした美琴を捕獲していつもの空き教室へ。
「いや、知ってるけど……あれだったら別に他の友達と食べてきてもいいよ? 私も久々に別クラスの友達のところ行こうかなって思ってたし……後、小毬ちゃんの集まりって多分帰宅部だよね」
「小毬ちゃんの集まりに関しては触れない方がいい気がしてるので触れません。それと別クラスに行こうとしてたところを呼び止めてごめんなさいでした」
「かまわないけど……な、なに? しかもさっきからその敬語とか……」
「いや、割と有無を言わさず連れてきちゃったから……コホン! その、ちょっと大我くんのことで美琴に相談が」
「私に?」
「うん。実は今朝の事なんだけど。……ほわんほわんほわんほわわわぁぁぁん」
「ごめんちょっと待って」
「あ、今のはね? こう、回想シーンとかでよくあるモクモク! ってやつが徐々に大きくなっていく様を表現してて」
「説明大丈夫。テンション大丈夫?」
「大丈夫だ! 問題ない!」
「あ、だめだ今日ほんとどうしたの……? ……んー……とりあえず、続けて?」
「うん。でね? ――――」
今日の朝、朝練を終えてヘトヘトで教室に向かう途中、何気なく大我くんの教室を覗いたら、仲よさげに友達と話す大我くんの姿があって。
――そうか確か大我くんは学校から早く帰るけど学校に来るの早かったんだっけ。
であれば、一緒に帰るのは難しくても、一緒に登校することは出来たかもしれない。部活もあるし。
この一週間全然気づかなかった。
「それにしても……むむむむ」
大我くんと仲よさげに話していた女の子が少しだけ気になってしまう。
「む、むむむ……」
そして今は何やら村木君と顔を近づけてコソコソ話をしているみたい。
「ううぅ………………羨ましいぃ」
私も一緒のクラスが良かった。
皆と一緒のクラスも楽しいけど、休み時間に気軽に話せる仲なら、付き合っていることを隠すのももっと楽だったかもしれないのに。
あまり見つめすぎるのはよくないと思い、すぐに自分のクラスに向かう。
それにしても――。
「私は意外と嫉妬深いのかなぁ……なんか自分が嫌な子になったみたい……」
今までそんな自覚はなかったけど、確か前に帰宅部女子内で鹿島くんの評判がいいって話は気にかかって仕方なかったし。
「うーん…………まー、嫉妬云々は確かに否定できないけど、自分の好きな人に近づいた相手を見て、近づかないでほしいと思うのと羨ましいと思うのとは、同じ嫉妬でもなんか違う気がするぬぇー」
「ぅでゅぇらぁうぁッ!?」
真後ろから聞こえた声に驚き、変な声を出して飛び上がってしまった。
「ぷふふ、なんて珍奇な声」
そんな私を見てニッコニコなのは英玲奈だった。
私はそんな英玲奈に対して真顔。
「英玲奈……やめて? 本当に」
「あ、ごめ」
何が言いたいかは察してくれたようです。
心底驚いたんだから。
冗談抜きに心臓止まるかと思ったんだから。
「いやぁ、ちょうどスタイルのよい後ろ姿が見えてつい……ま、たまにしかやらないから許してちょ」
「椰木英玲奈さん」
「え、なんでフルネーム……いえ、もう驚かすようなことはしません、はい」
まったくもう。
「それで、嫉妬が違う、だっけ? どういうこと?」
「んー? 好きな男の子がいて、その人に近づく他の女の子に対して、いやだなーって思うのと、いいなーって思うのって、どっちも嫉妬ではあるけど結構違うと思うんだよね」
「そうかな……私としてはやっぱりどっちも嫉妬であることは変わらないし、なんか……」
「そう? 私はかわいい嫉妬と醜い嫉妬はやっぱりあると思うし、姫のは多分かわいい嫉妬だと思うよ」
「うーん…………わかったようなわからなかったような……」
「ま、色々とみーこあたりに聞いてみるといいさ! ではさらば!」
「逃げた。絶対私の話面倒くさくなって逃げた」
「――デュバッ! という事があったの」
「………………もしかして今のは、回想のモクモクが消えた音? 誰かに回想かき消された感じ?」
「もう。そんなのはどうでもいいの」
「嘘でしょ……自分で始めたのに……」
「逃げた英玲奈は美琴に相談してみるといいって言ってたので、ちょっとついてきてもらった形になります」
「無視して話を進められた……姫はツッコミの時とボケの時のテンションの差が激しい」
「……あと……その、美琴は、私と大我くんがお付き合いしてるのを知ってる訳だし……」
私がそう言うと、これまでずっとツッコミを入れていた美琴が、少しだけ気まずそうな顔をする。
――やっぱり友達の恋愛話は気恥ずかしい、かな?
「い、いいけどさ……その、結局どんな相談なの? さっきの話……回想だと嫉妬うんぬんの話だったけど…………というかその流れで私に話をぶん投げたあいつは後でしっぺする」
――うん、私が美琴の立場でも多分英玲奈をデコピンするから、美琴は正しい。
「えと、端的に言うとね? その……もっと大我くんと仲良くなりたいの!」
「ん? んー……まあ、さっきの話の流れから外れてはいない、のかな」
「私が嫉妬しちゃったのは、たぶんまだ全然仲良し度が足りてないからだと思って! だからもっと仲良くしたくて」
「ああ、それで……うん…………あー、でもほら、前も言ったけど、私とあいつはだいぶ疎遠で」
「でもこの前おすそ分けに行ったんでしょ?」
私の言葉に言葉を詰まらせる美琴。
「そう、なんだけど……」
「? えと、ごめん……私が一方的にお願いしておいてなんだけど、もしかして何か……あった? 何かまずいこととか言っちゃったかな……私……」
「いや、なんと言うか…………うん、やっぱり、このままって……ダメだよね」
「え、なんか自己解決した……? あ、相談に乗ってくれるの!?」
美琴は目をつむりゆっくり考えて――。
「それは……………………ごめん、出来ない」




