21 Kちゃん
「や、毬ちゃんおはよう」
朝、一時間目の準備をしていると、私を呼ぶ声がしたので、ふとそちらに目を向ける。
――……幻覚と幻聴? つかれてるのかな?
「…………………………」
「え、無視? 毬ちゃん?」
また幻聴が聞こえたので、またそちらを見る。
――やっぱり幻覚も見えて……あれ? もしかして、あれ?
「………………? ………………ッ!? 英玲奈ちゃんッ!?」
「え、そんなに? ねえそんなに? 今昔死んだはずの友達が何食わぬ顔で挨拶してきたぐらいの表情だったんだけど」
「え、だって…………まだチャイムの三十分以上前だよ? 今日は登校が異常に早くない? 異常に……異常に」
「異常を三回言ってまで強調することってある? 別にいっつも遅いわけじゃないでしょ?」
私の驚愕もなんのその。
英玲奈ちゃんはニコニコと笑ってる。
なので少し質問タイムです。
「…………昨日はいつ登校した?」
「チャイム五分前」
「一昨日は?」
「チャイム三分前」
「その前は?」
「十分遅刻」
「……先週は?」
「ご存じのとおり、まさかの全ての曜日チャイムと同時!」
「……………………」
「……………………」
「英玲奈ちゃん。嘘はダメだと思うの」
「いやぁ、ママンの策略で家の時計が全部三十分ずらしてあってさー。まさか寝てる間に携帯の時刻までずらされるなんて思わないじゃん?」
「最初からそれ言えばよかったよね? 何だったの今の無駄な時間。同じクラスだから英玲奈ちゃんがいつも遅いの当然知ってるんだから。後、英玲奈ちゃんのお母さん英断」
「ふくく、確かに今日の我がママンは策士だったぁ」
「もしかして私が気付かなかっただけで、話の前半部分で近くをバニラトラックとか通った?」
「でも、姫はなんか恋してるって感じ!」
「私の言葉は届かない」
もはやツッコミに耳を傾けることなく何か新しい話を始めてしまった。
「まあいいや。それで姫香ちゃんがどうしたの?」
「いや、前に比べて目に見えて恋してる感じを出してるって思ってさー。前はそんな感じ全然なかったのに。……ここ一週間はなんか空元気っぽいけど」
「え、そう? 姫香ちゃん結構わかりやすかったと思ってたけど。あと今週は陸上部の強化期間だったみたいだからそれじゃない?」
「あそっか……って、えぇっ!? ……毬ちゃん姫が誰かに恋してること気付いてたの……!?」
「さすがに誰にかまでは分からなかったけどね」
ちゃんと隠しているようだったけど、時々ソワソワした態度も取ってたし、たまに妙に機嫌が良かったりしたから、もしかして近くを好きな人が通ったのかな、とかは思っていた。
今思い返すと、隣のクラスとの合同授業の日とかは特に機嫌が良かった気もする。
「多分今、姫ちゃんが前に進もうとしてる感じかな……英玲奈ちゃん、今回ばかりはほんとに邪魔しちゃダメだからね!!」
「……………………」
「? 英玲奈ちゃん?」
「驚いた……毬ちゃんって意外と落ち着いて周りを見れてるんだね……」
「……英玲奈ちゃん。それは、いったい、どういう、いみ、かな?」
「え、あ! な、何でもないですごめんなさい!!」
「全く……! ……でも真面目な話、余計なちょっかいでかき乱しちゃダメだよ?」
「流石にわかってるって。……でも、ちょっと気にかけてあげないと変にこじれちゃいそうな感じもするんだよねぇ……」
英玲奈ちゃんの含みのある言い方に、私も頭に浮かんだ人がいた。
「……美琴ちゃんの事?」
「ああ、みーこの方も気づいてたの?」
「まあ、美琴ちゃんの方は最近……だって美琴ちゃん、全然そんなそぶり見せなかったから」
「……姫の話を聞くまでは完全に隠してたもんね」
そう、今思えば最初に姫香ちゃんがエースさんの話をし出した時から、美琴ちゃんはおかしかった。
あの時は昔の話を引っ張り出されて、動揺してるとしか思ってなかったけど、その後からエースさんの話をするたび動揺してた。
「……まあ、今の所は放っておくしかないと思うよ? どうあがいても私達は部外者なんだから」
「うん……わかってる。流石に今は見守る事しかできないよ……」




