20 T君
まあ、とりあえず別段疑われたりはしていなかったようで一安心か。
と一息ついていると、どうやら今度は本当に後続の登校者が現れたようだ。
「およよ? 鹿島は今日も早いねぇ」
「おっと、生島さんおはよ。そっちこそ、今日はいつもより少し早いじゃない?」
元々生島さんは早めに登校するほうではあったので刺して驚きもないが。
「うんおはよ。今日は何となくね。たまには一番になってみようかと思ったけど、だめだったかー」
「ふふふふ、そう簡単には譲りませんよ? なんて」
などと軽口を言い合っていると、何かを思い出したのか生島さんが勢いよく近づいてきた。
「ねえねえカシカシ?」
「急なあだ名。今までカシカシなんて呼んでなかったよね? それもついさっきまで」
さっき普通に呼んでたでしょ。
しかもカシカシってこの世に生を受けて初めて呼ばれたわ。
苗字をもじるならせいぜいカッシーくらいだ。
「そんなことより、カシカシが昨日帰るとき一緒にいた子、私気になるんだ」
もしかしてカシカシ固定で話進めていくつもりなんだろうか。
――それはそれとして、さっきの先生といい、結構注目されてたんだなぁ……当たり前か。
「……気になるとは」
「…………あのお面どこで売ってるのぉ!? すごく欲しい!!」
――あそっち? 生島さんもそっち?
「えー……申し訳ないけど詳しくはわかんないかな。ただまあ、なんでも結構入手困難なレアものらしいけど」
偶然が重なってさっき先生から聞いた話が役に立った。
「そっかぁ……じゃあ、あの子誰なの?」
「通常そっち先に聞くと思うんだ?」
「私は自分が興味のあることに一直線のタイプなの。それこそ何かの作業中だったとしても中断してでも向かうのよー」
「動きに迷いがなさすぎる。なんか訓練でも受けてる?」
「即判断即決断。私の座右の銘さ!」
「初めて聞いた」
「今決めたからね」
座右の銘ってそんな感じに決める物だっただろうか。
まあ、いいか。
「では話を戻そうじゃないのー。あの子は……何?」
でもここから離脱は出来なさそう。
「いやてかそれより言い方、さっきと質問が変わってるって。いきなり、あの子は何、はさすがにさ」
「あー、その……そうは思うんだけど…………ついさー」
――まあ、言いたいことは分かる。だからこそいろんな人から聞かれるわけだが。
とはいえここで簡単に彼女の正体を語ることは出来ない。
何故なら知らないから。
なのでどう返したものかと逡巡していると、また一人登校してきたようだ。
「あー……やはり間に合わなかったか」
「あ、村木おはよう」
「はよー」
「で、何話してたんだ? 何か珍しい感じすっけど」
そう言いながら村木もこの輪に加わる。
どう説明したものかと思ったが、ちょっと面倒くさくなってしまったので、ざっくりした説明を。
「俺と昨日一緒に帰っていた女子の事なんだけどさ」
「私はその子の事が気になるわけぇ」
「鹿島が女子と…………って……! ふーん? ど、どんな女子?」
とはいえ、ざっくりした説明でも、事前に彼女が出来たことを伝えていた村木には察することが出来たようで、冷静を装いながら探り出した。
あんまり冷静は装えていないように見えたが。
「どんなって……」
「ねぇ……」
「「馬?」」
「馬!?」
村木の顔が驚愕に彩られる。
確かにどんな人間か聞いたら別の生物出てきたらそうなるかな。
「どゆこと!? 俺はどんな女子か聞いたよね!? …………もしや、顔が馬っぽいってこと!?」
「いや、ぽいって言うかそのものと言うか」
「そのもの!? え、何!? からかってるの!?」
「村木、言いがかりはよくないよ。鹿島、ほんとのこと言ってる」
「だとするならより困惑するんだけど!!」
村木が心からの叫びを口にしたところで、思わず苦笑いしちゃう。
「ちょ、笑ってないでせつ「あの子誰なのー?」……生島さん、俺のセリフとかぶってるんだけど」
かわいそうだけどとりあえず村木はスルー。
「それは言えないって生島さん。何のために顔隠してると思ってんのさ」
――……そもそも俺も知らないけど。
後、村木はスルーされてちょっとしょんぼりしてしまった。
ごめんね。
「えー…………じゃあさじゃあさ! 鹿島との関係は? 即帰宅を信条としている鹿島が誰かと一緒に帰ることは結構な事件だよー。もー、わたしというものがありながらー」
――てか事件て、盛り過ぎでしょうが。後そんなものを信条にした覚えはない。
それと最後、急に何キャラなの。自分でめっちゃ笑ってるし。
とはいえ、答えは決まってる。
「友達だよ。向こうは部活やってるし、俺は俺ですぐ帰るからたまには一緒に帰ろう見たいな話になっただけ」
一応、姫の事を考えると、付き合っているとかは言わない方がいいのだろう。
なので、下手に付き合っていることは言わず、友達で済ませておく。
――……ん、まあ、バレちゃ不味いのは姫が交際してることであって、俺とお面の女子が付き合ってることは言ってもいい気はするけどさ……。
とはいえ、お面の中が姫だとバレない限りって条件が付く以上、隠しておくのが無難だろう。
俺の答えを聞いた生島さんは「お友達ね! じゃあそのお友達からお面の情報仕入れといて! ちょっと別のクラス行ってくる!」といい、颯爽と教室を飛び出していった。
――自由すぎない? いや、いいんだけども。
落ち着いたところでチラリと、村木の方を見る。
どうやら、最初こそどんな子と一緒にいたのか気にしていたみたいだが、俺が隠そうとしているのをなんとなく察していたみたいで、余計な口を挟まず黙っていてくれた。
そもそも彼女が出来た事も、前に頼んだ通り、今まで黙っていてくれてたみたいだし。
何と言うか、ありがたい限りである。
そして今も、小声で話し始めた。
「えっと、今の話って……前に言ってた?」
「うん、彼女。で、一応向こうの都合もあるから今まで通り黙っててほしいんだけど」
「お、おお……それは構わんが…………で結局誰も教えてくれなかったけど……………………馬ってなんなの?」
まあそうなるよね。




