17 T君
というか思わず出た子供の頃の呼び名はスルーされた。
でも確かに、おすそ分けを持ってきてから気が付けばかなりの時間が経っていた。
美琴の家でも晩御飯の時間であろう。
特に引き止める理由もないので玄関まで見送る。
「あ、そういえば、何で俺と帰ってるのが姫だってわかったんだ? 今日の帰り見たってことはお面被ってたじゃん」
と、玄関で靴を履いている美琴に、ふと思い出したことを尋ねる。
すると、軽くジト目で言い返されてしまった。
「や、むしろお面被ることに何のためらいもない人物、私一人しか知らない」
「そ、そう……」
どうやら姫のお面被りは、友達の間では通常らしい。
「まさか授業中とか被んないよね……?」
「いや流石にないわ……休み時間にたまに、くらい」
――そうか、休み時間には被るのか。
「……まあ、帰るけど、今日は楽しかった。久しぶりに、話…………エビちゃんイカちゃんに会えて」
「おう。また普通に会いに来てもいいからな。何度も来てればそのうちイカ天も慣れてくるだろうし」
「~~~~っ! ……なんでそんなこと言うの……」
「おう?」
「彼女がいるのに他の女を家に入れたりするのはよくないって言ってんの! ちゃんと考えて!」
「あー……そうか、そういうもんか……ありがとう。こう、付き合ったりとかいうの初めてで、その感覚はなかったわ……」
「………………じゃあ」
「うぃ。また学校でな、みこ……みこちゃん」
普通に名前で呼ぼうとしたが、先程スルーされたことのリベンジも兼ねて、ニッコリ笑って昔の呼び名で挨拶してみた。
また怒られるかもしれないとは思いつつも、これは子供の頃の呼び名だからセーフだろうと勝手に判断。
今俺は、久しぶりに長く幼馴染と話したことで、子供の頃の気分になっているのだろう。
正直、悪戯心全開で言った。
「…………うん……………………またね、大ちゃん」
そのあだ名で呼ぶな、と怒られることを覚悟してたが、返ってきたのは俺としても懐かしい呼び名だった。
そして美琴はそのまま足早に去っていった。
「おお……懐かしい……懐かしいぞ、今の感じ……」
結局、姫の正体を探ることは出来なかったが、今日は得るものが大きかった気がする。
実際、姫が、美琴の友達であるのなら、今後も姫の情報を得る機会はあるだろう。
――しかし、さっきのあれは……ラッキースケベに入るのだろうか……状況的には押し倒されたみたいだけど、事実上足蹴られただけで一切、美琴の体に触れてないわけだが……。
「…………まあ、変な空気にはならなかったし大丈夫かいっでぇっ!!」
玄関でそんなことを考えていると、走ってきたイカ天に足を噛まれた。
――え、なに? 怒ってんの? よく知らない人家に入れたから怒ってんの?




