14 Mちゃん
放課後、チャイムと同時に帰る準備を済ませる。
いつもなら誰か彼かと話しながらのんびり準備するのだけれど、今日はどうにも誰とも話したくない気分だった。
私の頭に浮かぶのは昼休みの出来事。
『んむ、意外と素直……ねぇみーこ…………貴女は本当にそれでいいの?』
いつもふざけたことを言ったりからかったりする英玲奈があの最後の言葉だけは私を気遣うように、本気の声色で言っていた。
それに対して私は一言、うるさい、としか言えなかった。
それ以外の言葉を言える気がしなかった。
多分私自身その時勝手に動揺してたからなおさらだろう。
あの子が――姫が、あいつを好きだと言って、その理由を話し出した。
と言っても話したのはほんのキッカケの部分だけだと思う。
あの言い方から察するに、姫はあいつを好きになった理由はちゃんと他にある。
照れて言いたくなくなる気持ちもわかる。
でも、突発的に思ってしまった。
思わず口にしてしまいそうだった。
『あのさ……それなら……別にあいつじゃなくてもよくない……?』
姫は単純にあいつを気になりだしたキッカケを話してくれただけなのに、私はどこかで「その程度の理由で」と思ってしまったのだ。
慌てて言おうとした言葉を飲み込んで別の事を尋ねた。
――私、バカみたいだ。
友達の好きな人を聞いて勝手に動揺して、勝手に対抗心を抱いて。
そもそもあいつと距離を置きだしたのも私からだと言うのに。
小さい頃はいつも一緒に遊んでた。
私はこのまま大きくなっても、幼馴染として一緒に遊んでいけると思ってた。
でも高学年になろうかというときに友達の女の子が、仲のいい男の子と二人で一緒に帰ったことがあった。
その時は仲良く話して、楽しい帰り道だったと言っていた。
けれど次の日学校に行くと、その子と男の子が一緒に帰っていたのを見た他の男子がその子をすごく茶化しているのに出くわした。
そして茶化された男の子は、その子が後ろにいるのに気付かずに、
「うるさい! あんなのと別に仲良くない! 友達でもなんでもない!」
そう大声で言い放った。
その子はその場で声も出せずに泣き出してしまった。
今思えば、男の子も茶化した男子たちも思春期特有の反応だったのかなと、頭では分かっている。
ただ当時は、一緒にいるだけでそんな風に言われるのかと、子供ながらに恐ろしくなった。
もしかしたらあいつも、あの男の子と同じようなことを言って、私を拒絶するかもしれない。
そう考え始めたときから、私はあいつと距離を取り始めた。
怖かったんだ。
あいつから嫌われることが。
幼い私はそれが嫌で、嫌われるくらいなら近くにいない方がいいなんて馬鹿なことを考えた。
そしてそのまま、離れた距離は近づくことなく今に至っている。
本当は、今でも仲良くしていたかったと思ってる。
お母さんも、それをわかっているからなのか、懲りずにあいつの話を私にしてくる。
でも私自身が、今さらどうするのかと、仲良くすることをあきらめていた。
「……そのはずだったのに、姫の話で動揺するとか……ほんとバカ……」
ぼそりと呟き、かなり早めに学校を出ると、私の目に見たことのある姿が映った。
「……馬?」
あれは確か姫が自慢げに持っていた馬のお面。
どうしてまた被って帰るんだろうか。
そのまま尋ねようと少し近づくと、お面をかぶった姫の隣に、誰かがいるのに気が付いた。
「大、ちゃん?」
そこにいたのは、先程まで私の頭の中に居続けた、幼馴染だった。




