13 Hちゃん
「あ、あー……! そっか……お面被ってたから目立ってたんだ……」
――そっか、そうだよねそうだよね! お面被ってたら顔なんて見えないよね! それなのに可愛いからとか陸上で注目浴びたからとか、自意識過剰な見当違いな事考えてたわけで……。
「……わー、恥ずかし……」
羞恥心で顔から火が出そうなくらい熱い。
鏡見なくても分かる、今顔真っ赤。
お面の中があっつあつだもの。
あーあー冷却ファンが作動し出した。
「えっとー」
――はっ!
「ご、ごめんなさい! なんか変な勘違いしちゃって……! それでその、このお面は……その色々と別の恥ずかしい点が……」
とりあえず鹿島くんにお面をかぶってきた理由を説明しようとして、少し詰まる。
理由としては、ものすごく緊張してたから告白した時を思い出して、気合を入れるために被ってきたんだけど――これって説明するの恥ずかしくないかな? 一緒に帰る為だけに気合入れてって。
「? また急いできたとか?」
――な、何か別なこと言わないと……!
「そうじゃないんです! その……帰る前に鏡を見たら、私の顔…………鹿島くんと一緒に帰るってこと考えるだけで、ニヤケ顔が収まらなくて……あの顔はちょっと見せられないな……って」
――……これはこれで違う意味で恥ずかしいこと言った……ッ!! いや、これも理由の一つなのは確かだけど!
「え、それだけ? 全然気にしなくていい……というかむしろ俺なんかと一緒に帰るだけでそんな喜んでもらえるとかこっちがニヤケ顔になりそうなんだけど」
その言葉に再びお面の中の温度が上昇する。
――なんでサラッとそんなこと言えるんですか!!
これ以上温度が上がったらまた快頭爛馬の冷却ファンが作動してしまう。
慌てて落ち着くように鹿島くんから目を逸らして会話を続ける。
「そんな嬉しい事言わないでください! それとほんとに見せられないの!」
――今は特に!!
「ええ? 俺としてはそのお面を取って、ちゃんと顔を見せてほしいけど」
なおも食い下がってくる鹿島くん。
私を照れ殺しにするつもりですか。
「ダメですぅ。今日は帰るまでこれを外しません!」
「そうか……」
言い切ると、本当に残念そうな顔をする鹿島くん。
――………………はっ、まずいこのままだと絆される!
慌てて話題を変え、鹿島くんの家の話へ。
その会話の流れで、私の話し方の事に。
「敬語。告白してくれたときは普通に話してたのに、付き合うってなった後から急に敬語になったのは何かあるの? 敬語で話してる時もちょこちょこタメ語が出てくることがあったから、多分いつもは敬語じゃないんでしょ?」
「……言われてみれば意識してなかったです。なんだろう……」
私の中で彼女になったら敬語で話すって自然になっていた。
何かの映画とかに影響されたのだろう。
と、原因を考察していると、鹿島くんは照れ笑い気味に口を開いた。
「俺としては普通に話してくれる方が嬉しいから、敬語はとってもいいと思うけど」
「そっか……わかり――った!」
――変な言い方になった! 恥ずかしい!
「わかりった」
――真似っこ!?
「もう!」
照れ隠しに怒ったふりをしてみたところで、ふと昨日のアプリの事を思い出した。
「……もしかして昨日DOORで言ってた聞きたいことって今の?」
「え? ……あー……いや、別」
私が尋ねると鹿島くんは妙に言いよどんで困った顔をしていた。
なんだろうと待っていると、少し予想していなかったことを言われた。
「……そう、呼び方……呼び方! ずっと君を何て呼ぼうか考えてた。せっかくだし希望を聞きたくて!」
「よ、呼び方!? そ、そんなの鹿島くんの好きに呼んでいいよ!」
思っていたのと全然違う質問に少しホッとしつつ、素直に返す私。
しかし鹿島くんより盛大なカウンターを食らいます。
「いーや。ここは本人の希望でいきますとも。ちなみに俺は苗字より名前で呼んでほしいなぁ。あだ名でも可」
「なまえっ!? あだな!?」
――ええ!? 鹿島くんが名前で呼んでほしいって言うならそれはその、照れくさいけどやぶさかではない私ですが……でもあだ名も捨てがたい。大ちゃんは美琴とかぶっちゃうから別な呼び方をしたいし……と言うか私の呼ばれ方!
普通に名前で呼ばれたい気もするけど、あだ名で呼び合うのも結構好きかもしれない。
「うぅ……じゃあ私は――――姫、で!」
「ひ、姫……?」
「はい! それでその、私の方は大我くんと呼ばせて頂きたく存じ上げまして……」
「奇妙な敬語になってるけど……俺は姫って呼んで、俺は大我くんと呼ばれると」
「お、お嫌でございましょうか……?」
「へ? まさか! ちょっと予想外だっただけで……」
「予想外?」
「何でもない何でもない。……こほん、では改めて、これからよろしくお願いいたします。我が姫様?」
「ちょ、普通に呼んでよぅ……かし……た、大我くん」
「くく、姫も普通に呼んでね? かした大我くんじゃなくて」
――また真似っこ!
「うぅー! ……大我くんは意外とイジワルだね!」
「ん……イメージと違って嫌いになった?」
「それは絶対にない!! ……そのイジワルは嫌いかな」
「ごめん」
「許します!」
「……ふくく……」
「……ふふ」
何となく笑いがこみあげてきて、気が付けば二人で笑っていた。
その後はそのまま談笑しながら帰りました。
幸せすぎてしにそう。




