12 Hちゃん
「どうしよう……」
昨日DOORでかなり気軽に一緒に帰ろうと誘ってしまったが、放課後が近づくにつれ、どんどん照れと緊張でドキドキが止まらなくなっていた。
後、ニヤニヤも止まらなくなっていた。
一応手で口元を押えながら落ち着こうと努力してます。
ただ、短距離走で最速記録を出した時よりも大きい息切れに、私は非常に戸惑う。
「へんだなぁ……私ってもうちょっとテンション高く突き進むタイプだと思ってたんだけど……」
今までも緊張はあった。
レースの直前や学校の発表なんかもそう。
でもそんなの比にならないくらい緊張していた。
「うぅ……このままじゃ妙に強張ったニヤケ顔のまま一緒に帰ることになってしまう……」
何か打開策を考えなければいけない。
あの告白の時のように。
「告白…………」
そうだ、少なくとも告白の時は自分でもよくわからないほど前向きにいけた。
「…………だったら」
私は思い至った。
あのときにあって今はないもの。
それは――。
「快頭爛馬……!」
この最新型高性能お面は私に勇気をくれたんだ。
私は覚悟を決めた。
「鹿島くん! お待たせ、しました!」
小走りで校門へ向かったのは、既に鹿島くんが校門前にいるのが見えたから。
さすが帰宅部のエースと呼ばれているだけあって、色々と速かった。
お待たせした鹿島くんもそんな待ってなかったみたいで、少し安心しながら歩き出した。
少し歩いたところでふと気づく。
――………………やっぱり、見られてるなぁ。
案の定と言うべきか、やはり視線を感じる。
昔からよく注目される方だった。
中学の時、そのことを友達に相談したら「櫻井さんは可愛いから」と返ってきた。
一応、人並みには可愛くありたいと考えていたし、色々気を使っていたが、正直その当時は「そんなものなのかな?」と軽く考えていた。
でも高校に入って少し注目されることが増えた。
多分だけど、最近は陸上部で成績を出して、妙に注目度が上がってしまったからだと自分では思っている。
そのせいなのか、私が特定の男子と話していたりすると、たまに視線を感じたりコソコソと何かを話しているのに気付いていた。
誰だってそんな目で見られればいい気分ではない。
私はもう少し慣れてしまったけれど、鹿島くんはそうじゃないかもしれない。
それが原因で私から離れてしまうかもしれない。
そんな嫌な考えが、私の頭をよぎる。
なんだかいつもより多い気がする視線の数と、何かを言われている感じに私の不安が増す。
ちらりと鹿島くんを見ると、やっぱり何か言われていることを気にしてるのがわかった。
たまらず私は視線についての話題を口にする。
本当はそんなことじゃなくてもっといっぱい話したいことがあったのに。
しかし鹿島くんは視線の事など大して気にした様子もなく、おどけた風に口を開いた。
「いや、もしかしたらいつも真っ先に帰宅する俺がこの時間までここにいることが異常なことして、この学校の秘密組織に認識されてる可能性も……」
明らかに私を気遣うような口ぶりに思わず頬が緩む。
「ふふ、それもあるかもですね!」
――『それは機密事項にあたるから……』――。
「………………それもあるかもですね……」
「何故二回言ったの?」
「……さぁ?」
本当に学校の秘密組織に見られている可能性に思い至って、緩んだ頬が少し引きつったことは言えない。
と、戦々恐々としながら既に視線を感じない程度には歩いたところで、鹿島くんが会話の流れで聞いてきた。
「で、目立ってしまうって自覚があるうえで、どうして今日もお面を?」
「え?」
「え?」
――え? …………………………………………あれ、私もしかしてものすごく勘違いしてた?




