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18/21

再戦

 王都の各所で黒い煙が上がっている。


 魔物の軍勢の猛攻に、半日の時間を稼いだ。


 だが、門は破られ中に入られ――王都は荒らされている。


 今の俺は、通路を利用して魔物たちを倒していた。


 囲まれず、一箇所からやって来る魔物たちを倒せば良いだけ楽なのだが、建物がボロボロになっていく。


 大きな魔物が建物を壊して、俺の方にやって来た。


 その後に魔物たちが続き、流れ込んでくる。


 いったい、どれだけ倒してきただろうか?


 考えるのも馬鹿らしくなってくる。


 生き残っている騎士や兵士は、もはや数えるほどしかいない。


 怪我をして治療のために下がっており、頑丈な王城で休んでいる。


 俺一人だけ、魔物たちと戦っている。


 魔物たちが目指しているのは、王都にあるダンジョンだった。


 騎士が言っていた「蓋を開ける」――ダンジョンを破壊して、魔物たちが流れ込む穴を開けるため、というのは本当だったらしい。


 どうやら、バリアは魔王級だけを入らせないもののようだ。


 魔王級の竜王だけは、王都の周りをグルグル回って様子を見ている。


「魔物の軍勢を率いていたのはこのためかよ」


 朝からずっと色んな武器を使って戦っていた。


 パワードスーツのおかげで戦えているが、明らかに反応が遅くなっている。


 夜になり、暗い中で戦っていた。


 辺りにある灯りは、王都を燃やしている炎だ。


 妙に明るい。


「――俺は、いったい何をやっているんだろう?」


 魔物を倒している。


 それは理解しているが、段々と分からなくなってくる。


 何のために戦っているのか?


 誰かを助けるため?


 誰のために?


 俺の大事な家族は元の世界にいて、きっと俺のことを心配してくれているはずだ。


 なのに、異世界でどうして死にそうになりながら戦っているのか?


「爺ちゃん――婆ちゃん――俺は!」


 二人の顔が思い浮かんだ。


 両親の顔も思い浮かぶ。


 二人の顔は――笑っていた。


「うおぉぉぉ!!」


 ガトリングガンを投げ付け、武器を持ち替える。


 刀だ。


 どうして刀を選んだのか分からない。


 もう、集中力は切れている。


「お前ら全員、ぶった斬ってやらぁぁぁ!!」


 竜王が王都に入れないなら、勝てる可能性が出て来た。


 俺は刀を持って全力で振り抜く。


 するとどうだ――今まで以上の斬撃が放たれ、数多くの魔物が斬り裂かれた。


「なっ!?」


 目の前にいた数百の魔物が一瞬で灰に変わっていく。


 少しばかり余裕が出来た俺は、刀を構える。


 モニターを見ていると、どうやら経験値を貯め込んだ刀が強くなっているらしい。


 黒騎士の武器が成長していた。


 武具にも経験値が宿るとは聞いていたが、それは黒騎士の鎧も例外ではなかったのだ。


「ゴドウィンさんが、そう言っていたな」


 今まで何の反応もなかったが、ここに来て黒騎士の鎧も強くなっている。


 ――勝てる可能性が出て来た。


 押し寄せる魔物たちに向かって刀を振れば、凄い血しぶきが発生する。


 辺り一面に血が飛び散り、そして消えていく。


「やれる。やれるぞ!」


 俺がそう叫ぶと、モニターにアラートが鳴り響く。


 光の柱が消えかかっていた。


「嘘だろ!?」


 一体何が起こったのか?


 魔物は近付いていないはずだ。


 空を見上げると、そこには竜王の姿があった。


 光のバリアに張り付き、そして突き破って中に入ろうとしている。


「おい、ふざけるなよ。余裕を見せて、そのまま様子見に徹しろよ!」


 光のバリアが放電し、何やらまずい雰囲気を出している。


 周囲の魔物を斬り伏せて、竜王が降りそうな場所へと走った。


 だが、魔物が多くてどうしようもない。


 竜王は、光のバリアに向かって攻撃を仕掛ける。


 口からエネルギー弾を放ち、そして無理矢理破ろうとしていた。


「今になってどうして!?」


 すると、魔物の数が随分と減っていることに気が付いた。


 率いていた魔物の軍勢が減り、竜王が焦ったのだろうか?


「魔物を倒しても駄目、放置しても駄目――結局、詰んでるじゃねーか!」


 俺たちの努力は一体何だったのか!?


 そうして竜王が降りてくるだろう場所にやって来ると、ダンジョンの入り口が近い場所だった。


 ダンジョン前の広場にやって来ると、竜王が光のバリアを突き破って降りてくる。


 地面を踏みしめる竜王の体は、焦げており煙を出していた。


 再生しているが、そのスピードは以前よりも遅い。


 かなり疲弊しているようだ。


「無理をしてでも突破したかったのか」


 刀で斬撃を飛ばしてみるが、竜王の体には傷一つ――ついた。


 竜王の体に傷をつけ、そして血が噴き出ている。


 竜王の目が、俺に向けられる。


「届いた? そ、そうか。無理したから、今のお前は弱っているのか!」


 強化された刀なら、竜王に届くかもしれない。


 現状、可能性があるとすれば刀だけだろう。


 俺は竜王へと向かってジャンプした。


 直接斬るためだったが、竜王の大きな拳に殴られて吹き飛ぶ。


「くそっ!」


 建物を数軒ぶち抜いて、ようやく止まった。


 立ち上がってすぐに外に出れば、竜王が口から火を噴く。


 火が波のように押し寄せて来ると、マントが炎を防ぐ壁を作る。


「何もかも燃やすつもりか!?」


 炎の勢いが凄まじく、周囲の建物があっという間に消えてなくなっていくのだ。


 そして炎が止むと、竜王は天に向かって咆哮していた。


 辺り一面、建物が全て黒くなり崩れ――街並みが以前とは別物になった。


「――てめぇ!」


 斬撃を飛ばして斬りつけると、竜王が腕でガードをする。


 腕に傷が付いており、やはり弱っていた。


 このまま逃げ回りつつ、チマチマと攻撃していけば倒せるのではないか?


 そう思っていると、気付いたことがある。


「あいつ、魔石と素材を燃やしたのか!?」


 俺が回収して回っていた魔石と素材を、竜王は炎で全て焼き払っていた。


 辺りに魔物の姿はない。


「仲間ごと――消し炭にしたのかよ!」


 信じられなかった。


 そして、非常にまずいのは、俺が補給と整備を行えないことだ。


 刀の威力は上がっているが、それに合わせてエネルギーの消費量も増えている。


 つまり、補給をしなければ、先に俺の攻撃手段が尽きてしまう。


 さっさと勝負を決めないと――確実に負ける。


 そう思って無理して接近すると――それを待ち構えていたのか、竜王はその場で一回転して大きな尻尾で俺を叩いた。


 凄い衝撃に襲われ、気が付けば地面に叩き付けられていた。


 そして、竜王は地面に倒れた俺に向かって――何度もその大きな拳を叩き付けてくる。


 咆哮しながら、何度も何度も――その度にモニターにノイズが走り、そして装甲が軋んでいく。


「や、やめ――ろ」


 殴られる度に地面が沈み、俺も沈んでいく。


 そうして、竜王はふわりと浮かび上がると――口を大きく開けて赤黒い光を集め出した。


 これで俺に止めを刺すつもりのようだ。


 その光を見ながら思う。


 ――ここまでか、と。


 諦めるとか肩の荷が下りたというか、俺にしては頑張ったと思えてくる。


 消える時はほぼ一瞬だろう。


「拓郎、ごめんな。約束は守れそうにない。――美緒先輩、俺は――」


 竜王の放った攻撃に飲み込まれ、モニターが完全に死んだ。


 何が起きたのか分からないくらいの衝撃に、意識が飛んでしまうのだった。



 自分にしては頑張った方だ。


 意識を失った俺は、何度も見た夢を見ている。


 黒騎士が怒る夢だ。


 今も俺の前に立っている。


 俺は座り込み、黒騎士を前に笑って見せた。


「どうです? 俺にしては頑張ったでしょう? ――結局、俺は貴方のようにはなれなかった。ヒーローの器じゃない」


 俺はヒーローになれない。


 それがよくわかった。


 やっぱり、ヒーローとは凄いのだと再確認できた。


 黒騎士は俺に近付いてくる。


 褒めてくれるのではないか? そう思っていると、黒騎士が俺の胸倉を掴み上げてきた。


「ちょ、ちょっと!? どうしてですか! 俺だって頑張ったのに!?」


 黒騎士が怒っている。


「それがどうした?」


「頑張ったんです。俺なりにやれることをやって――それでも、貴方と同じ事は出来なかったんですよ!」


「――まだ、言い訳を続けるつもりか?」


 黒騎士に投げ飛ばされた俺は、どうして怒られているのか分からない。


「力を勝手に使ったのは謝ったじゃないですか!」


「違う」


「じゃあ、俺が弱いからですか? 俺だって強くなりたいですよ。勝ちたいですよ! けど、あんなのどうしようもない」


「――違う」


「なら、なら、なんで怒っているんですか!? 俺がいったい何をしたんですか! 怒っている理由を教えてくださいよ! 俺がどんな悪いことをしたんです!?」


「違う!」


 どれも違うという黒騎士は、俺に近付いてくると顔を近付けてくる。


 本物の黒騎士の顔を間近で見たが――迫力があった。


 俺の前で屈む。


「お前は最初から間違っている」


「え?」


「アレは俺の力ではない。お前の力だ。――お前が求めた、お前だけの力だ」


「な、なら、なんで?」


 俺自身の力なら、どうして怒られなくてはならないのか?


 不満に思っていると、黒騎士は続ける。


「お前が弱いのは罪ではない。肉体的な弱さはいずれ克服すればいい。だが、お前が弱いのは――」


 俺の胸元に指をさしてきた。


「――お前の心だ」


「心?」


 何を言い出すのかと思えば、精神論だろうか?


「心? ――今時流行らないんですよ。心で戦えるんですか? もしかして、精神的な強さがないからですか? あんなのを相手に、いくら心が強かったからって――」


 心が強くて、竜王に勝てるなら苦労しない。


 だって勝てなかったじゃないか。


 俺よりも心が強かった騎士や兵士たちは――負けたじゃないか!


 黒騎士が俺から指を離すと、立って両手を広げる。


「精神論? そうじゃない。お前は俺を目指しているのに何も分かっていない。お前は――自分の正義を貫く覚悟が足りない」


「――覚悟?」


 黒騎士は俺に説教を始める。


「家族を思って死んだ兵士を憐れんだな? 助けてやれなかったと悔やんだな? 馬鹿にするな!」


「そ、それがどうして駄目なんですか?」


「覚悟をして残った者に、そんな憐れみは冒涜だ。命をかけて守ろうとしたのだ。そして、お前が気にするべきは――逃げ出した民だったはずだ」


 そうだ。


 みんなが逃げ切る時間を稼ぐ。


 そのために残った。


「お前の行動は、ただ単に死に急いだだけだ。それは、ヒーローではない」


「やれるところまでやったんだよ。それに、俺はヒーローなんかじゃ――ない」


「いつまでも言い訳をするな! 反吐が出る。――守ると決めたなら、最後まで守り通せ! 目的を果たせ! 邪魔をする奴らがいれば、どんな手を使ってでも排除しろ! 正義を成すとは、そういうことだ!」


「そ、そんなの、暴論じゃないですか! 悪い奴を倒して、弱者を助けるのがヒーローだろうが!」


 黒騎士は俺の意見を鼻で笑っている。


「正義を行うとは――他者の正義とのぶつかりあいだ。正義を掲げた瞬間に、そいつは誰かの悪になる。その覚悟もないまま、正義を語るなど許されない」


 ダーティーなところがあるヒーローだった。


 独自のルールを大切にする黒騎士は――画面上ではかっこいいだろう。


 自分の正義を貫くためなら、多少の悪事だって働く。


 スカッとする展開も多く、本当に好きだった。


 全ては自分の基準で動く――誰にも指図など受けない。


 そこに俺は憧れた。


 だが、本質を見抜いていなかったようだ。


「俺は――俺はあんたのように極端になれない!」


 そんな極端な考えは持っていない。


 我を通してばかりではいられない。


 現実として――いや、俺自身が黒騎士の考えに賛同できなかった。


「おまえはそれでいい。お前は俺ではない。だが――諦めるのは許さない」


 黒騎士は俺の胸倉を掴んで立たせてきた。


「ヒーローは最後の瞬間まで諦めてはならない」


 言いたいことは分かる。


 だが、どうしようもないのだ。


 それに――。


「――俺はヒーローじゃない。それにもう終わりだよ。もう死ぬんだよ!」


 そんな俺に、黒騎士は怒鳴りつけてくる。


「自分への言い訳だけは一人前だな。お前は、誰かを助けたいと思い行動した。そして、お前は何人も救っている。そんなお前は――既にヒーローだ」


 黒騎士からそう言われるのが意外だった。


「俺が――ヒーロー?」


「俺の力を得て、お前は何をした? 何を望んだ? ――その力で復讐も出来たはずだ。だが、お前は同郷の者を守った。力に振り回されながらも、お前は守るために戦った。お前は弱いが、優しさを持っている」


 それは夢を見ているような気分だったからだ。


 それに、人を殺すこと何て思い浮かばなかった。


「どうせ俺は弱い人間ですよ。あんたの言う通り、怖かったんだよ! 力を得ても、借り物みたいでいつか使えなくなるんじゃないかって! そうなった時に、復讐されるんじゃないかって――保険なんだよ。怖いから――悪いことが出来なかったんだ。優しくなんてない。ただ臆病(おくびょう)で――」


 よく昔話にあるだろ? 調子に乗った人間が、ミスをして今までの報いを受けるお話が。


「違うな。お前はヒーローに憧れた。俺を真似ようとした。そして人を救った。だからお前はヒーローだ」


「俺は偽物だよ。あんたになれない」


「なる必要はない。お前は、自分の正義を貫け。そして、ヒーローが諦めるな。たとえ死ぬとしても、前のめりだ。心だけは負けるな。大事なのは勇気だ」


「勇気?」


 黒騎士が俺の右手を握った。


 すると、俺の左腕に銀色のブレスレットが出現してマントが展開されて――俺も黒騎士に変身する。


 黒騎士が俺に語りかけてくる。


「――思い出せ。お前はその力を使って何をしたいと願った? 誰を救いたかった?」


 俺の願いはヒーローになることだ。


 死んだ両親との最後の約束だ。


 強くてかっこいい――ヒーローになることだ。


 誰を? そんなの色々だ――多すぎて、誰とは特定できない。


「沢山の人を救いたかった――俺は、あんたみたいなかっこいいヒーローになりたかった」


 黒騎士は俺の答えに照れたように笑った気がした。


 顔は見えないが、そんな気がした。


「ならばもっと強くなれ。――俺の力を信じろ。お前には優しさも、正義の心もある。あとは、勇気だけだ」


 黒騎士が握った右手が、少し変化した。


 マントが右手に絡みつき、そして大きな手を作り出す。


 力があふれてきた。


「これは?」


「いい加減に目を覚ませ。そして忘れるな――お前の背中には、大勢の人間の命がかかっている。お前はヒーローだ。誰もが認めなくても、この俺が認めてやる」


「黒騎士!」


 黒騎士が俺の胸元に指をさす。


 徐々に現実に意識が戻っていく気がした。


 黒騎士がそんな俺にエールを送ってきた。


「――頑張れよ、後輩(ヒーロー)


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[良い点] この作品中、最も感情が動かされた回だった とてもよかった
[良い点] 泣いた!本当に感動な場面です!
[気になる点] 黒騎手の中の人ってなんなんだろ。セブンスなら先祖だけど、今回のは自問自答なのかな。
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