ドレスは武装
「まさか、そんな大変なことになっているなんて……」
ランディス子爵令嬢が言うには、隣国との開戦というくらい会議が紛糾してしまったのだという。
収拾がつかないため、彼女は王命により当事者の一人である私を迎えに来たというわけだ。
「全く、ベルアメール伯爵夫人はどうして穏やかそうに見えていつも問題の渦中にいるのよ」
「確かに……」
「まあ、男たちが取り合うのもわからなくもないけれどっ!」
「え?」
「……そういうところよね。ズルいわ」
「ランディス子爵令嬢こそ、ジョルシュ様と」
なぜか、ジョルシュ様の名前を出した途端、ランディス子爵令嬢は金色の目を細めた。
首をかしげると黒髪がサラサラと揺れる。
(見惚れてしまうわ。こんなふうに素敵だったら自信を持って生きていけるのかしら)
秘書官として働くランディス子爵令嬢は、才媛との呼び名高く、彼女が着たドレスは飛ぶように売れるという。
「その上、親切……」
「私のことを親切なんて言うのも、宰相殿を優しいというのも、イディアル・フォルス辺境伯令息が甘いなんて言うのもあなただけよ」
「……え?」
アシェル様は優しい、下の兄は私に甘い。確かに私が知っている姿と噂は違うけれど……ランディス子爵令嬢だって関われば噂と違って面倒見が良くて素敵な人だった。
「ああもう、いいわ! あなたは不思議な人ね」
「不思議?」
「行くわよ」
「どこに?」
「会議場に!!」
ランディス子爵令嬢は、私の手を引いて歩き出した。彼女が履いている靴の高いヒールがカツカツと音を立てる。
私は半ば引っ張られるようにパタパタと後を追いかけるのだった。
* * *
「それでどうして服飾店に?」
てっきり王城にある会議室に突撃するのかと思ったのに、ランディス子爵令嬢に連れてこられたのは服飾店だった。
「飾り気のないドレスにフリフリのエプロン。似合ってる! たぶん、男たちの視線を総なめにするだろうほどに合ってるわ!」
「ありがとうございます?」
「けれど、その格好で王城に行く気?」
「……それは、確かに。でも、そう言っていただけたなら着替えましたのに」
「ダメよ! あなたが持っている最近のドレスって全部どこかに宰相殿の色が入っているのだもの! 今日は自分の意見を言える、自立した女のイメージなのっ!!」
「服で変わるものですか?」
ランディス子爵令嬢は、金色の目をきっとつり上げると、赤い大人びたドレスを手にした。
彼女が着るのか、と思っているうちに試着室に押し込まれる。
試着室には店員が待ち構えていた。
「ドレスこそ女の武装であることをベルアメール伯爵夫人にわからせて差し上げて」
「かしこまりました」
「支払いはアシェル・ベルアメール伯爵にね。金額の上限は不要よ」
「それは腕が鳴りますわね」
「えっ!?」
あれよあれよという間にコルセットを締め上げられ、盛るところを盛られ、濃いめのメイクと大人びたアップヘアに整えられる。
揉まれに揉まれて1時間。鏡の前には今まで見たことがない私がいたのだった。




